8「最初の出会いは大切な家族」
晴視点はいらないと言ったな…?あれは嘘だ!!
side灰原晴
昔の話をしよう。
まだ私とお兄ちゃんが、仲のいい兄妹だった頃。
「お兄ちゃん早くー!」
「ま、待ってよ…晴…」
灰原晴、八歳。
灰原時雨、九歳。
「もうしょうがないなぁ…はい!」
「ありがと、晴」
いつも私がお兄ちゃんに手を差し伸べて、手を握り、引っ張っていた。
お兄ちゃんは気弱で、泣いてばっかり、そんなお兄ちゃんを守るのは私だー!って、良く言ってたのを覚えている。
そんなある日の事だ。
実は私は、学校でいじめられていた。
いじめとは言っても直接的な物ではなく、小学生によくある、皆で無視したり陰口を叩くような物。
けれど、小学生のメンタルがそんな強い訳もなく、私は段々と学校に行きたくなくなった。
そして、私は、授業中に皆からの視線や、言葉、それらを感じただただ気持ち悪くなり教室を出たのだ。
辿り着いたのは、お兄ちゃんと私が見つけた、秘密の場所。
良くお兄ちゃんと遊んでいたここの山は、人が来なく、道なりが緩やかなのもあり、遊びやすかった。
そのなかで、一つ不自然なダンボールハウスを見つけたのだ。
それは気や草で守られており、雨も凌げるようになっていた。
中を見るとそこはここ数年は誰も住んでないとわかる程にボロボロだった。
お兄ちゃんと私は、掃除してそこを私とお兄ちゃんの秘密の場所にしたのだ。
二人だけの、秘密。
「う…ぐす…ん…」
いつも私は悲しくなると、ここに来て泣いてしまう。
ここだけは誰も来ないし、一人だけの時間と言うものが出来る。
ここだけが、私が感情を露にできる場所だ。
「 もう…嫌だよぉ…」
そう、この日だ。
私の、一番の思い出、幸せな思い出。
「晴!!」
泣いてる私の所に来たのはーー
ーお兄ちゃんだったー
「お…兄ちゃん…?」
「大丈夫!?何かされたならボクがそいつを殴ってやる!」
お兄ちゃんは、何度も私を慰めてくれた。
何度も、何度も、優しくしてくれた。
これは、私の一生の思い出だ。
この日から、私はお兄ちゃんの事が大好きになった。
まぁ元から好きなんだけどね…。
だからこそ、お兄ちゃんが私に嫌いって言った時は本当に悲しかったし、泣いた。
もうお兄ちゃんは二度と仲良くなれないんだ。
もう二度と、名前を呼んで貰えないんだ。
もう二度と…笑ってくれないんだって…。
けどーー
「晴!」
ーーお兄ちゃんは来たんだ。
また来てくれた、泣いてる私の所へ。
最初は幻覚かと思った、けど違ったんだ。
お兄ちゃんは私に言ってくれた。
「晴、愛してる」
愛してるって。
嬉しかった、偽物なんかじゃないって…本物の…お兄ちゃんだって。
私は、泣いた。
すべての感情を吐露するかの様に。
ーーあぁ…好きだなぁ…。
大好きで、大好きで仕方ないお兄ちゃん。
ねぇお兄ちゃん、もし私がお兄ちゃんと結婚したらさ、もっと愛してるくれるのかな?
…時雨…。
なんてね!
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
side灰原時雨
一頻り泣いた晴、僕達は手を繋いで家へと向かう。
僕と晴の距離は、兄妹の距離に戻った。
戻れたんだ…僕達は…何か変な感じだ。
「晴、今までごめん」
「もう、いいよお兄ちゃん、私はこれからのお兄ちゃんを見ていくもん」
「はは、晴らしいね」
今は、まだぎこちない距離感かも知れないけど、段々と、段々と慣れて行けばいい。
僕らは、家族だから。
…さてと、このいいムードを続けるにも、そう言う訳にはいかない。
一つ、僕は思い出した。
母さん忘れてたぁ…。
説明どうしよ…晴を巻き込みたくないしなぁ…いや、覚悟を決めるんだ僕。
僕と晴は家の前に着いた。
行くぞぉ!!
僕は家の扉を開ける。
「ただいま帰りましたー!」
「しいいいいいちゃあああああん!!!」
「時雨ええええええええええええ!!!」
「へぶっ!」
「お兄ちゃん!?」
扉を開けた瞬間、母さんと曇李姉さんがダイブし、抱き付いてきた。
その勢いでそのまま玄関で倒れ、晴はそんな僕を心配して声を荒らげる。
「心配したんだよしぃちゃん!?着いて行こうと思ったけどくーちゃんに止められてぇ!」
「母さんはこう言う事になると暴走するから私が変わりに探しに行こうとしたら母さんも止めに来たじゃないか!」
「くーちゃんが抜け駆けしようとしたからでしょ!?」
「ち、ちが…そう言う母さんこそ!」
「ち、違うもーん、本当に心配してたんだもーん、追い掛けに言って点数稼ぎ何て考えてないもーん」
「何が、もーん、だ、いい歳して!」
「歳の話はやめて!」
母さんと曇李姉さんが僕のお腹の上で言い合いする。
お、重い…けど、僕の事を心配してたのがよくわかるよ…。
この世界は、幸せに溢れてて、新しい出会いに溢れてる。
僕はこの最初の出会い、新しい『家族』との出会いを大切にして行く。
「二人とも、ありがと」
僕は体を起こして、満面の笑みを向けて言った。
「し、しぃちゃん!」
「し、しぐれぇ!」
「うっ!」
その瞬間更に抱き付く力が強くなる。
「二人ともお兄ちゃんが死んじゃうよ!!」
晴の叫び声が玄関で響き、僕は死にそうになった。
本当、賑やかな家族です。
何か妹だけ長くないって?
何を言うか!妹はいつまでも『良妹』なんだ!(名言来たなこれ)
では、良いお年を!