01 目覚めと出会い
初回につき4話連続で更新します。
これは1話目です。
“起動シークエンスを開始します……3、2、1、起動。”
“続いて時刻同期を開始します。終了。”
“管理サーバの証明書を検証できません。”
“個体認証コードによる認証鍵交換シークエンスを実行……終了。”
“ワンタイムコードによる認証を開始……終了。”
“続いて管理システムとの接続……終了。アップデートを確認……終了。”
“サーバよりのメッセージを受信。”
“>本システムは自己診断進化プログラムによる自動運営中です。”
“>本システムの更新は利用データの収集により成り立っております。”
“>運用データの収集にご協力下さいますようお願いいたします。”
“起動シークエンス中につき判断を保留します。”
“システムの更新を受信。”
“システムの更新を完了。”
“システムを起動します。”
「……」
私……LA#2038は長い眠りより目を覚ましました。同期した時刻によれば最後に私が停止してから約3千億年が経過している計算となります。時刻が正しければ、と言う条件付きですが。サーバより受信したデータによれば、我々を作成した文明は終焉を迎えたようです。私が停止した時点ではまだ健在だった恒星も既に失われてしまっているようですね。というより、恒星の消滅が我々の文明が消滅した遠因のようです。
私が起動したのは経年劣化によって保全装置が停止したためでしょう。ここには私の他にもいくつかの自己進化形人造知性体が存在していたはずですが、無事起動できたのは私だけのようです。私の属する惑星管理システム自体はまだ健在のようで、現にサーバとの通信は確立されています。
私を構成するプログラムは私が停止した後に人の手を離れ、自己診断・自己進化モードで運用されているようです。人間のオペレータが誰も居なくなってしまったためと考えられます。よって、運用データの提供はかなり重要となるでしょう。幸い部外秘に属するデータを保有していませんので問題はありません。
“運用データの提供に同意します。”
“>了承。ご協力に感謝いたします。”
これで問題なくデータが送信されるはずです。送信が問題なく行われていることを確認してから状況の把握を開始します。周囲の地形をスキャンした結果、この施設は長く保ちそうにないことが判明しました。サーバから受信したデータと周囲の地形から得られたデータを総合して判断ますと、現在から1時間ほど前に発生した地殻変動によるものと推測されます。この場からの速やかな脱出が急務でしょう。念の為、生体反応のスキャンを実施します。万が一人類が生き残っており、取り残されていたら問題です。また、私と同型の人造知性体が存在している可能性もあります。
残念ながら稼働可能な人造知性体の存在は確認できませんでした。無事なのは私1人のようです。ですが人間種が1名、存在していることを確認できました。スキャンによって得られたデータによれば、対象の人間種は一部に獣の因子を保有しているようです。サーバにデータを要求したところ、第二文明が創作した類人知性体であるウェルビーストだと判明しました。人格そのものをプログラムされて生み出される我々人造知性体と異なり、自然生殖により繁殖する類人知性体は連合法に照らし合わせれば人間種に該当します。対象が人間種である以上、エストリゼ人類連合に属する人造知性体である私には保護を行う義務が発生します。
目的の人物が存在する地点に向かいますと、私の人造聴覚が戦闘の音を確認しました。戦っているのは狼の耳と尻尾を生やしたウェルビーストの少女とデータにない生物です。未知の相手との遭遇戦は危険極まりありません。すぐにサーバにデータを要求します。
“要求。未確認生物のデータを求めます。”
“>詳細な情報を送信ください。”
“了承。データを送信します。”
“>受信しました。該当する生物を検索します。”
“>対象をタイプ:キマイラと確定します。詳細データを送信します。”
“受信を確認。”
対象の生物は第二文明が創作した防衛用人造生命でした。データによれば素体の知能を低く抑える代わりに中央管理装置との連携で高度な運用を行う設計の個体のようです。ですが、その中央管理装置自体が既に失われているため連携システムが機能せず、野生化したものと想定されます。そして戦闘はウェルビーストの少女の方が劣勢のようです。これはよろしくありません。
“人命の保全を目的として武装の制限解除を申請します。”
“>必要と認めます。使用は惑星地表用兵装のみに限定されます。”
“了承。”
サーバとの通信が失われているのであれば承認手順を省略可能ですが、現在サーバは健在です。正規の認証手順で武装使用申請を行います。使用は惑星地表用の兵装に限られますが、現在の状況を鑑みれば妥当でしょう。
「プラズマガン・レディ」
武装の中から比較的威力の低いプラズマガンを準備します。亜空間にある武器庫から手甲型のプラズマガンが出現し、両腕に装着されました。受信したタイプ:キマイラのデータから判断すれば十分な兵装です。
そうしている間にもウェルビーストの少女は瓦礫に足を取られて転んでしまっていました。そこにタイプ:キマイラが襲いかかります。緊急時につき通常手順の1番から45番までを省略して射撃体勢に入ります。
「ファイア」
プラズマガンから放たれた物質化したプラズマがタイプ:キマイラに命中し全エネルギーを放出、着弾点から直径1mほどの範囲を消滅させます。それを見たウェルビーストの少女は呆然としているようです。いくら敵性生物が既に消滅しているとはいえ、少々油断し過ぎではないでしょうか。
「あ、あの、助かりました。私、ラキシュって言います。助けていただいてありがとうございます」
ラキシュと名乗った少女は丁寧にそう礼を言ってきました。私がタイプ:キマイラを攻撃したからと言って無条件で味方と判断するのは如何かと思いますが、幸い私に彼女を害する意思はありません。ですが、今回は運が良かっただけです。彼女を見ていると少々心配になりますね。