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#6 「いざ行かん。アンネちゃんと手を繋いで街頭デート!」

 桜子は首都『 フィリーア・レーギス』の街並みに興奮を抑えきれずにいた。


 昨晩寝泊まりした宮殿や公王府を出る際、その建物の巨大さと威風堂々たる佇まいにも驚いていたが、それ以上に目の前に広がる異国情緒に感動していた。


 西洋風の建物に石畳の道路。その道路には車が走っていた。車と言っても桜子の見慣れた乗用車ではなく、豪華な馬車の御者席にハンドルを取り付けたようなアンティークなものだった。しかし、動力は『聖石』を使用しているのだろう。ガソリンエンジンのような騒音はなく、その駆動は静かなものだった。


 聖石を基盤としてインフラが整えてあるためか大都市であるにも関わらず小綺麗な印象を受けた。


 桜子たちがいる場所は小高い丘になっていたため都市が広く見渡せた。

 都市全体を囲むように造られた石造りの防壁は圧巻だった。


「それで、アル。どうやって『グロービス』っていう都市に行くの? 」

 桜子がアルベルティーナに尋ねた。


「先ずは駅に行く。そして、グロービス行きの列車に乗る。以上。大体、半日くらいで着くと思う」


「列車があるの? ていうか、乗ってるだけで着くなら全然心配すること無かったな。色々準備してもらったけど」

 そう言って桜子は簡単な着替えなどが入った肩掛けカバンをポンと叩いた。


「ところで、アンネちゃんは何をやってるのかな?」


 自分の足にしがみ付くアンネに桜子は満面の笑みで問いかけた。


「アンネリーゼ様、外に出たこと無かったから怖いですよね?」


 アンネは恥ずかしそうに頷いた。


「へぇ~、そうなんだ。確かに王様って城から出ないイメージはある」


「でも、困ったわね。無理やり連れて行くわけにもいかないし……」


 アルベルティーナはアンネの顔を覗き込もうとするが、アンネは更にギュッと桜子の足にしがみ付いた。

 その様子を見ていた桜子はアンネに優しく問いかけた。


「アンネちゃん。どうして怖いと思うの?」


アンネは少し考えるが、分からないとジェスチャーした。


「多分それは、知らないから怖いって思うんだよ。知らないモノは怖い、だから不安になる。それはアンネちゃんだけじゃなく誰でもそう。」


「サクラコも?」


「うん。私なんて昨日こっちの世界に来たばかりだから、アンネちゃんより知らない事がいっぱいある。初めてづくしで不安もいっぱいあるよ」


「そんなふうにぜんぜん見えない」


「アンネちゃんよりお姉さんだもん。我慢してるだけ」


 桜子の足にしがみ付くアンネの手が少しだけ緩んだ。


「だから、いろんなものを知る努力をしよう。そうしたら怖くなくなるよ。先ずは一歩を踏み出すこと。私と一緒にいろんなことを勉強しよう」


 桜子はそう言うとアンネに手を差し出す。アンネの表情は綻び、差し出され手をしっかり握った。桜子はその様子に満足の笑みを浮かべた。


「そう言えば、アンネちゃん外に出るのは怖いのに、初めて私と会った時は怖くなかったの? 全然知らない人だったのに」

「サクラコはやさしそうだったから、だいじょうぶだった。あと、犬っぽいから」

「アル、私って犬っぽい?」


 アルベルティーナは桜子に犬っぽさを重ねながら首を傾げた。


「でも、ほら、やっぱり心が清らかな幼女には私の安全さが分かるんだよ」

「幼い子には貴女のドロドロで歪みまくった色欲が理解できないからだと思う」


 呆れるようにそう言ったアルベルティーナだったが、内心では桜子に感心していた。言動に危なさを感じるが、幼いアンネリーゼを大切にしてくれている事は充分伝わってくる。


「貴女のこと、ロリコン変態クソペド野郎って思ってたけど、少しだけ見直したわ」


「もしかして褒めてくれた?」


「評価的にまだマイナスの域を出てない」


「手厳しいな、アルは。それで、駅にはどう行けばいいの?」


「貴女の頭の上から指示するから、言われた通りに歩いてくれれば良いわ」


「だったら、駅に着くまで街を見て歩けるよね。それじゃ、いざ行かん。アンネちゃんと手を繋いで街頭デート!」


 アンネは桜子の勢いに任せ「オー」と掛け声を上げる。

 その一方で、アルベルティーナはドン引きしていた。


「当分は評価マイナスから抜け出せそうにないな……」


 そう呟くアルベルティーナと、状況が余り分かっていないアンネと、デートに心躍らせる桜子の三人は駅を目指した。

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