第1話 俺の目の前で幸せそうにしている全てのカップルが心の底から本当に憎い!
誰かが言ってたっけ?
人は目に見えない運命の赤い糸で結ばれているんだ、ってな。
見えないなら別に迷信って笑い飛ばせるからいいぜ。
でもよ、それ見えちまったら、どうするよ?
自分が誰とも繋がっていないなら
どうすればいい?
☆☆
「アレだわ。100%浮気。いや、本気だわ、ありゃ」
俺がそう告げると、目の前のチビで小太りでハゲた金持ってる以外は何の魅力も無さそうな中年男は天を仰いで泣き始めた。
極めてフツーのランチタイムの喫茶店の窓際の席で勘弁してくれ。
店内だけでなく外からも視線が集まってるじゃねーか。
男同士の痴話喧嘩じゃねーからどうぞ皆さんはいつもの日常をお過ごしくださーい。
「愛していたのにぃィィ! 俺だけって言ってたのにぃィィ!! ブヒィッ! ズズズズ! うわああああ!!」
相手はお前ぇの事を愛してねーんだろうな。
一応、相手を見てきたけど、別ン男と超楽しげに裸でプロレスしてたわ。
ちなみに目の前のハゲブタと比べりゃ100人中100のハンドレットスコアが炸裂するくらいにはイケメンだったのがキツイ。
「で、どーすんのさ? 妻の不貞で証拠もバッチリで100%勝てる案件だが」
「……元に戻りたい! やり直したい! 間男排除してやり直したい!」
「ンな事出来るわきゃねーだろうがボケがァァァ!!」
勢い余ってテーブルぶっ叩いて破壊してしまった。
周りがドン引きしているが、構わず続ける。
「いいか? お前は負け犬なんだ! 完ン全に負け! これ以上、続けて何になる? 一方的なサンドバッグがお金持って鎮座するだけの非公開処刑が続くだけなんだぞコルァ!!」
公衆の面前での説教は公開処刑じゃん?
なんてツッコミは無しで頼む。
「じゃ、じゃあ、せめて、幸せに……」
「まさかとは思うが黙って身を引くとかマジやめろよ! せめて相手が幸せになればぁ〜などと脳味噌花畑牧場な奴いるけどな、そういう奴はお前に微塵も感謝しねーぞ! お前のようなハゲブタはすぐに忘れる。心の奥底にすら残らん! 100万賭けてもいい!」
目の前のフニャチンハゲの胸倉を掴み上げる。
大声で悲鳴をあげるが知るか!
「お前に出来ることはなぁ、これまで無駄に過ごしてきた時間をお金に換算して取り立てて、お前という男の恨みという爪痕を残すしかねーんだよ!! 解ったか、このマザコンヘタレハゲブタ!」
ビンタで気合い注入。
叩き割ったテーブルの上にブタのトリプルアクセル(着地失敗)が炸裂する。
「じゃあ、立て、行くぞ! 奴らをブッ潰しによォ!! あ、このテーブルの代金は依頼料で頼むな」
勢い任せて3万の出費は地味に痛いぜコンチクショウ!
☆☆
街を歩いてりゃ、嫌でもカップルの姿は目に付く。
普通の男女から幼女とジジィまで幅広い。
嗚呼なんて世界は狭いのだろう。
運命付けられた恋人が本当にすぐそばに居て結ばれる、素敵な世界だわ。
そして醜い。
例えば、あそこの男子一人に女子二人の超時空三人組なんだが、ありゃヤベェ。
一見ペアルックしている普通男子とショートカットの女子が恋人っぽいが、運命は後ろで二人の様子を見ながらニッコリ微笑むロングヘアー女子と普通男子を結んでいる。
この関係性に気づけばロングヘアー女子の腹黒さも見える、見えるのだ!
時々交わる二人の視線が完全にショートカット女子を置き去りにしてやがる。
と、そういうのが俺にはすぐわかってしまう。
ー赤い糸が見えるのだー
生まれた時から人を結ぶ薬指の赤い糸が見える。
最初、何か分からなかった5歳の俺は育ての両親の前でこんな事を口走ってしまった。
「父ちゃんの赤い糸、お婆ちゃん(育ての母の実母、42歳)と結ばれてるねー」
あっれだけ仲の良かった育ての両親はその日から毎日伝説の武器で殺し合う始末。
父ちゃんと赤い運命の婆ちゃんVS母ちゃん+何処かで雇ってきた流れ者の傭兵(赤い糸version)が両者刺し違えのノックアウトで決着した瞬間、自分の中でこれまで感じた事のなかった半端ねぇ崩壊カタルシスが絶頂を貫いた。
イクってこういう事か、と。
「ペッ!」
そんな感覚忘れて二十年。
今は八つ当たりしか出来てねぇ!
「オラどけ!」
手を繋いでいるクソカップルどもの間をわざと歩いてその手を離させる。
その際、舌打ちしながら睨んでくる奴(大抵は女の前でイキって格好をつける男)は全力で睨み付けてビビらせてやった。
「絶対彼女の出来ない顔」
「ザ・ブングルみたいだね」
と、言われ続けてきた俺に視殺戦で勝てる奴はいない。
それを乗り越えて挑んできたらそりゃあ合法的に潰せる。
「いたぜ〜♡」
本日、破局を迎える可哀想なカップルが、ぐふふ。
不貞の証拠を掴んでも、裁くにはシタどもを裁判所へ連行する必要がある。
その際、警察は一切介入しない。
逆を言えば、どんな手段を使っても裁判所へ引っ立てればいいのだ。
そう、どんな手段でも、ぐふふ。
今の俺は探偵兼カップル専用引っ立て屋だ。
天職だと思っている。
「よーう、お二人さぁん♡」
後ろから恋人繋ぎの間、両人の肩に腕を回す。
ドサクサに女の方の胸を揉む。
「「ゲェーーッ! お前は! カップル狩りの銀太郎!」」
ハモるなんて中々ブッ潰し甲斐のあるクソカップルじゃねーか。
飛び跳ねるように俺から離れる二人。
その際、恋人繋ぎも解けて二人が別れる。
赤い糸は結ばれたままだが……
「今日で終わりだぜ!」
俺はドリルを天高く放り投げた。