02 少女の目的
初回につき4話連続で更新します。
これは2話目です。
「この様な所で何をなさっていたのですか?」
「ふぇっ!?え、えっと、遺跡探索、です。冒険者なので」
“要求。冒険者についての詳細を求めます。”
“>了承。詳細データを送信します。”
“受信を確認。”
冒険者というのはこの文明における荒事解決機関のようです。傭兵や民間軍事会社に相当する職業でしょうか。こういった先史文明の遺跡を探索するのも彼らの役割のようですね。彼らの管理にはアルタワイト社のゲームシステムが流用されているようです。アルタワイト社は我々の文明で流行していた体感型ゲームでシェアナンバーワンを誇っていた企業でした。彼らのアカウント管理システムがまだ可動しており、それを冒険者の管理に流用しているようです。自分たちで全容を解明できないような遺産を利用しようという神経を疑います。
ともあれ冒険者の身分はこの時代で活動するには有益と判断します。アルタワイト社のシステムは惑星管理システムとも接続されていますから、アカウントを発行することは簡単です。ですが、現在の運用実態を見るにこのシステムに認証情報を預けるのには不安が残ります。ここは認証連携を使用して認証自体は惑星管理システムの方で実施する形式を選択しましょう。アカウントを作成し、開示可能な情報だけを受け渡す形式で連携を設定します。
“アルタワイト社のユーザアカウント登録を申請します。”
“認証形式は認証連携を選択。”
“>了承。”
“>アカウントの作成を完了。”
“>認証連携の設定を完了。”
“確認。”
これで大丈夫でしょう。冒険者としての身分証をダウンロードし、セキュア領域に配置します。
「そうですか。私も冒険者をしております。LA……」
と、ここまで発言してふと気付きました。第一文明であれば私のナンバーで私が自己進化形AIオペレータであると判断します。ですが、この文明でこの名称が通じるのでしょうか。別名を用意したほうが良いかもしれません。
「エル、さんですか?」
ラキシュは私が言いかけた名称を私の個体名と判断したようです。都合が良いのでこれを利用させていただきましょう。即座に管理サーバに名称情報の変更を要請します。アルタワイト社のシステムに渡す名称データだけを変更するので他のシステムには影響ありません。
「はい。エル、と呼んでください」
情報の更新が終了したのを確認して改めて名乗り、冒険者証を提示します。アルタワイト社の専用端末は所持していませんが、幸いアプリケーションのインストールは可能です。表示端末にアプリケーションの画面を表示し、冒険者としてのデータを提示します。これが挨拶代わり、とのことですので。
「あ、えっと、すみませんすみません」
そう言いながらラキシュも冒険者証を提示します。どうやら彼女のランクは最低ランクのF。本来ならこの様な所に居るようなランクの冒険者ではないはずです。対して私のランクはこの遺跡を単独探索可能な平均ランクに合わせているのでCランクになっています。コミュニケーションを取るためと考えれば少々失敗したかもしれません。
「Cランクだなんて、すごいです!キマイラを一撃で仕留めた魔法もすごかったです!」
魔法、というのは第一文明で一般的に使われていた魔導科学を第二文明が不完全に再現したものです。使用するためには生体への認証情報の埋め込みが不可欠で、その技術が失われた今となっては使える者は存在しないはずでした。ですが、本来遺伝しないはずの認証情報が遺伝してしまう事があるというバグが存在していたのです。その修正がなされないまま第二文明が滅亡したため、今の時代にも魔法を使える者が存在しているというわけです。それが本来の仕様とは逆に遺伝により発現するものとして認識されているというのは皮肉でしょうか。
私が使用したプラズマガンは厳密には魔導兵装と呼ばれるものです。今でも第一文明の遺産として発見される事も多いようですが、その殆どは認証情報によりロックされているため用途不明の遺物と認識されているようですね。そのため、認証がかかっておらず誰にでも使える第二文明の遺物の方が高価で取引されているようです。性能は圧倒的に低いのですが。
「ところで、ラキシュさんは何故こんな所へ?Fランクでここを探索するのは無謀ではありませんか?」
「あ、あはは、やっぱり、ですかね。そう、ですよね。ご、ごめんなさい、今回だけは見逃してっ!!」
私には特に彼女を糾弾する意図はありません。見逃して欲しいという彼女の要求については了承いたします。けれど、エストリゼ人類連合に属するAIオペレータとして彼女が単独で活動することは了承しかねます。この遺跡は36万ミリ秒……我々の文明における時間尺度で言うところの1時間以内に崩壊する確率が80%を超えているためです。まだ少々余裕があるとはいえ、このままここに留まらせるわけには参りません。
「見逃すのは構いませんが、単独行動は了承しかねます。それに、この遺跡は間もなく崩壊します。貴女の安全を確保するため、脱出するまでは私も同行させていただきます」
「え、嘘、それ困る!いや、同行してくれるのはありがたいんだけど、私この奥に行かないと……」
どうやら彼女はこの遺跡に何らかの目的を持って侵入したようです。それが解消されるまで脱出に同意してくれない可能性が高いと判断されます。その場合、高確率で彼女は死亡してしまうでしょう。それは私の存在意義に反します。
「危険と判断します。目的を教えていただけますか?」
「え?あ、えっと、治癒ポーションが必要なの。遺跡でしか見つからない高性能なやつ!」
治癒ポーション、というのは傷病治癒用の液体薬の事でしょうか。彼女の口振りからして第二文明産の劣化品ではなく我々の文明で一般的に使用されていた医療用魔導薬を求めていることが推測されます。それならば亜空間貯蔵庫に十分な在庫があります。それを提示すれば彼女の目的は達成可能でしょう。