11「譲ってなんてやれない」
前回のside???の子の名前がこの話でやっと出ると言うのに、僕っ娘に語尾がかなかな系女子ちゃんはまだ名前が公開されないと言う…早く登場させたい。
あ、あっさり終わったよ私の卒業式。
クッ…卒業式ですら私の目を奪うなんて…灰原君、君は何処までも罪な男だよ!
「おーい!花梨」
「ん、どうしたの?」
私の名前が呼ばれて振り返ると、そこには私の数少ない友人のりっちゃんがいた。
あ、ちなみに花梨ってのは私の名前ね、笛口花梨、って言います、どうぞよろしく。
「花梨は、今日クラス皆でやるパーティー行く?」
「あ~暇だし、一応行こうと思ってるよ」
せっかくだしね、それに皆と会えるのもこれで最後かもだし、思い出作りと言う奴ですよ。
「それじゃ皆こっちにいるから行こー」
「了解!」
りっちゃんの後を着いて行くと、女共の群れが見えてきた…ん!?
私の目に、天使が写った。
あそこにいるのはそう、間違いなく、灰原くーん!!
そして近くに灰原君のお母さんもいる!
なんかあそこだけ神々しいよ!もう私の目が潰れそうなのだよ!
私が灰原君を凝視していると、りっちゃんが肩をポンと叩き、尊い瞳を向けてくる。
「花梨、もう灰原君と会えるのもこれで最後だね」
「…言わないでよ」
そう、もう灰原君と会えるのもこれで最後。
見てるだけで幸せだった…話し掛けられなくても…けど、もう見る事すら出来ない。
その時の私は、その思いだけが渦巻いていた。
もう会えないかも知れない、もう見れないかも知れない、なら後悔してもいい、私は灰原君と一度でいいから話したい。
あわよくばーー
そして、私の足はいつの間にか動いていた。
「ちょ、花梨!?」
今の私を止められる物はいないんだよりっちゃん!
どんな罵倒が来ようと、どんな冷徹な言葉が放たれようと、私は、これから先も灰原君を見て行きたいんだよ!
そして、あわよくば、恋人になりたい!!
「灰原君!」
「ん?」
お母さんとの会話に割り込む様で悪いけど…今言わないと後悔すると思うから。
答えなんてわかってるよ…笑いたければ笑うがいい女子共、私はこれを最後の思い出にこの中学を旅立つ!
「えと…その…あの」
うぅ…き、緊張するぅ…震えるよぉ…。
「?」
首を傾げてる灰原君も可愛い!なんて言ってる場合じゃないか!早く言わないともれなく灰原君の『消えろ』が放たれる。
その前に、決着をつける!
「良かったら、これからクラス皆で卒業祝いのパーティーに行くんだけど、一緒にどうかな!?」
言っちゃった。
すると、クラスの皆がざわつく。
「ゆ、勇者だわ…」
「笛口さん、私達が言えなかった事を…」
「お前の事は忘れない…じゃあな…」
「笛口氏マジやバス…」
君ら灰原君の取り巻き四人ってセットなの?
いや、今はそんな事どうでもいいか…さぁ、人生初、灰原君の罵倒を受ける瞬間だよ。
特と見るがいい、私の滑稽なる姿をねぇ!
「僕も行っていいのかな!?」
「へ…?」
灰原君の口から、驚きの言葉が出てきた。
罵倒じゃ…ない…?
「笛口さん?」
「へ!はい!って…私の名前…?」
「あ、ごめんね?勝手に呼んで」
「い、いえ!それは全然ウェルカムと言うか、なんで私の名前を知ってるのか不思議で…」
「クラスメイトなら覚えてて当然じゃないかな?」
次々と放たれる、その事実に私は驚きを隠せなかった。
灰原君が私の事を知ってくれていたなんて…でもーー
「で、でも灰原君はその…私達女が嫌いなんじゃ…?」
すると、灰原君は苦い笑みを浮かべて、ポリポリと頬をかいて言う。
「確かに、今までの僕は皆に酷いことを言ってきた。
でもね、気づいたんだ…僕は今まで馬鹿な事をしてきたんだって」
「馬鹿な事…?」
「だってそうでしょ?皆の言葉を、酷い言葉で返してきて、それが好意とわかっていながらさ…けど、わかったんだよ、人との繋がりの大切さを、出会いの大切さを、だから僕は、これから変わって行きたいんだ」
そうか…朝の違和感はこう言う事だったんだ。
灰原君は今まで、人を拒絶してきた…けど、今変わろうとしてるんだ。
人との出会いを大切にしようとしてるんだ。
だからあんなに、灰原君の雰囲気が暖かかったんだ。
呆然と、私の口が勝手に動いた。
「灰原君は、変わるんだね」
「うん、だからその為にも、僕もパーティーに行っていいかな?」
灰原君は優しく微笑む。
私の返事は言うまでもなくーー
「勿論!」
イエスだった。
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side灰原時雨
現在カラオケルームの一室。
大体規模が十人は入れるだろうと言う広さだ。
今僕は、その中で…女の子達に囲まれています。
卒業式終わりのハーレムだと?
何だこの男の夢の様な空間!?しかも全員美少女って…ラノベ主人公か!
ヤバイ…心臓の鼓動が鳴り止まない…。
ちなみに、僕のクラスは三十人程。
ローテーションで回してくとか、僕だけ動かなくていいそうで。
後、これ最近知った事実なんだけどね、僕…学校に友達が居ないみたい…なにこれ、すごく泣きたい、今なら赤ちゃんプレイをこなす自信がある。
てか…何で皆さんこちらを見ているんですかね?
ここカラオケですよ?ほら、歌って歌って。
「「「「……」」」」
…わかったよ、わかりましたよ。
ここは大人の余裕を見せてやりましょう。
三十路童貞よ、再び降臨せよ。
「皆、とりあえず何か頼もうか?」
「へっ!?い、いいよ!私たちがやるよ!」
「いいって、ここは僕が頼むよ、皆歌ってていいから」
「「「「神かよ」」」」
…天使から神に昇格したよ。
僕が皆に何を頼むかを聞きながら、注文をして行く。
何故か電話先の女の人の声が震えていたが、まぁそれは置いとこう。
よし、皆デンモクに手を伸ばし始めたな。
後は流れに身を任せ…ちゃダメだろ!
何の為にこのパーティーに参加したと思ってるんだ!
僕は、立上がる。
「皆!歌う前に聞いて欲しい事がある」
そう言うと、皆がこちらを見てくれる。
さぁ、変わる為の第二の試練だ。
僕は、皆に頭を下げた。
「今まで、酷い事を言ってきてごめん!」
「「「「!?」」」」
「か、顔を上げてよ灰原君!私達は別に気にしてないし」
「優子の言う通りだよ!」
「それに今こうして謝ってくれてるなら、もういいじゃん?」
「そうそう!今はカラオケを楽しも、ね?」
皆の優しい言葉が、胸に突き刺さる。
こんなにも優しい人達を、これまで拒絶してきたのか…本当に馬鹿だよ…そう、思うだろう?灰原時雨。
僕は、君になった事でわかったんだよ。
君がどれだけ勿体無い事をしてきたのかを…今更後悔しても、もう譲らない、誰にも譲ってなんてやらない。
こんなに優しい人達で溢れているこの世界に、この出会いを、譲ってなんてやれないよ。
僕はこの世界で、幸せになってやる。
「皆、ありがとう!」
パーティーは、まだまだ続く。
小説を投稿している方は共感してくれると思うのですが、感想が来たときの、あの赤い字を見た瞬間の心拍数の上がり様って尋常じゃないですよね…え、俺だけ?