#2 「娘さん(幼女の方)をお嫁に下さい!」
桜子の妄想はまだ続いていた。
(そうだ、アンネちゃんと旅に出よう。見知らぬ大地を二人で冒険するんだ。辛く険しい旅路になるかもしれないけど、二人なら乗り越えられる。だけど、どこかで定住して温かい家庭も築きたいな。海の見える小さな家が良いな。そこで二人で暮らすんだ。そうしたら、ご両親に挨拶しないと。常識のない女だって思われたら嫌だもの!)
「アンネちゃん! 私、アンネちゃんのご両親に挨拶したい!」
「それは殊勝な心掛けですね。聞きましょう」
桜子は背後から聞こえた大人な女性の声に驚き、のけ反った。
「ふぁッ! いつの間に!」
「アナタが物思いにふけっている間にです」
その声の主はアンネリーゼと同じ瞳、髪の色をしていた。顔立ちもよく似ていることから近しい親族であることは間違いなかった。年の頃はアンネリーゼの姉にしては年が離れていると感じるが、母親にしては若いといった絶妙な見た目であった。
「アンネリーゼさん、更に老け込みましたね。三十代中頃に見えます。」
その女性は桜子の失礼な言葉を意に介すことなく話し出した。
「私は『テレージア・ブラインミュラー』。アンネリーゼの母です。この国で執政官を務めます。貴女の名前は?」
「一色桜子です。どこにでもいる普通の女子高生です」
そう自己紹介した桜子だったが、次の言葉で口ごもる。
「あの……、大変申し上げ難い事がありまして、アンネリーゼさんなんですけど……」
「ええ、その子供がアンネリーゼなのでしょ? 母親ですので見れば分かります。『逆行の聖石』を使ったのですね。使える者が存在するとは驚きです」
テレージアは驚きなどと言っているが、先程から眉一つ動かさず淡々と喋っている。
桜子はその場に両ひざをつくと正座した。そして、深々と頭を下げる。
「女、桜子。責任を取ってアンネちゃんと一生を添い遂げます! 娘さん(幼女の方)を私に下さい!」
「ダメです」
即答だった。桜子が食い下がる間もなくテレージアは言葉を続けた。
「私は今、貴女の処分をどうするか考えています」
そう言ったテレージアの表情は冷たかった。その表情からは、感情といった内なるものを一切感じ取ることはできなかった。
「それって……、どういう意味ですか?」
テレージアの言葉に恐ろしさを覚えた桜子は思わず聞き返した。
「言葉通りの意味です。何も難しく考える必要はありません。貴女はこの公国の王である公王アンネリーゼに危害を加えた。その事実は如何ともし難い。」
「あれは事故だったし……。それに私は無理やりここに連れて来られたわけで……」
「確かにアンネリーゼの我欲が招いた事であるのもまた事実。聖王陛下に取り入ろうとする兆しは前々からありました。それを止められなかった私にも責任はある。しかし、こちらの世界にもルールはあります。アンネリーゼがこの状態では公務を行うのは不可能。貴女は公王ひいては国に害を及ぼした。国家転覆罪とも取れる。そんな者を見過ごすことはできません」
テレージアはアンネリーゼと似たような容姿ではあるが、纏っている空気は別物だった。
アンネリーゼも高圧的ではあるがその言動は感情的であり、人間味を感じられた。しかし、その母親の言葉は冷淡無情といった感じで表情もキツく、とても冷たく感じられた。
それ故に桜子はテレージアに対して恐怖を覚えた。
「貴女は先程、責任を取ると言いましたね。でしたら死罪をもって責任を果たせますか?」
「冗談……ですよね?」
桜子は顔を引きつらせながら聞き返した。答えはもちろん分かっていた。
「そう聞こえたのなら残念です」
(やばいぃーーー! どうする、どうするよ私! 助けてアンネちゃん! アナタのお母さん、桜子絶対殺すウーマンなんですけど!)
桜子は幼女姿になったアンネリーゼに視線を送る。
彼女は桜子の様子などどこ吹く風と言わんばかりに、幼女化した際ぶかぶかになり脱げ落ちたドレスで遊んでいた。
(アンネちゃん、キミはいつも可愛いよ……)
桜子は一瞬表情が綻ぶが、すぐに真面目な顔になった。
(アンネちゃんは可愛いけど、どうしよう本当に。テレージアさんを幼女にして逃げるという方法は……。ダメだ、テレージアさん本人がさっきのアンネリーゼさんみたく攻撃してくる可能性もあるし、警戒されてる。そもそも、この聖石ってヤツの使い方が全然分からない。アンネちゃんを人質なんて論外だし……どうする、私)
「衛兵を呼びアナタを拘束します。大審院にて判決を下すことになるでしょうが、形ばかりのモノですので期待はしないでください」
そうテレージアは冷たく言い放つ。
それに対し桜子は「あ……」と小さく呻いた。
「逃げると言うなら、今この場で私が首を斬り落としますよ?」
「いや、そうじゃなくて。また、くしゃみが出――」
クシュン!




