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アルーン、帝国へ

艦隊に連れられたアルーンを待っていたのは、帝国の首都であった。

その首都ではパレードとも思われるほどの盛り上がりで、アルーンを迎えた。

「凄い盛り上がり様だな…」

アルーンはあまりの帝国の盛り上がりに驚いていた。

それもそのはずであろう、帝国は王国に勝ちアルーンはその身柄を帝国に引き渡される身であり、

帝国は勝利に酔っているのである。

帝国の民はそれぞれが、「ついに我々を苦しめていたアルーン元帥を捕らえた!」

そう触れ回り喜んでいた。

帝国の気風として虜囚辱めざるべからずという気風があるため、アルーンの身柄は捕らえられたとはいえ、

条約による引き渡しでもあるため、至って安心安全を期されていた。

むしろ帝国は強者を求める気風にあるため、アルーン自体は帝国全体としては歓迎されていたのである。

あらゆる帝国の軍人をその手で殺めてきたアルーンであり、恨まれていないといえば嘘になるが、

それ以上にその強さに敬意が払われているのだ。

グレイル中将が側に寄ってきた。

「閣下、間も無く着きます」

「そうか、ここまでご苦労様」

帝国の民の雰囲気をブリッジから見ながらアルーンは答えた。

「まだ任を果たしていませぬので、気は抜けません」

グレイルは真面目な顔でアルーンに話し続ける。

「閣下に敬意を払う者は大勢いますが、それだけ恨みを持つものもいますゆえ」

「確かに、私を憎み殺したいと思う者は帝国には山ほどいるだろうね」

アルーンはどこか遠い目で、帝国を見ていた。

「だが私はただで殺されるつもりはないよ、私が死ねば帝国は条約を破棄し王国に再度攻め入り、今度こそ国を併合するだろうからね」

「ご明察痛み入ります」

そういって笑みを浮かべるグレイル。

「グレイル中将、貴官のことは尊敬している、実に手堅い、今回の任務もその手堅さを買われてのことだろう」

「恐れ入ります」

「こうして捕虜になっても、貴方のおかげで無事帝国の首都にたどり着き、女帝陛下に会えそうだよ、感謝する」

はっ、とお辞儀をしその場を下がるグレイル

「さて、艦を降りる準備をしないとな」

アルーンもブリッジを降り降りる準備にかかった。



アルーンが艦を降りると、バーテン大将が迎えに出ていた。

「バーテン大将! 貴方が迎えに出てきてくれるとは」

アルーンは驚いていた。

何度も刃を交えたあのバーテン大将が迎えてくれたのだ。

「アルーン元帥、まさか直接こうして会えるとは思わなんだ!」

お互い敬礼をしたあと、握手を交わした。

「帝国は誠に人材の宝庫だな、私を迎えるだけなのに大将、貴方を遣わせるとは」

「はっはっは、この度の勝利で浮かれているだけだ、元帥には悪いがな」

そう豪快に笑って見せたバーテン大将。

「グレイル中将、大儀であった、ここからは私が引き継ごう」

「はっ」

余計なことは喋らず、すっと下がるグレイル。

こういったところが彼の彼たる所以だろう。

「グレイルはよくやってくれた、元帥をここまで平穏無事に送り届けてくれたのだからな、あとで陛下から恩賞を賜るだろう」

うんうんと頷くバーテン。

「これから私はどうなるのかね大将?」

アルーンがそう尋ねると、

「宮殿に入り、しばし御休息のあと、陛下はすぐに会われるそうだ」

バーテンは笑みを浮かべ言った。

「そうか、気が早いことだ」

アルーンは少し声を落とした。

「それでは宮殿に向かおう」

バーテンは道案内をしだした。



軍港をでて宮殿に向かうまでも帝国を眺めていたアルーンは感じていた。

「実に統制がとれている、これでは王国も負けるはずだ」

ぼそっと呟いたのが聞こえていたらしく、車の中のバーテンが、

「ここまで帝国が強固になったのも元はと言えば、アルーン元帥のおかげだ、貴官がいたから帝国は一致団結できたともいえるのだ」

そう言いながらバーテンも車の外を見やる。

「我が帝国は今上陛下の元、さらに強固になったその原因がアルーン元帥、あなたにあったと言えば、帝国の民や軍全体は感謝もするだろう」

「確かに私があの時共和国でカルディナ女帝と出会っていなければ、帝国はどうなっていたのであろうか?」

「帝国は瓦解する危険すらあったであろう、そういう意味では私自身が王国の敗因だったのだろうな」

軽く独り言のように呟いたアルーンをバーテンは見守っていた。

しばらく車が走っていると、どうやら宮殿が見えてきたようだ。

「見えてきた、あれが宮殿か、あそこであの子は待っているんだな」

アルーンがそういうと、帝国の中心である宮殿が車の外で顔を出していた。



宮殿についたアルーンが車を降りると、数多くの軍人文人が迎えにでていた。

「まさかこんなに豪勢とは思わなかったよ」

アルーンはあまりの迎えに顔を少し引きつらせた。

「元帥、どうぞ」

バーテンが手を出すと、宮殿の中までの道がすっと開いていった。

そうしてアルーンは導かれるように宮殿を歩いていく。

御殿の外で控えることになり待っていると、ほどなくして

「王国元帥アルーン殿、中に入られよ」

そう声が聞こえたのでアルーンは中に入って行った。

中に入っていくと目の前に玉座が見えそこに座っている人物も見えた。

しかし一瞬見遣ってから前にでるまで目を伏せながら歩いた。

所定の位置についたアルーンは少し顔を上げ、敬礼をとり言った。

「王国元帥、アルーン、帝国女帝陛下に拝謁いたします」

完璧に決まったとは言えないが及第点の態度ではあっただろうとアルーンは思った。

「よい、面をあげよ」

玉座に座る人物に言われ、アルーンは真っ直ぐ顔を上げ目の前の人物を見た。

帝国の女帝となったカルディナがまさにそこにいたのだ。

「ようやっと、余の元にきたの」

感慨深げに呟いたカルディナは周りを見ると、

「皆のもの下がるがよい」

そう言って周りのものを下がらせた。

「どんなにこの瞬間を望んだことか、アルーンそなたにこの気持ちがわかるか?」

「まさかこのようなことになるとは予想もしておりませんでした」

「今少しだけ昔の二人に戻ろうではないか、アルーン、妾はそなたにあいたかったぞ」

「もはや昔には戻れないが…、そうだな、そういう時にもし戻れるのであれば、こう言ったでしょう、あの我がまま姫だったカルディナがこんな立派な女帝になるとは…、と驚いていたでしょう」

アルーンは少しおどけた。

「15年…そなたをこの手にするのに15年かかった…、妾はこのために生きてきたのだ」

「私には妻も子もいる身、もうあなたのものにはなれない」

「構うものか! 余はそなたを手に入れた、妻も子もいようがこの帝国では妾が思う通りにする!」

昔のわがままだったカルディナに少し戻りながら、彼女は豪語した。

「確かに、この帝国は君のものだ、全ては君が決定権を持つ、私の身すらもね」

「その通り! 余の好きにする、誰にも文句は言わせん、だからそなたはここに来た時点で余のものなのだ!」

「好きにするといい、私の目的は生きて王国の平和を守ることだけだ」

諦観したアルーンに対し、カルディナは意気揚々と

「そうだ、そなたは生きて妾のものになればいい、それでいい」

「まさか俺のためだけに、ここまで純潔を守り、子も作らずいるとはね、まったくこの帝国の大臣たちは何をやっているのかね?」

帝国に対する愚痴を吐き出し始めるアルーン。

「大臣ひいては世にどう説明するんだい? まさか男一人のためにここまで帝国は血を流したと正直に言うつもりかい?」

「それでいいだろう? 余は何も悪いことはしていない、欲しいものをただ欲しいといい余のものたちはそれを手にするために戦ってくれたまでのことだ」

「確かに、言われてみればその通りだな」

改めて帝国は恐ろしい国だとアルーンは思った。

「これからは君に頭を悩まされることになるわけか、気が重いよ」

はぁ…とため息をつくアルーン。

「何をいう、そなたはこの国の王配になるのだぞ! 余の次に尊くなるわけだ、何を文句があろうか!」

もはやカルディナの夫になることは決定事項のようである。

「何も文句はないよ、ただ私は君のその執念とひいては帝国を恐ろしく思っただけさ」

「それでよい」

どこか満足げなカルディナがいた。

「ではこれ以上何もなければ下がらせてもらおうか、長旅で少し疲れていてね」

そういうとはたと気がついたカルディナは

「そうだな、これからのことはゆっくり話すことにしよう、下がって休んでよろしい」

いやに物わかりがいいカルディナであるが、それは歳を重ね、勉学に励み、人の気持ちを思えるようになったからである。

そういわれ、下がったアルーン。



カルディナは一人玉座にて

「ふふふ、ついに15年の悲願を達成したわ、お爺さまと父さまは今の私をどう思うのかしら、褒めてくださるかしらそれとも愚かだと笑うのかしら?」

カルディナは亡くなってしまった肉親達に想いを馳せた。



案内された部屋に通されたアルーン。

「ふぅ、難儀だったな」

ベッドに腰を下ろす。

「カルディナ…、綺麗になっていたな、昔から綺麗は綺麗だったが…」

今日は格段と綺麗だった…、そう思ったが自分は妻帯者だということを思い出し、いかんいかんと邪念を振り払う。

おそらくカルディナが言うことは実行され、自分は王配になることだろう。

カルディナの夫になるということは出会った当初からしたら夢にも思わなかったことである。

自分があのわがまま姫と一緒になることになると言ったら当時の自分はどう思うだろうか?

おそらくまさか?と笑うだろう、だが事実になってしまったことに頭を抱えた。

リズと子供達は元気にしているだろうか? なるべく考えないようにしていたが、ここにきてやはり家族たちが思い浮かぶ。

リズのことだから大丈夫か?と思ったが、子供たちもいることだから大丈夫だろうと思うことにしたアルーン。

しかし王国がこれ以上帝国に侵されることがなくなったことは素直に喜ばしいことだとアルーンは思えた。

お互い血を流すことがなくなることはアルーンとしては嬉しかった、しかし帝国はアルーンの祖国である共和国を許しはしないだろう、自分が祖国に弓を引くものになることになるかもしれないことを思うと、気が気ではなかった。

終わらない戦争とまで言われるまでになった、帝国と共和国の確執は自分ではどうにもならないだろうと思い、王国軍人ひいてはリズの夫になっても共和国を援護してきたつもりだが、どうやらそれもできなくなる日が近いとアルーンは感じていた。

自分がカルディナに頼もうとこれだけはどうにもなるまいとわかっていた。

そしていずれこのままいけば帝国に共和国は飲まれることは、わかっているアルーン。

帝国は3代に渡る名君達によってあまりに強大になった、その帝国を幾度となく打ち破ったアルーンとはいえ、それはあくまで戦術的なものだけであり、共和国、王国共に合わせても帝国には国力で及ばないことはわかりきっていることではあった。

この3大国以外にも様々な国はあるが、世界の覇権はあくまでこの3大国の動向次第である、そして今回の帝国の勝利により、王国の力は削がれ帝国はさらに強大になった、帝国が世界を統一する日も近いのだろうとアルーンは感じ取っていた。

願うことならば世界全体が流れる血が少しでも少なくなってくれれば、と願わずにはいられないアルーン。

世界について考えるとどこまでも憂慮が絶えないアルーンであった。

そこまで考えてアルーンはベッドに横になった。



次の日にはアルーンがカルディナの夫になり、大公爵位が授与されるという勅命が出された。

そのあまりの早さに帝国全体が仰天していた。

アルーンはまた頭を抱えたが、考えても仕方ないので諦めた。

その日の帝国の朝儀ではこぞって大臣たちが反対していたが、

「余はもう決めたことである、それに大臣たちがこぞって言っていた世継ぎの問題もこれで解決されるではないか? 何の問題があろう!」

と一喝し大臣たちの反対を押し切ったのである。

そして朝儀は無理やり終わりを迎え大臣たちはすごすごと帰る羽目になったのであった。

一方でバーテンなどの軍人たちからするとアルーンの評価は敵であった時から悪くはなかったので、今回のことでは強く反対にはでず、むしろ評判はなかなかのものであった。

これを機にアルーンに近づき名誉のおこぼれに預かろうと考える不謹慎なものも現れていた。

肝心のアルーンはそういった客たちの対応に追われていた。

文武官問わずひっきりなしに客がくるものだから何事かと思い、勅命を知ったところ納得したアルーンである。

ここに一人アルーンを軍人として大いに慕っているものがいた、スイ大将であった、弱冠17歳でありながら大将にまで上り詰めた帝国が生んだ若き天才中の天才であった。

その若き天才はアルーンの部屋の前をいったりきたりしていたのである。

「尋ねるべきか否か…」

スイ大将は迷っていた、自分がもっとも憧れていた軍人が目の前にいるのである、今までは敵同士であったが、今では帝国領内におり、会うことも制限されていない、これはチャンスだと思い、部屋の前まできたが踏ん切りがつかなかった。

見かねた侍女が取り次ごうとしたが、それは止め、悩んでいるスイである。

その間にも様々な客がアルーンの間をでたりはいったりするものだから、その侍女以外は相手にしてる暇のあるものはいなかった。

そしてスイが尋ねようと決意した頃には、すでにその日の客の対応は終わってしまい、無念にも強制的に帰されることになったスイであった。


その翌日にカルディナに呼ばれたアルーン。

「女帝陛下に拝謁いたします」

「よくきた我が夫よ」

「まだ婚礼をしていませぬ故」

「つれないことを申すな」

「そういわれましても…」

「まぁよい、それはそうと今日来てもらったのは、公爵領を授与するためじゃ」

冷たいアルーンにため息をつきながらカルディナは言った。

「余の夫になるには相応の身分にならんとな、大臣たちも観念してそう言っておったゆえ、アルレス公爵領を授与しようと思うておる、そなたはどう思う?」

問うたカルディナ。

少し思案していたアルーンははたと思いつき頭を下げた。

「ありがたく頂戴いたします、陛下万歳万歳万々歳!」

急に調子が良くなったアルーンに対して、不思議に思ったがその目的を悟ったカルディナ。

「やっぱりアルレス公爵領は取り消す!」

と言ったが時すでに遅し、

「では早速アルレスを治めに参ります!」

といったアルーンは即座に下がっていた。

カルディナは自分から離れられることを喜んだアルーンを恨んだ。



「よかった、これでカルディナから離れられる」

アルーンは自分の部屋で素直に喜んでいた。

「しかしまぁ、捕虜の身から自分が帝国の大公になるとはね…、人生とはわからないものだ」

自分が共和国人であるということ、王国軍人になり帝国と幾度となく戦ったことなども承知の上だろうが、帝国の器の大きさに驚くアルーン。

「それにしてもアルレス公爵領か…、今まで得た情報によるとあまりいい噂はきかなかったな」

アルーンは王国軍人時代の密偵などから得た情報を考えていた。

「帝国は3代を経て不正腐敗を是正してきたが、アルレス公爵領はその中でも一際大きな公爵領故に、なかなか手が出されなかったときくが果たして…」

「今のうちに手は打っておこう、もらったものは仕方がないし、せいぜい治国に励むとしようか」

アルーンは机に向かって指示書をしたためはじめた。

「とは言っても私に治国のなんたるかはわからぬわけだし、やはり治められるものに任したほうが賢明だろうな」

アルーンは今までの情報を考え、在野の士で優秀なものを探すことにした。

「大公府か、カルディナから好きな人材を引き抜いていいとお墨付きはもらったがどうしたものか…」

「軍事にはスイ大将を任せよう、彼なら我が軍を悪くはしないだろう、問題は宰相だな…、ジョウ殿が適任だと思うんだが、引き受けてくれるだろうか?」

スイ大将への手紙をしたためたところで手が止まった。

「私は無骨ものだから断られるかな…? しかし頼むだけは頼みにいくとしよう」

内外の相が決まったところでアルーンはベッドに身を投げた。



アルーンがアルレス公爵領へと出発する日がきた。

カルディナが自ら見送りにきたがその表情は浮かなかった。

それもそのはず、やっと自分の夫になったと思った者が、すぐにまた遠くにいってしまうからである。

「婚礼の日には必ず帰ってくるように」

念を押したカルディナ。

「はっ、陛下」

そういって新しい帝国軍人の服をきた自分のマントをはためかせ、アルーンはアルレス公爵領へと向かった。



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