5「夢なんかじゃ、なかったんだ」
「緊急事態発生!」
「どうした!?」
「後二件でブクマが百行きます!!」
「あ、後二件だと!?スクショだ!スクショの用意をしろー!!」
「「スクショ用意ー!」」
よし、腹も膨れた。
母さんに結婚を迫られたが、なんとか濁してその場をしのいだ。
でもこの世界だと親族との結婚を認められてるんだよね、母さんとの新婚生活…。
『しぃちゃん、お風呂にする?ご飯にする?それとも…し・い・ちゃん♡』
「ソコは『わ・た・し♡』でしょうがっ!」
おっと、つい想像の中の母さんにツッコんでしまった。
けど一応、母さんとの結婚も視野に入れておこう…一応ね?
「あ、てか早く準備しなきゃ二人が帰ってくる!」
時計を確認すると、既に二時を回っていた。
記憶に寄れば、曇李姉さんがもう帰ってきてしまう。
いや、まだ間に合う、こうなったら僕のスピードと技術を全力行使してやる!
「さぁーー調理開始だ!」
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 ̄ ̄ ̄
 ̄
side灰原曇李
私には弟がいる。
これを私の友達に言うと皆が皆、いいなぁ…、と、羨ましがる。
弟の名前は、時雨と言う。
恐らく私が知る中で一番と言っていいだろう、綺麗な男性だ。
そこらのアイドルと比べても、時雨は規格外だろう。
けれど、私は弟の事が苦手だ。
いつも傲慢な態度をとり、私達女、家族皆の事を見下している。
私にはどうも、それが気にくわなかった。
そりゃ私だって昔は、弟がいる自分は勝ち組だ、絶対に結婚してやる。
と息巻いていたさ、なんせ時雨は本当に可愛いかったからね。
けれど、やはり思春期を迎えれば知識は増えて行き、そして私達女性の事も知る。
つまり、自分が襲われる対象と認識し始める訳だ。
この世界では親族同士の結婚も認められている、そのせいで時雨は私達の事ですら嫌悪する様になった。
そして、私と時雨がお互い完全に距離を置き始める事になるのは、あの事件がきっかけだ。
私が、ぶつかった拍子に時雨の胸板に触ってしまったのだ。
その時、帰ってきた晴、私の妹も足を挫き、時雨の胸板を触ってしまったのだ。
そして、この後は察しの通り、ありとあらゆる、恐らく時雨の暴言レパートリーの全てを出し尽くしたと言っていい程の暴言が、罵倒が、私と晴に放たれた。
この時から私は、時雨と話さなくなった。
そんな時雨が今日、退院したと言う。
つまり、またあの冷たい目が私に向けられる…あの目を見る度に、私は背筋が氷り、泣きそうになる。
倒れた時は心配したし、退院したと聞いて嬉しくもあった。
けど、あの目を向けられないと思うと、安心する私も居たのだ。
時雨…もう家に居るのかな…。
またあの目を向けられるのだろうな…。
また、昔見たいに、優しい笑顔を向けてくれる日が、あったらいいな。
そんな、幻想を抱き、私は家の扉を開けたーー
「おかえり、姉さん!」
へ…?
私に、満面の笑みを向け、優しく微笑んで出迎えてくれたのはーー
ー時雨だったー
「なん…で」
「姉さん?」
私は、夢だと思った。
こんな事は有り得ない、あるはずがない。
時雨が、私に微笑むなんて、出迎えてくれる何て、私を…私を姉と呼ぶなんて、幻想にしか存在しないはずなのに…。
「時雨…?」
「何かな?」
「本当に…時雨なのか?」
「他の誰に見える?」
本当に、本当の…時雨なんだ。
夢じゃないんだ…私は…また時雨に笑みを向けて貰えているんだ。
「しぐ…っれ…」
私は、ぐっと涙を堪えて時雨名前を呼ぶ。
すると時雨は、何故か正座をした。
「姉さん、姉さんに言いたい事があるんだ」
「…?」
私が、疑問に思っているその時ーー
「本当に、ごめんなさい」
時雨が頭を下げ、謝罪をした。
「ど、どうして謝るのだ!?」
つい動揺してしまった私は、咄嗟に時雨の側に駆け寄り、あたふたとする。
「昔に、僕が姉さんに悪口を言って、姉さんを傷付けてしまった。
だからそれの謝罪、僕は許されない事をした」
「い、いいから顔を上げてくれ!」
「駄目だ!これは僕が招いた結果なんだ。
姉さんの気が済むまで僕は頭を下げ続ける!」
「許す!許すから!だから顔を上げてくれ!なんかこの姿を誰かに見られたら私殺されそうな気がする!」
「本当に!?」
「あ、あぁ」
顔を上げた時雨は、天使の微笑みと言って差し支えない程の笑みを向けた。
私は、その笑顔にドキっとしてしまう。
この笑顔を向けられて果たしてドキッとしなに女はいるのか?
そんな事を考えていると、時雨は立ち上り私の腕を掴んできた。
「んな!?」
これには流石の私も動揺を隠せない、いや元々隠せてはいないが。
「それじゃ姉さん!仲直りの印にこっち来て」
私は、時雨に手を引かれてリビングに入る。
すると、テーブルの席に座らされ、時雨は冷蔵庫の方へと行く。
時雨はこちらを振り返り、ニヤリと不適な笑みを浮かべる。
「し、時雨?」
名前を呼ぶと、時雨は一つのお皿を持ってきて、私の前に置いた。
そこにあったのはーー
「これぞ、時雨お手製お手軽なチョコケーキ!」
綺麗に彩られたチョコケーキだった。
「な、なんで?」
「だって、姉さんの大好物でしょ?」
「覚えててくれたのか…?」
「勿論!」
「も、もしかしてこれ、私の為に作ってくれたのか?」
「それ以外ないよ、さっ食べて!」
時雨が私の為に…。
私は、その事実がまだ夢の中なのではないかと思わせる。
もし、もしこれが夢だとしたら、きっとこのチョコケーキには味なんてない、きっとないはずだ。
夢なら早く覚めてくれ、こんなに幸せな夢を見た後に、現実に戻った私はきっと寂しくて泣いてしまう。
さぁ食べよう、この夢ともお別れだ。
私は、フォークを手に取り、チョコケーキを口にした。
「…うっ…」
これは…夢…なんだ…。
「ぐすっ…うっ…」
夢のはずなのに…なんで…なんで…。
「ーー美味しいんだ」
涙が、止まらなかった。
「ね、姉さん!?」
夢じゃない、夢じゃないんだ。
本当に、本当に時雨なんだ。
私の弟、私の大好きな人、愛しい人、その人が本当に、私に笑って、呼んで、心配してくれ、料理を作ってくれて…全部が全部、本当なんだ。
夢なんかじゃ、なかったんだ。
「ありがとう…時雨…」
「どういたしまして、姉さん」
私は、その時の時雨の笑顔を、二度と忘れる事はない。
ー大好きだよ、時雨ー
おい!不定期((殴 しつこい。
はい、やっと姉を出せたよっと。
いやぁいいねぇ家族愛、素晴らしいあべこべ世界だなぁ、はいそこ!よくあるあべこべ系じゃんとか言わない!
それじゃ次回は妹が登場するよ~(たぶん)