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3千億年の眠りから  作者: 焔数
Certificate issue.
9/21

09 冒険者組合にて

 街に入ると景色がガラリと変わります。第二文明時代の構造物を補修して家として利用しているようですね。所々にこの文明の一般的な建築材とは材質の異なる金属が使用されています。


“要求。当該金属についてデータを求めます。”

“>詳細な情報を送信ください。”

“了承。データを送信します。”

“>受信しました。該当する金属を検索します。”

“>対象を魔法金属:マナルガムと確定します。詳細データを送信します。”

“受信を確認。”


 マナルガムは魔銀と閃鉄の合金のようです。魔銀は流体金属の一種で、魔力を帯びており若干の毒性を有します。閃鉄の方は我々の文明で建築材に用いられていた万能金属の1つです。対物理強度と対魔法強度を備えた素晴らしい建築材ですが、加工には高度な技術を要します。これらを高魔力下で合成すると魔銀と閃鉄の合金が出来上がります。魔銀の毒性を閃鉄が中和するため、正しい比率で配合すると魔銀の毒性を無くしてしまう事が可能ですが、閃鉄単体で使用する場合と比べると強度が低下します。ですが、このマナルガムと呼ばれる金属は魔銀の比率が多く、毒性を消去しきれていないように見受けられます。


「ちょ、ちょっと、マナルガムに触ったら危ないよっ!?」


 どうやらこの文明でもマナルガムの危険性は理解されているようです。直接触れると危険なので木や石で覆っているとのことでした。確かにマナルガム程度の毒性であれば石で覆ってしまえば毒性は抑えられます。基本的には人の手の届かない高さのみマナルガムが露出しているのはそういう理由でしょう。


「この辺りはそこまで裕福じゃない人も住んでるから、所々こんな風に補修されてない所があるんだよね」


 ラキシュの言葉通り、街の中央に向かうにつれてマナルガムが露出している建物は見られなくなっていきます。


 大きな通りを進み、冒険者組合を目指します。街のちょうど中心には周囲より高い建物が集まっていました。中央の一際大きな建物は行政施設の様です。その周囲にいくつかの建物があり、その中にこの国の言葉で『冒険者組合』と書かれた建物がありました。


 中は若干薄暗く、それを魔法を使用した照明で補っているようです。何故彼らは照明を起動しないのでしょう。故障しているのかと思い調べてみましたが問題なく機能しているようです。我々の文明の照明と比べれば単純な構造ですが、照明としての機能に問題はありません。動力も人工恒星イミュティから照射される光に含まれる余剰エネルギーを蓄積して稼働する仕組みのため、継続的利用にも支障はないはずです。


「照明を使用していないのには何か理由があるのですか?」

「え?照明なら点いてるよね?」


 そう言ってラキシュが指したのは外付けの魔法照明です。ですが、私が話題にしているのはそちらではなく、この建物本来の照明です。


「いえ、こちらの照明です」

「へ?壁?」


 石材に覆われているためラキシュにはただの壁に見えているのでしょうが、そこには照明を起動するためのスイッチが存在します。石材の外側からでも反応する仕様となっているため、触れれば起動するはずです。


「指先に軽く魔力を通して触れてみてください」

「え?……えええっ!?」


 ラキシュが壁に触れると照明が起動し、石壁を透過して部屋の明度を上げます。室内の明度を判断して一定の明るさに保つ機能が施されており、眩しいということはありません。


「な、なんだっ!?」

「何が起こったっ!?」


 ですが、冒険者たちは一斉に騒ぎ始めます。照明が点灯した程度で大袈裟ではないでしょうか。


「こ、これ、大丈夫なの?」

「問題はありません。ただの照明です」


 第二文明時代のものですが、特に毒性の類は見受けられません。点灯し続けたとしても害を及ぼすことはないでしょう。


「おい、お前たちが何かやったのか!?」


 そうしていると、部屋で騒いでいたうちの一人が怒鳴り声を上げながらこちらに近付いて来ました。どうやら、この現象の原因が私達にあると判断したようです。ですが、彼が激昂する理由がわかりません。


「その通りです。何を激昂しているのでしょうか」

「これは何だ!!何をした!!」

「ただ照明を点灯しただけです」


 そう説明したのですが、彼は納得する様子がありません。危険がないことを理論立てて説明したのですが、理解していただけないようです。


「身分証を出せ!!」


 そう要求されたのでアルタワイト社のアプリケーションを起動し、冒険者証を提示します。男性はそれにアルタワイト社のデバイスを向け、表示される情報を確認します。


「登録がないな。どこの新人……いや、Cランクか。貴様、偽造しているな!?」


 どうやら登録がないことから私の冒険者証を偽造と判断したようです。ある意味では正しい判断ですが、私の冒険者証は正規の手順で登録されています。


「情報の同期漏れでしょう。ここのシステムは同期機能が正常な状態ではないと聞いています」

「確かに故障しているが、情報は昨日更新したばかりだ」


 機能不全を指摘したのですが、情報は正しいの一点張りです。ですが、そこに別の男性から抗議の声が上がりました。


「嘘つけ、俺のポイントが反映されてなかったぞ!!」

「俺のなんか勝手に減ってたぞ!!」

「んなわけあるか、お前たちの勘違いだろうが!!」


 話が逸れ、言い合いに発展します。どうやら、冒険者ランクを決定するためのポイントに不整合が発生しているようです。


「少々確認させてください」


 情報防壁を展開してシステム端末に触れます。やはりワームプログラムに感染しているようです。ランダムな対象のポイントを特定のユーザに送る機能を持っています。本プログラムに対する対処は既に完了しており、オンラインの端末には感染しませんが、ネットワークから隔離されてシステムの更新ができていないここの端末には感染してしまっています。


「何者かにより改竄(かいざん)が行われているのを確認しました。特定の利用者にポイントが送られるようになっています」


 そう告げ、端末の情報を一旦隔離領域にすべてコピーします。情報の保全は証拠隠滅を防ぐために必要な措置です。


「現在の情報を証拠として保全しました。端末の正常化を実行しても構いませんでしょうか?」

「待て待て待て!!お前は何をしようとしているんだ!?」


 解析用に情報を保全したら次は原状復帰です。ですが、どうやら理解されていない様子。これはじっくりと説明する必要がありそうです。


「責任者に取り次いでください。説明します」

「俺がここの組合長だ」


 どうやら彼がここの責任者だったようです。別室で説明すると告げ、応接室に案内してもらいます。


「あと、端末には悪質なウィルスプログラムが感染していますので、しばらく使用しないように注意してください」


 説明は必要ですが、これ以上被害を増やすわけにはいきません。幸い冒険者証の方に感染した方は居ないようでしたので、端末だけを使用できないように冒険者証との通信機能をロックしておきます。これで悪質なプログラムの感染が広がる心配はないでしょう。


「では、説明するので案内してください」


 私はそう告げ、組合長の後に続いて奥の部屋に向かいました。


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