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3千億年の眠りから  作者: 焔数
AI meets girl.
5/21

05 治療

“スリープモードを解除します。”


 時刻通り、システムタイマーが私の意識を覚醒させます。隣ではまだラキシュが静かに寝息を立てていました。あの後、ラキシュと共にケシェの家に泊めて貰うこととなったのです。流石に部屋に余裕があるわけではないのでラキシュと同じ部屋でしたが。私は床でも問題ないと伝えたのですがラキシュが譲らなかったのです。結果として、私はラキシュと寝床を共有することになってしまいました。


 ラキシュを起こして出発の準備をします。もちろんそのままケシェを連れて行くことはできません。簡易医療ポッドに格納して運搬します。簡易医療ポッドであれば多少の戦闘があったとしても内部に格納された患者に影響がないというのも理由の1つです。


 簡易医療ポッドにケシェを寝かせ、背負います。残念ながら亜空間に生命体を格納することはできないので仕方がありません。内部は過剰魔力蓄積症候群用の無魔力薬液で満たします。この中に居る限り症状が進行することはありません。酸素等の生命維持に必要な成分の供給能力もあるため、呼吸にも支障はありません。


「驚かないのですね」


 医療ポッドはこの文明では明らかな異物です。液体に人体を沈めることには抵抗があるものと思っていましたが、ラキシュもレーシャも驚いた様子はありません。


「うん、その魔道具は遺物図鑑で見たことがあるんだ。結構有名なやつだよ。むしろそんな物を持ってる事にびっくりしてるくらい。」


 レーシャもラキシュも医療ポッドに対する知識はあったようです。ただし、普及している物ではないため実物を見たのは初めてとの事でしたが。説明の手間が省けたのは予想外に好ましい結果です。


「では、向かいましょう」

「ケシェをお願いします……」


 レーシャに見送られ、機人の巣と呼ばれている場所に向かいます。単独で向かう事も考えましたが、信頼を得ているラキシュが同行した方が受け入れられる可能性が高いと判断しました。


 機人の巣までは問題なく到達できました。危険な生物については予め位置を特定して避けておきます。それも、機人の巣に近付くにつれて数が減っていきました。機人……防衛用機装兵器が定期的に駆除しているのでしょう。周辺の生物の動きを見る限り、そもそも近付くのを避けている節さえあります。


「だ、大丈夫ですよね?」

「問題ありません」


 周囲の気配が変わったことを感じたのでしょう。ラキシュが明らかに緊張した様子を見せています。レーダーはこちらに向かってくる機装兵器を探知しています。けれど、遭遇したところで問題のない相手です。不必要に不安を与える事もないでしょう。安心するように伝えます。


「待って、機人が居る!!」


 暫く進むと、想定通り機装兵器に遭遇しました。それを発見したラキシュが止まるように伝えてきます。ですが、ここで止まる理由はありません。そのまま機装兵器の方に歩いていきます。


「待って、待ってってば!!」


 慌てて私を引き留めようとするラキシュですが、既に私は機装兵器の目の前までたどり着いています。私の背負っている簡易医療ポッドを確認した機装兵器はそのまま踵を返して救命用医療ポッドの方に案内してくれます。


「え?え?なに?どういう事?」

「ついてくるように、と言っているようですね」


 私はラキシュにそう伝え、機装兵器の後に続きます。ラキシュも困惑しながらそれに続きます。程なくして私達は救命用医療ポッドの前にたどり着きました。機装兵器は施設の入口に立ち、私達が不用意に侵入しないように警戒態勢を取ります。


「そこから先には進まないでください。目的地はここですので。」


 ラキシュにそう伝えて救命用医療ポッドの状態を確認します。管理サーバの情報通り、救命用医療ポッドは問題なく稼働できる状態にありました。問題がないことを確認した後、簡易医療ポッドを救命用医療ポッドに格納します。移し替える手間を省くため、救命用医療ポッドは簡易医療ポッドに接続して高度な治療を行えるように設計されています。正しくポッドが接続されたことを確認し、コンソールを操作します。


「30分ほど待てば治療は完了いたします」

「……30分?」


 失念していました。現在の文明では1日以下の時間については曖昧なのでした。


「そうですね、鍋いっぱいの水を強火にかけて、それが沸くまでの時間の3倍程度でしょうか」

「四分の一(かね)くらい?」


“要求。四分の一(かね)について。”

“>了承。情報を送信します。”

“受信を確認。”


 一鐘(ひとかね)が約二時間のようです。であれば、四分の一(かね)は約30分となります。私はラキシュの問いに頷きを返します。


 治療が終わるまでの間、食事を摂ることにします。私自身は空気中の魔力を補給すれば十分ですが、ラキシュはそうはいかないでしょう。亜空間に格納されている携帯食料を提供します。


「これ、食べれるの?」

「はい、問題ありません」


 我々の文明において、この手の食料の保存装置は内部の時間経過を停止する事で劣化を防ぐ仕組みになっています。実際、亜空間に保管されていたこの食料も3千億年が経過した今も一切劣化していません。


「それにしても、機人が襲ってこないのってなんか不思議。問答無用で襲われるものだと思っていたから」

「それは、彼らが防衛している区域に侵入しようとしたからでしょう。現在私達が居るこの近辺は、救命のためであれば侵入が許されている区域です」

「エルさんは物知りなんだね」


 そんなやり取りをしている間に治療が完了しました。体内に残ったものも含め、無魔力薬液が排出されます。そして終了を告げるブザーが鳴り、ポッドの扉が開きました。


「あれ、ここは?」

「目を覚ましましたね。体調はどうですか?」

「……。あ、苦しくないよ」


 過剰魔力蓄積症候群も含め、ケシェの有していた疾患は完治していることが示されています。身体に浮かんでいた斑点も消えています。当人に体調を確認し、問題ないことも確認が取れました。これでケシェが病に苦しめられる事はなくなるでしょう。


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