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冒険者道場・無頼伝  作者: ぬばたま
5/5

下の巻


1/


開拓地に作られた簡素な木造の神殿。そこでオリヴィエは死者の弔いを行っていた。

遺体の無い行商人の空の棺桶には荷馬車から回収した遺品を詰め、

冒険者の棺桶には丸に十字の紋の羽織を詰める。これは弥十郎たっての頼みだ。

その意図は分からなかったが、きっと大切な事なのだろうと彼女は考えた。

葬儀の費用は三人で負担した。誰が言い出したのでもない、全員が一様にそうしたのだ。


慈母神に死者の魂の安息を祈り、そして懺悔する。彼女は弥十郎たちに嘘を吐いていた。

“啓示”を嬉しく思ったのは本当だが、森を出た彼女に待っていたのは残酷な現実だった。

神殿は“啓示”を得た森守エルフという存在を疎み、オリヴィエを厄介者のように扱ってきた。

唯人が信仰する神が、どうして無信心な森守エルフに御力を貸すのか。

彼等は開拓地という僻地かつ危険地帯に彼女を送り込み、それで良しとした。

種族の差に愕然としていた彼女の心を救ったのは、命を懸けて守ってくれた唯人の護衛。

だがオリヴィエには彼を助ける事はできなかった。その後悔はこれからも背負っていくのだろう。


この開拓地で出会った唯人と虎人。初めて出来た異種族の仲間たち。

そこに見えた希望と、彼等を守れた事への誇りを胸に彼女は戦う決意を固める。

それは坑道の戦いよりも困難なものになるかもしれない。

だが慈母神が力を与えてくれたのは、きっとそうする為なのだろうから。


2/


弥十郎は墓地にある無銘の墓石の前に立った。護衛の冒険者の物だ。

そして、おもむろに小刀を取り出すと名前を深く刻み付ける。

これが今の弥十郎に出来る最大の弔いだった。

怯える門番の横を通り抜けて三度街道を歩む。

“不動一念流”との関係が悪化した以上、この開拓地には居られない。

次の逗留先となる道場を探すべく、新たな旅へと向かう。


「おおい」

背後からする声に振り返ると、そこには遠くからでも分かる虎人の巨躯。

袈裟に袋をかけた李趙が手を振って歩いてくる。

何用か、と弥十郎が訊ねると武侠は大いに笑いながら答えた。


「まだ借りが返しきれていない。返し終わるまで付いて行くぞ」

借りというのならば十二分に返してもらった、と弥十郎。

李趙がいなければ坑道で己は無念の内に死していただろう。

その返答を虎人は鼻を鳴らしながら手で拒否を示す。

「それを決めるのは俺だ。俺は俺のやりたいようにやる。

次の目的地も決まっておるまい? ならば旅は道連れよ」

それに弥十郎の作る飯は旨いしなと豪快に笑いながら背を叩く。

ややも呆れながら弥十郎は共に歩く。己はこの無頼漢が嫌いではなかった。


葬送の鐘の音が聞こえ、弥十郎は足を止めて黙祷を捧げた。

“友よ。あの時、お主は望んでいた冒険者と成れたのか”

問う声は誰の耳にも届かぬだろう。聞こえたとしても返す者はいない。

弥十郎は歩む。己が何を目指しているのか、まだ答えは出せぬ。

だから、冒険者として世界を見て回ろうと決めたのだ。


まずは観るより始めよ。時間はまだある。答えを出すのはそれからで良い。


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