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きみとぼくのダンジョン再建記  作者: しろもじ
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「彼女を血祭りにあげれば」

 壁に叩きつけられた私は、一瞬悲鳴を上げそうになる。しかし、それだけはダメっ、と必死で耐えた。それにしても……くそっ、呪文の詠唱中に攻撃するとか、マナー違反だろ!?


 倒れたまま顔を上げると、少女が馬乗りになっているのが見えた。


「急所を外したとは言え、あの一撃でも気を失わないか。流石は魔王、と言ったところだな」


 いやいや、みぞおちは十分急所だろっ! しかし、この体勢はマズイ。女性に手を上げるのは私のポリシーに反するのだが……。右の拳を少女の顔面めがけて繰り出す。が、拳が頬にヒットする前に、彼女が掌でそれを受け止める。


 腕を引こうとするが、彼女に握られた拳はピクリとも動かな……って言うか、痛っ、痛いっ! そんなに強く握らないでっ!!


表情に出さまいとしたが、あまりの痛さに顔が引きつってしまっていたらしい。少女はニヤリと笑うと「離して欲しいのか?」と、私の耳元で囁いた。思わず「うん」とうなずいてしまいそうになるのを必死で耐える。


 視界の隅ではアルエルが「バルバトスさまぁ」と涙目になっている。って、見てないで助けて! と思ったものの、よくよく考えてみると、アルエルの戦闘力はほとんど0に近い。


 何度も稽古をつけてやったのだが、剣術、槍術、弓術、どれをとっても一向に上達する気配がない。先日も、練習相手のスケルトンに「とやー」と剣を振るったものの盛大に空振りし、ひとりでクルクル回った挙げ句に転倒、伸びていた。


 魔法についても、魔力はあるはずなのに、肝心の呪文がいつまで経っても覚えられないらしく、比較的簡単な呪文でも「光の精霊よ……ええっと、続き何でしたっけ?」とか言い出す始末だ。


 ダークエルフは知的じゃなかったのかよ……。


 それはそうと、少女は私の拳を離そうとはしない。むしろ一層力をこめてきている。このままではリンゴみたいに、くちゃっと……考えただけでもゾッとする。どうしよう、ここは素直に「離して下さい」とお願いすべきだろうか? いやいやいや、ダメ。その選択肢はダメだ。


 少女は私が答えないのを見て「へぇ」と感嘆しているようだった。「なかなか頑張るね。でも、これはどうだ」と、もう一方の手で私の首を掴む。そのまま締め上げてきた。みぞおちを蹴られても、拳を潰されそうになっても、なんとか耐えてきた私でも、流石にこれはきつい。思わず潰れたカエルのような声を上げてしまう。


「さぁ、どうする?」


 流石にこれは無理。息ができない、死んじゃう、止めて!


 そう言いたい所ではあるのだが、如何せん首を締め上げられているわけで、首を動かすことも声を上げることもできない。少女は「さっさと降参しな」と言っているが、この状況見て分からない? 首、離してくれないと答えられないよ? っていうか死んじゃうよ? と必死で目で合図を送る。意識も朦朧としてきた。


 そこでやっと少女も「あっ」と気づいたらしく、少しだけ首を掴んでいた手を緩めた。ヒューヒューと自分の呼吸音が聞こえてきた。あぁ、死ぬかと思った。改めて、酸素のありがたみを感じる。血液が脳を巡っていくのを感じ、同時に意識もはっきりとしてきた。


 少女は力を緩めたものの、首から手を離してはいない。馬鹿め、それが命取りとなるのだ。


 呪文には長い詠唱が必要なものが多いが、中には無詠唱で実行できるものもある。高度な魔術知識が必要で、威力も大したことないものが多いので、主に魔術師の最後の切り札となることが多い。だから普段あまり使われることもないし、彼女へのカウンターとしては最適とも言えるだろう。


 冷静に考えれば、馬乗りされたときにこれを使っておけばよかったのだ。私は呼吸を整えると、掴まれていない方の手を少女の目の前にかざす。「爆発系」の無詠唱魔法を放った。彼女の命を奪うほどではないだろうが、多少の怪我は負ってしまうだろう。だが、それも自業自得というものだ。


 しかし魔法が発動した瞬間、彼女の姿が視界から消えた。どういうことだ!? 慌てて半身を起こすと、数メートル先に少女が立っている。「へぇぇ、無詠唱魔法ってやつ?」と、事もなげに言っていた。まさか、一瞬で魔法を感知して回避したというのか……?


 これはますます厄介なことになったと感じた。戦闘能力といい、魔法を感知する能力といい、やはりただの少女ではない。ただ、正式なルートを通らず、ここに直接やってきたということは、冒険者というわけでもなさそうだ。


 一体、何が望みなのか……?


「やっぱり、こんな辺鄙なダンジョンとは言え、魔王を屈服させるのは難しいか」


 私が考え込んでいると、彼女はそんなことを言い出した。もうちょっとで屈服しそうになっていたことがバレてなくて良かったと思う。「それならば」と彼女の視線が動く。その先にはアルエルが。


 「あっ」と言う間もなく、少女はアルエルの背後に移動。アルエルの首に腕を回し締め上げた。苦しそうにしているアルエルに構わず、少女は不敵に笑う。


「彼女を血祭りにあげれば、気が変わるかな?」

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