第2話 お前ら恵まれたリア充に! 俺の心の痛みが! 苦しみが! 悲しみが! わかるわけねぇだろうが!
俺が天にドリルを投げると同時にバカップルもドリルで地面を掘り始めた。
1日一回、アイテムを掘り当てるまでドリルを扱うことが出来る。
「Rかよ!」
「私はSRだけど!」
二人とも一発で引き当てたようだ。
男は長い槍……見た感じ後期世代の蜻蛉切りか。
一方、女はSRだが、自分が当てた竜殺しっぽい大剣を持ちきれず地面に落とした。
「貸してくれ!」
男の方が駆け寄って大剣を持ち上げて構える。
どっしりとした正眼が意外とサマになってるじゃないか。
女の方は魔法陣を呼び出して蛇が絡んだセンスの感じねぇ杖を取り出す。
見た感じSSRだろうが、脅威はゼロ。
SRの大剣のが上。
と、言うのもドリルで掘り当てたばかりの武器は強力な御目見得補正が付く。
特撮ヒーローの新フォームがメチャクチャ強いアレと同じだ。
つーわけで基本は掘り当てた武器で戦う。
「さて、俺の武器はァ!」
目を閉じてそれっぽく新しい得物を迎え入れる。
右手に収まる力はS・S・R!
その名は第9世代産・禁断の杖!!
古ければ古いほど力を帯びる伝説のアイテムにおいて第9世代は上物!
おそらく俺以外は発掘不能な未知の天空には地面よりも高レアの伝説が数多く残ってるのだ!
「しかし、杖か。剣の方が良かったがな〜ってなんじゃこりゃああああああ!!!」
ぜ、全身ピンクの、宝石ゴテゴテの、お花が先端にちょんと乗って……魔法少女ステッキじゃねーかクソが!
「ぶわはははははは!!」
「くふふふふふふふ!!」
敵として対峙しているカップルはおろか遠巻きに見ていた観衆どもから大爆笑が巻き起こる。
「魔法少女〜おっさん!」
「契約してしまったのか!」
「クーリングオフ出来ませんよ〜」
ああ。
こういうのダメだわ。
思い出しちまう。
「お前、一生恋人出来なさそう」
「やだ〜あの人、キモ〜い」
ー「怖いよ、お前」ー
「うぉるせぇぇぇぇ!!!!」
禁断って何よ?
どこのどいつが造ったのか知らねーが!
「こんなモン、作るんじゃねーよ!!」
禁断の杖でカップル男を殴り掛かる。
打撃武器じゃない?
知った事かぁッ!
「ぐぼああああああ!!!」
受け止めようとしたSR大剣を砕いて横腹を抉る。
そのまま振り抜くと天高く舞って頭から地面に落ちる。
「ひいいいいい!!」
死んじゃーいねえが、その凄惨な様は中々のメッセージになったらしい。
女の方が腰を抜かして失禁。
後ずさりながら俺に手を伸ばすお馴染みの命乞いポーズだ。
「ま、まままさか、じょ、女性を、殴ったり、しませんよね??」
これが少年漫画の主人公とかだったらスマートで平和的な解決もあるんだろうが、
「お前だけ助かろうとする魂胆が醜いんだよ!」
同じようにぶっ飛ばし、男女平等完了。
運命で結ばれていたんだから同じ運命を辿れた事を喜べ!
☆☆
二人を裁判所まで引っ張り、最低限の治療を受けさせた後で裁判は滞りなく終わった。
依頼人とシタ女の離婚は成立。
慰謝料はシタ女が共有財産の放棄で相殺、間男の方は300万と中々相場通り。
そして、別れ。
どういう訳か、俺と戦って破れた場合、そのカップルの赤い糸はブチ切れる。
今、遠目に見えるシタ女と間男の糸は切れて宙を彷徨っていた。
その後、宙ぶらりんになった糸がどうなるかはわからねぇ。
俺のように一生ぶら下がったままか、それとも別の誰かを見つけるのか、はたまた繋ぎ直すのか。
ま、さっきから目を全く合わさないあのザマを見ると再構築はねーわな。
「40年……」
せっかく潰してやったのに、ハゲブタ野郎がグズリ始める。
「40年かけてやっと! やっと出会えた! 運命の相手だったのにぃぃぃぃ!!」
やっぱりこうなった。
そりゃあ、40年かけて最初で最期の恋だとオメェは思い込んでいるよ。
見るからにあれな容姿じゃあ、な。
だが、運命は間違いなくあいつじゃねぇ。
お前の運命の相手は遠くの遠く、遥か彼方の東側に繋がってやがる。
どんなブサイクか、はたまた美人かはわからんが。
「……すみません。恥ずかしい真似を」
「まったくだぜクソッ!」
泣き止むまでの15分間。
変な注目浴びまくる最低の時間だったぜ。
「気分変えてよぉ、東にでも旅するんだな」
「……そうします」
「で、二度と俺に関わるんじゃねぇよ」
「はい……ありがとう、ございました」
「ケッ! あばよ」
俺はそう吐き捨ててハゲブタな依頼人の前から消えた。
☆☆
気分が悪ぃ。
あんなハゲブタでも繋がってやがる。
そう。
この世の中、赤い糸が繋がっていない人間を探す方が難しい。
どんな奴でも誰かと繋がる。
一度切れたとしても今度は別の誰かと。
死別したらその想いは糸の消滅を持って昇華する。
俺だけが赤い輪の外側にいる
俺の糸だけ宙ぶらりんでまったく動きやしねぇ。
切れた糸のそれとは違って相手を探そうともしやがらない!
クソが!
「見つけましたよ! 大罪人!」
街を出ようと門の前、待ち構えていたのは四組の騎士カップル。
高いところでそれぞれ陣取りヒーロー気取りだ。
今日も敵だけが俺を放っておかないらしい。