第3話 なんかメチャクチャ天からいろんなモン降り注いできたけど、今回は俺のせいじゃねーからな! 多分
「そりゃあ確かに街一つぶっ飛ばしたぜ? でも、3年前の事だし、わざとじゃあない。死人も出てない。それに伝説の武器没収とハンター資格消失でケリついたじゃねーか」
今更、ウジウジ言われても困るぜ。
緑の鎧でヘルムとメガネの組み合わせがアンバランスである種のマニアに受けそうな小娘の『大罪人』という言葉に遺憾の意だ。
「違います。この度、エスペラ王国では法改正で『独り身の男はカップルの男女に対して連行の際の暴力は厳禁』という法律が制定されました」
あ、エスペラってのは今、俺のいる国の名前な。
っていうかすげえ法律だなぁオイ!
ピンポイント俺じゃねえかターゲット!
「法律制定から1ヶ月、貴方の行動には目に余る物がありました。破局させたカップルは54組。1日1.5組のペースです」
そりゃあ、そんな法律なんざ知らねーもん。
聞いてねーもん。
俺がそういう情報を掻き集めないタイプって知ってて水面下で作りやがって悪意満載じゃね?
ってゆーか、カップル別れたの俺のせいってなんでバレてんの?
「確かにボコボコにして引っ立ててるけど、破局との因果関係証明できるんですか! 僕は悪くありましぇーん!」
「黙りなさい悪魔! 貴方以外に原因はありません!」
おお怖。
言うに事欠いて悪魔ですよ。
でもよ、俺のはあくまで商売。
浮気された〜うわーんって泣きつかれたから依頼を受けてるだけで、決して無差別にカップルブレイクさせてるワケじゃねーんだぜ。
「これ以上の問答は無用です! 大切なのは貴方のせいで苦しんでいる人がいる事実です!」
「この世にカップルが存在する事で苦しんでいるボクチンたちの嘆きは無視ですか?」
……ガン無視しやがった。
奴ら8人が一斉に城門から飛び降りてドリルを回し始めた。
あー、一応言っておくけど敵さんのドリルタイムに攻撃なんて野暮な事はしねーよ?
変身ヒーローのお約束と一緒だ。
それに奴らがどんなアイテムを引き当てるか興味アリアリだしな。
「ノストラダムスの……預言書?」
メガネメッ娘が引き当てたのはどう見てもSSR以上の伝説っぽい。
見るからにヤバイ赤いオーラが分厚い書に充満してやがる。
他のメンツは、名刀・菊一文字(R)で居合の構えを取る長身男とそのオカッパ彼女は真っ白なひのきの棒(R)。
女と交換させられた大盾(R)おそらく第50世代くらいの有名人使用品を持って一番前に躍り出たタンクを務めるであろう出しゃばり巨漢の陰でピンク色のリバイバルデザインの与一の弓(SR)を抱きしめたツインテボインが「かわいい〜」などと唸っている。
それを怪訝そう見ている女はトゲバット(R)で同じく(R)フレイムソードを引いた男が肩を叩いて慰めイケメン。
メガネメッ娘の連れの男は第40世代産のゲイボルグ(SR)ここはカップルで引きが良い。
「どうしたモンかね」
禁断の杖を取り出しながら考えてみる。
程よくバランスの整った8人だが、SSRを引いたメガネメッ娘が少々面倒だ。
武器なら能力は想像しやすいが、書などのアイテムとなるとその効力は予想しきれねぇ。
とりあえず、
「潰す!」
禁断の杖を8人の先頭の盾デブに向けてエネルギーブッパする。
赤いビームはともかく、キラッと出てきた星のエフェクトがウゼェキモい。
が、威力は抜群で大盾ごと巨漢を彼方へ弾き飛ばした。
「嘘でしょ!?」
その際、残りの7人が左右に散るが、驚きが大きいのはツインテボイン。
彼氏のあまりの弱さにか?
本来の力を出せない伝説じゃ無理もねぇ。
カップルじゃねぇ奴等のアイテムの交換はご法度。
赤い糸が見える俺だけに分かる悲しい現実だぜ。
「えい」
神速で近づいて、可哀想なのでちょっとだけ優しくツインテボインの首筋を叩いて気絶させる。
残り6人は正真正銘のカップル。
再び固まって男を前衛にするように陣取ったが、どうしてやろうか。
「増援を要請しろ!」
「ミリィ! その書の能力は?」
「えっと、1999年7の月……人類が滅亡、する?」
一応、今は1999年7月7日だが、こりゃ外れSSRでも摑まされたか?
レア度と能力が釣り合っていない事なんて良くある。
とりあえず、男はブチのめして、女は下着にひん剥くか。
「あん?」
俺の真上を突然ゴォォォと音を立てて数体の何かが飛んで行った。
次の瞬間、メッチャ矢鱈に光の柱が降り注いで、前の騎士カップルたちを貫いていった。
「なんじゃこりゃああああああ!!!」
手が! 足が! 胴が! 頭が!
血を撒き散らしながら転がっていく地獄絵図。
「おいぃぃ!」
俺の怒声に反応したのか、真上を高速で旋回した何か達の内三体がその動きを止めて俺の前に舞い降りた。
全身金色のラバースーツに身を包んだ一回りデカイ人型。
特徴的な頭の輪っかと背中にある鳥のような翼。
薬指に絡みついた赤い糸が心臓に突き刺さっているそいつら。
初めて見るそれが、天使と呼ばれた悪魔である事に俺は気付いた。