番外編「ココア」
本編にまったく関係ないですけど、こう言うの書いてみたかった。
私は、このコンビニで働いている。
ごく普通の、このありふれたコンビニで、唯一の私の楽しみがある。
この時間はお客さんがまったく来ないのだけれど、一人だけ、来るお客さんが居る。
そう、それは彼だ。
(今日もまた来てくれた…)
白く美しいその見た目は、この夜のコンビニではとても輝いて見えた。
前までは、つまらなくて、もうここのバイトをやめてしまおうとさえ思ったけど…今は、違う。
彼が来てくれるから。
この時間は、私だけの密かな楽しみだ。
二人だけの空間…この時間がずっと続けばいいのになぁ…。
そんな叶わない夢を抱く。
彼を眺められるだけで、私は幸せで、心の中がポカポカと暖かくなる。
今日も綺麗だなぁ…何でいつもこんな夜遅くに来るのかな?聞いてみたいな、でも話し掛けたら気持ち悪がられるかな…名前とか聞いてみたいな…。
いや、眺められているだけでも幸せだと思わなきゃ。
そうだ!高望みをしちゃいけないよ!
「あの」
「はいぃ!?」
突然、彼に話し掛けられた。
え?なんでそんなに見詰めて…も、もしかして私の事す…いやいや!で、でも、もしかしたらーー
「えと…その、お会計を」
「え!あ、すみません!!」
「あ、いえ、ゆっくりでもいいですから」
彼は頬をかきながら微笑みかけて、優しい言葉をかけてくれた。
私はその言葉に嬉しさを隠せない。
この人は本当に男の人なのかな…?
私が知ってる男の人は、こんな優しい言葉をかけてくれはしない。
むしろ喋れるだけで、私は凄く得した気分になれた。
だけどなんだろう…彼は、どこか違う気がする。
どの男の人とも違う、優しくて、暖かくて…見てるだけで、幸せになれる。
あ、なんか…今なら聞けそうな気がする。
「あの…すみません」
その時、私の口はいつの間にか動いていた。
「はい?」
彼は不思議そうに首を傾げる。
「…お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
……………な……ななななななに聞いてるの私いいいいいいいいい!!こ、こんなのただの気持ち悪い女確定だよ…終わった…きっと、彼はもう来てくれなーー
「時雨」
「へ…?」
「灰原時雨です、いつもお仕事ご苦労様です、佐々木さん!」
「…な、なんで私の名前…」
すると、彼はトントンと、自分の胸元をつついた。
私は、それに気付き、自分の胸元を見る。
あ…そっか、名札。
「それに…あんな可愛らしい笑顔を向けられたら、流石に覚えざるを得ませんよ」
「か、かわ!?」
「いつも、ご苦労様です」
「あ、ありがとう…ございます…お、お会計の方が825円になります!!」
ついテンパってお会計の方に移ってしまった。
ん…?いつも買ってる奴と違う商品?
「あ、それ、貰ってください、僕から差し入れです」
「そんな!悪いですよ!」
「貰ってくださいよ、せっかくカッコつけたのに、これじゃ台無しになりますから、それじゃ、また来ます」
そう言って、彼は一本の飲み物を置いて去って行ってしまった。
夢の様な時間を過ごしてしまった。
私の人生の中で、誰かに可愛いなんて言って貰った事なんてなかった。
急に体が暑くなる。
彼の優しい言葉、一つ一つが私の中に溶けて行く。
何だろうこの気持ち…。
私は、彼がくれたココアにそっと手を触れた。
そのココアは、凄く、暖かかった。
「今日も、頑張ろう」
私は、その暖かいココアに口をつけたのだった。
時雨君この後顔真っ赤だな、間違いない。