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きみとぼくのダンジョン再建記  作者: しろもじ
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「何を言っておる」

「ぼくたち、バルバトスさんとキョーコさんの元で修行したいんです!」


 起き上がった彼らは口々にそう言い出した。どういうことだ? もしかして、頭打ったところ、まだ治ってない? アルエル、薬草をもっと擦り込んでみて。


「本当は強くなりたかったんです……。でも、修行は辛いし……。簡単に気持ちよくさせてくれるダンジョンがあったから、つい楽な方に逃げていたんです。でも、バルバトスさんに言われて気づきました! ぼくら、本当に強くなりたいんです!」


 一応、治ってたみたい。彼らが言うには「真の勇者になりたい」とのこと。うーん、それってダンジョンで学べることじゃない気がするんだが……。


「バルバトスさんとキョーコさんの強さに惚れ込みましたっ!!」


 いや、キョーコはともかく、私は何にもしてないけどね。あー『我こそはバルバトス』のくだりがカッコよかったの? それはどうもありがとう。あれ、台本あるんだけどね。いる?


「そんなに言うんなら、雇ってやればいいじゃないか」

「キョーコ、お前そんなに簡単に言うけどな。4人分の人件費って――」

「ぼくたち、ご飯さえ頂けば結構です! 住み込みで働きますから」

「ほら、お給料なしでもいいってさ。誰かもそうだったけど、優しいねぇ」


 キョーコがふふ~んと半笑いで、ちらっと私を見る。むぅ、確かに無給は助かる。アルエルも「私も毎月のお買い物、少し節約しますから」と頼み込んできた。まぁ、君は確かに少し買いすぎだけどね。


「分かった。それならこのバルバトスの元で修行に励むが良い」


 そう告げると、彼らはぱぁっと顔を明るくして「よろしくお願いします!」と頭を下げていた。主にキョーコの方にお願いしてたのが少し気になるのだが……。


 彼らは王都郊外に住む幼馴染ということだった。最も体格が良く剣士らしいミノタウロス体型なのがラスティン。「他のモンスターさんたちにも、力で実力を認めてもらえるように頑張ります」と言っていた。お前もそっちの系統か。でも、まだ無理だと思うぞ。


 椅子に腰掛ける際にもトラップに気をつけるほど慎重……と言うか臆病なのがコーウェル。「どどどど、どうかなぁ。修行、きききき、キツくないかなぁ」と早くも心配している。彼はガリガリだし、スケルトン体型だな。


 先程からアルエルとお茶菓子の取り合いをしているのが、オーク体型のヒュー。彼は「なんとかなるんじゃないかなぁ」と、モグモグしながら言っている。どうやらアルエルとは気が合いそうな感じ。


 最後のニコラは、ちっちゃい。痩せてるしゴブリン体型だな。しきりに私がDIYで作った椅子を観察している。「へぇぇ、釘を使わず木組みだけで作っているんですね。凄いっ!」うん。そこに気づいてくれたのは嬉しいんだけど、今はそんな話じゃないからね。


 そんなやり取りをしている内に『最後の審判』にクルーたちが集まってきた。彼らに4人を紹介しないといけない。キョーコはキャットウーマンということにしたが、彼らは既にクルーたちに冒険者だと知れている。


 冒険者であり人間である彼れを仲間に入れる。それをどう思われるのかが心配だった。


「皆、よく聞いて欲しい。彼ら4人が我がダンジョンのメンバーに加わることになった」


 一瞬の沈黙の後、リッチのランドルフさんが、ふむと言いながら彼らに近づく。


「まだ若そうじゃのぅ。いくつじゃ?」

「はい、4人とも16歳です」

「ほぉ、16でもう働くとは、なかなか立派な心がけじゃ。ワシがその頃は――」

「ランドルフさん、その話はまた今度ね」


 薄月さんがウフフと笑いながら遮る。ナイスです。その話、長いですもんね。


「よし、明日から我が稽古をつけてやろう」


 ミノタウロスのサキドエルが、4人の腕を掴んで筋肉を確認している。「ラスティンはともかく、他の3人はみっちり筋トレからだな」ヒューの腹のぜい肉をつまみながらそう言うと、なぜかコーウェルが震え上がっていた。


「シュギョー、イッショニ、ガンバロー!」


 スケルトンのボンがはしゃいでいる。お前、さっき彼らにバラバラにされたばかりだろ。でも、まぁそういう所が彼らの良い所でもある。


 それにしても良かった。クルーたちの反応は悪くなさそうだ。


「いや、それにしても初めての人間の仲間。皆がどう思うか少し心配だったのだが」


 ワイワイガヤガヤ賑やかだった部屋が静まり返る。あれ? もしかして、人間だって分からなかった? モンスターだと思った? いや、どうみても人間だよね?


 何気なく発したひと言で雰囲気が変わってしまったことに、思わず動揺する。ランドフルさんが不思議そうな顔で私を見た。


「何を言っておる、バルバトス? 人間の仲間なら、キョーコがおろうが」

「は?」

「は、じゃないじゃろ。お前はキョーコを何だと思ってるんじゃ。失礼なヤツじゃな」


 あ、あれ? キョーコはキャットウーマンであって、新種のモンスターでレアキャラで……。


「キョーコチャン、ニンゲン。ボク、ニンゲンノ、トモダチ、ハジメテ」

「まぁ、腕力だけは人間離れしておるがの」

「ランドフルおじいちゃん、そんなこと言っちゃダメですよ。キョーコちゃんは女の子なんですからね、傷つきますよ」

「まぁ、あたしは別に気にないけどね」

「キョーコ、また腕相撲で勝負しろ」

「あ、ズルい。俺も俺も」

「おぅ、かかってこい。そこの4人組もやるか?」


 あれれ~? 君たちなんで、キョーコが人間だって知ってるの? キャットウーマンっていう設定、どこ行ったの? ねぇ、アルエル。どうして目を逸らすの? お前かっ!


「バルバトスさまが、お部屋を作られていたとき。アルエルちゃんがね、みんなに『キョーコちゃんは本当は人間なんだよ。人間なのに、すっごく強くてびっくりだよね』って」


 薄月さん、それ、もうちょっと早く教えてくれてれば良かったかと思うのですが。


 とりあえずアルエルには、今日のおやつ抜きを言い渡しておく。ダメダメ、そんな涙目で訴えてもダメなものはダメなんです。え? バナナはおやつに入るのかって? うーん……それはセーフかな。


 まぁ、クルーたちが彼らを快く受け入れてくれたのならば、結果的には問題はない。ただ、資金調達の件は解決していないので、それを考えなければならない。キョーコは「この4人だって、結局払いかけたんだし、この方法でいいじゃないか」とぼやいているが、ダメでしょ。ボッタクリダンジョンなんて汚名を着せられたら、お客さん逃げちゃうでしょ。


 「こういうのは信用が大切なの。一度失った信用は、なかなか取り戻せないものなんだから」

「バルバトスは反対ばかりだな。そんなに言うのなら何か対案を出してよ」

「ふむ、任せておけ。この魔王的頭脳にかかれば、そんなものいとも簡単に――」

「まぁ、それができれば、今までも苦労してなかったんだろうけど」


 むぅ。キッと睨むとプイッとそっぽを向いて口笛を吹くキョーコ。それ、いつの時代のリアクションだよと突っ込みたいところだが、彼女が言っていることが正論だけに反論できないし、何より皆の視線が痛い。ボンなどは「どんな案が出てくるんだろう」と目をキラキラさせているし。


 ここで「何にもありません」とは言えない。ここは魔王としてビシッと誰もが驚くような案を出して、皆を納得させなければならない。少しだけ宙をにらみ深呼吸した後、ゆっくりと周囲を見渡して口を開く。こういうときはこう言うに限る。


「まぁ、見ているがよい。明日には皆が驚くような改善案を提示しようではないか」


 先送り。明日から本気出す、というヤツだ。


「おいおい。別にそんなに急がなくってもいいぞ。もっとゆっくりでもいいし、皆で考えたっていいんだし――」

「いや! 任せておけ! 私を誰だと思っている? 我こそは鮮血のダンジョンマスター、バルバトスなるぞ」


 ハッハッハ、と高笑いで『最後の審判』を後にする。やや早足で廊下を歩き、階段を登る。自室に入るとドアの鍵を掛けた。ローブを脱ぎキレイに畳んでから、クローゼットにしまう。ベッドに腰掛けると溜まっていた息がはぁぁっと出てきた。


「どどどどど、どうしよう!?」


 引くに引けない状況に、思わずあんなことを言ってしまった。折角キョーコが「皆で考えれば」って言ってくれたのに、どうして強情を張ってしまったのか。いや、やってしまったことをクヨクヨしてもしょうがない。ここは何としても良いアイディアを絞り出さねば。


 立ち上がりデスクに向かう。引き出しからノートを取り出し、新しいページを開いた。ペンを取り構える。が、何も出てこない。


 立ち上がってみる。部屋を行ったり来たり歩いてみる。床を掃いてみるが、そもそも今朝掃除したばかりだった。窓のサッシを拭いてみる。が、やはり何も出てこない。


 デスクに向かって頭を抱えていると、ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえた。このノックもせずに開けようとしているのはきっとアルエルだろう。慌ててローブを取り出し、それを纏ってドアを開ける。ほら、やっぱりアルエルだった。


「あの、バルバトスさま。ちょっとお話があるんですけど」

「うむ? どうした?」

「きっとバルバトスさまならもう考えているとは思うんですけど……。薬草の件って、アレ自体はいい発想じゃないですか」

「ふむ。前の会議でもそんな話になったもんな」

「ええ。だからやっぱりダンジョンに併設する売店や宿屋なんかを作るべきだと思うんです」

「いや、しかしそれにはお金が……」

「手作りで何とかなりませんか? バルバトスさま、そういうのお得意だと思うし」


 建築か……。でもDIYは得意と言っても、流石に家とかは建てたことないしなぁ……いや、待て。ダンジョンの外に建てるのは無理でも、ダンジョンと同じように山の中に作るのであれば? 幸いキヤベルグ山は横に長く広がっている。ダンジョンも入り口だけは1階に設けられているものの、すぐに地中へと潜っていく設計になっている。


 山肌をくり抜けば、比較的簡単に施設を作ることができるのではないか……。凄いぞ、アルエル。これならできそうだ。そう言うと嬉しそうに「バルバトスさまならきっとできますよ」と笑う。


「いやぁ、キョーコちゃんの言って――」

「ん? キョーコが何だって?」

「いえ~、何でもないですぅ……」

「ア・ル・エ・ル?」


 ベッドに座らせて問い詰めたところ、私が去った後にキョーコが「きっとバルバトスが困ってるだろうから」とアルエルに助言したらしい。


「怒ってます?」


 少し泣きそうな顔のアルエル。いいや、怒ってなんかないさ。むしろ、ありがとう。そう言うとアルエルはパァッと明るい顔になった。


「じゃあ、おやつは復活ですか!?」

「いや、それはそれ。これはこれ」

「えぇっ!? 世間の風は冷たいですっ!」


 結局、魔王お手製のスペシャルバナナパフェを振る舞うことになったのだが、まぁ今日くらいは甘やかしてもバチは当たるまい。

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