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きみとぼくのダンジョン再建記  作者: しろもじ
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「あたしの要求は」

「バルバトスさまぁ……」


 アルエルが苦しそうに顔を歪める。私に助けを求めるかのように腕を伸ばしていた。少女はアルエルの首を締め上げながら「さぁ、答えを聞こうか」と私に迫ってくる。


「ちょ、ちょっと待って!」


 言ってすぐ「あ、そうじゃなかった」と気づく。そこは「我に脅しなど通用せぬ」とか「好きにするが良い。しかし、その後でお前も同じ運命をたどることになろう」なんて、魔王っぽいことを言った方がよかったんじゃないか。思わぬ部下の危機に、気が動転してしまっているようだ。それにそもそもだな……。


「なに?」

「いや、先程から『気が変わるかな?』とか『答えを聞こうか』とか言ってるが、一体何のことだ?」今度は少しマシに言えた。

「……えっ?」少女の顔が少し引きつる。

「恐らく、何か要求があるのだろうが、そもそも我は何も聞いておらぬ」威厳が戻ってきた。

「あれっ……あたし、言ってなかったっけ?」

「うむ」


 少女の顔が真っ赤に染まった。余程恥ずかしかったらしい。なんだよ、意外とかわいいとこ、あるじゃないか、


「ごほん! じゃぁ改めて。あたしの要求は『このダンジョンの運営に加えること』それだけ!」


 彼女の言葉に私は息を呑んだ。


「ダンジョン運営に貴様を加えるだと?」

「そう。それだけ」

「モンスターなら間に合っているのだが?」

「違っう! 誰がモンスターだっ! 運営、つまり幹部として加えろって言ってるの!」


 古来よりダンジョンは優れた魔王のよって運営されてきた。魔王の力がダンジョンの力。そういう時代は長く続いた。しかし、ダンジョンが「生死を賭けた冒険の場所」から「ワクワクドキドキのエンターテイメント施設」になって早数年。


 最近のダンジョンは、いかにたくさんの冒険者を誘致できるかで、知恵と工夫、そして大量の資金を投下して競い合っている。


 そうした中で、ダンジョンの運営も「魔王個人の力」から「集団での経営」へと変化してきていた。先程話題になっていた『End of the World』などは、その最たる例だろう。他国から進出してきた外資系ダンジョンは、その資金力に物を言わせ、冒険者を魅力する設備トラップ、施設(隣接する宿泊施設など)を強化してきているし、それを計画実行する運営も、優れた経営陣によって管理されている。


 もちろん、国内のダンジョンも指をくわえて見ているだけではない。中には創意工夫で、独自色を出して対抗しているダンジョンも存在する。しかし、年々国内の老舗ダンジョンが駆逐されているのも事実である。特に立地の悪い、地方のダンジョンなどは、廃墟とかしてるものも多い。


 そういうものこそ、本物のダンジョンでは? とは思うが、最近の冒険者には受けが悪い。今どきは「そこそこ危険で」「それなりの難易度で」「しっかり楽しい」そんなダンジョンが求められているのだ。


 私の場合はまだ恵まれている。立地的に王都から近いこの『鮮血のダンジョン』を父から受け継いだのが、10年ほど前。先程の冒険者たちのように「つまらない」と文句をいう者も中にはいるが、冒険者のタマゴにはまだまだ好評で「地元のダンジョン」として認知されている。


 決して贅沢はできないし、大掛かりな投資も不可能ではあるが、それでも細々とならなんとかやっていける。ただ、新たな外資系ダンジョンが、近所の土地を調査しているとの情報もあるので、それがいつまで続くかは私にも分からないが……。


 改めて少女を見る。彼女は「運営として」と言っていた。ダンジョン自体はは多くのモンスターたちと一緒にやっているが、運営に関しては私一人でやっていると言っていい。アルエルもいるが……まぁ、それはそれだ。個人の力の限界を感じていた私にとっては、ある意味ありがたい申し出でもある。


 しかしそれなら、もっと大きな――それこそ『EoW』のようなダンジョンに行った方が、良いのではないか? 自分で言うのもおかしな話だが、こんな小さなダンジョンで一体何ができると言うのか。


 そ・れ・に・だっ!!


 私はそこまでお人好しではない。ついさっき蹴られたことも、腕を潰されそうになったことも、喉を締め上げられたことも忘れたりはしない。扉もぶっ飛ばされたし。


 人にものを頼むときの態度も知らぬやつを、我がダンジョンの運営に加えることなどできぬ。脅せば何でも言うことを聞くと思うなよ!


 ただアルエルはもう限界のようだ。顔は真っ青になっていて、先程からピクピクと痙攣している。私は猛然と少女へと突進した。


「うぉぉぉぉ!!」


 やや魔王らしさに欠ける雄叫びを上げてしまったが、それほど私は追い詰められていた。


「ちょっ、ちょっと待って!」


 私の気迫に押されたのか、少女が慌てふためいている。それはさっき私が言ったセリフだ。でも、待ってやらない。アルエルはもう限界なのだ。再び少女に拳を叩きつける。が、やはり手で受け止められる。しかし、今度は先程とは違う。少女のもうひとつの腕は、アルエルの首を締め上げている。


 すかさず左の拳をフック気味に放った。少女のこめかみ部分を狙う。流石にこれは止められまい!


 と確信したのだが、なんと少女は首をくいっと曲げ、おでこでそれを受け止める。無駄だ。どこだろうが、この距離からの一撃。無事では済ま……って、痛ってぇぇぇ! 石頭かよっ!!


 彼女の眉間にヒットしたものの、むしろ私の拳の方が痛い。少女の目が不気味に笑う。怖い、なんだか凄く怖い! 一瞬怯んでしまいそうになる。こんな人間がいるのだろうか? いくら攻撃しても、倒せる気がしない。逃げ出したいっ!


 だがしかし。アルエルが視界に映る。既に白目を剥いて、口からはだらしなくよだれが垂れている……が、それでも私の部下には変わりない。ここで逃げ出すわけにはいかないのだ。


「いい加減、諦めな」

「いや、そうはいかぬ」

「強情だね」

「部下を……見捨てるわけにはいかないっ!」


 その言葉を聞いた少女は、一瞬驚いたような顔をする。同時にアルエルを掴んでいた腕が緩んだ。チャンス! 少女に飛びかかり羽交い締めにする。そのままアルエルから引き剥がす。目一杯の力で押すが、少女は倒れない。構わず全力、全体重をかける。


「おりゃぁぁぁあ!!」


 最早、魔王らしさの欠片も残っていないことは自覚している。余裕などない。全力で立ち向かわなければ、こいつには勝てない。まずは、アルエルから引き離さなければ。それだけを考えて力を込める。


 少女も必死で抵抗していたが、それでも1歩、2歩と後退していく。いいぞ、この調子だ。3歩、4歩。突然「あっ」という声が聞こえ、身体がグラっと傾く。足元を見ると、床の岩盤型タイルに少女が足を取られたようだ。一気にそのまま倒れていく。


 鈍い音がして少女の背中が床に接し、その上に私が覆いかぶさるように倒れた。衝撃に身構えたが、予想に反してポヨンとした感触。


 ん? なんだ? 凄く柔らかい感触が……。


 そっと目を開けると、目の前には少女の胸の谷間が。


「へっ、変態っ!!」


 その言葉の直後衝撃が走り、私は記憶を失った。

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