第2章 episode3 アリシア王国での1日
アツトは倒れたまま動けなかった。
動くと全身に激痛が走る。
たぶん、腰の骨どころか最悪臓器まで損傷しているかもしれない。
アツトは激痛に耐えつつ目の前の青年とミノタウロスの戦いを見守るしかなかった。
「意識が朦朧としてきた。おれは死ぬのか?」
アツトはそう思いながらゆっくりと目を閉じた。
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どれくらいの時間がたったのだろう。
目がさめるとアツトは布団で寝ていた。
「どこだここ。」
アツトは天井に光るシャンデリアを見て言った。
「おはよう。調子はどうだい?」
黒色をした短髪の青年が部屋に入ってきてそう言った。
「調子はいいってわけではないけど激痛はなくなってます。ところであんたは誰だ?」
アツトは聞き返す。
「おっと失礼。自己紹介を忘れてたね。僕の名前はライオネル・マクレーン。この世界で聖騎士をしている。先日ミノタウロスに襲われていた君を助けたのも僕だよ。」
ライオネルと名乗る青年はそう言った。
「あの時助けてくれた人か!いきなり申し訳ないんですがライオネルさん少し聞きたいことがあるんですけど。」
アツトはライオネルを命の恩人と知り敬語で話し始めた。
するとライオネルはこう言った
「ライオネルでいいよ。その方が僕も呼ばれ慣れているし。それで聞きたいことってなんだい?」
アツトは話し始めた。
「まずこの世界について聞きたい。そしてここに来たはずのラクとアオイが無事なのか聞きたい。」
ライオネルは少し黙り、話し始めた。
「まずは1つめの質問から答えよう。この世界は8つの大陸と僕たちが今いるアリシア王国を含むビギナーズエリアの9つに分けられている。この世界の人々はビギナーズエリアで仕事をしのんびり暮らしている人やこの王国から北に40キロ行ったところにあるワールドコネクトってところから他の大陸に冒険をしに行く人もいる。まぁでも、今は四皇と呼ばれる奴らが大陸を支配していて飛び込む人は少ないけどね。」
ライオネルは続けて2つめの質問に答えた。
「次は2つめの質問に答えよう。アオイとラクという子なら無事だ。ここの一階で寝ているよ。
アオイという子が突然ここに尋ねてきて、ミノタウロスに襲われたと涙目で訴えてきたからとりあえずその子と怪我をしていたラクという子を城内に入れて僕は君のところへ出動したんだ。そしてミノタウロスを倒した後、君をこのアシリア城まで運んだってわけさ。念の為君たちのことは調べさせてもらったけどね。これで君の質問には答えたわけだが、質問はあるかい?」
アツトはすぐさま質問した。
「まずはライオネル、おれと仲間を助けてくれてありがとう。俺たちのことを調べたってことは俺たちがこの世界の人ではないってことも知っているのか?」
ライオネルは答えた。
「もちろん。君たちが異世界から来たということは知っているし、元の世界に帰りたいということも知っている。」
アツトはそれを聞いてさらに質問した。
「それなら話が早い。俺たちはどうやったら元の世界に戻れる?」
ライオネルは少し間を空け答えた。
「1ヶ月前にこの王国に一通の手紙が届いた。送り主は知らないが、そこには異世界よりいくらか人を召喚する。彼らが元の世界に帰る方法は四皇を倒すことだ。そいつらが召喚されたらこのことを伝えろと書かれていたんだ。」
アツトはすぐにこう言った。
「それじゃあ四皇をぶっとばせばいいってわけだな。だからあいつもあんなにいそいで行ったのか。」
ライオネルはアツトに言った。
「四皇を倒すのは無理だと思う。」
アツトは疑問に思いこう言った。
「なんでだ?」
ライオネルはすこし間をおいて話し始めた。
「そもそも四皇とはこの世界で人々を脅かしている4人のことを言うんだけどそれがワールドコネクトからダイブできる8つの大陸のどこかにいるらしい。それで僕は四皇の潜んでいるエリアを探し1つだけ見つけることができて、異世界から来た人たちに情報提供したんだ。その情報を得た人達が一斉にそこへダイブしたんだけど1日で全員が帰らぬ人になった。しかも、そのエリアはステージが4つあって、最後のステージに四皇がいるらしいんだが、まだ誰1人ステージ1を突破できていない。本当は僕も聖騎士として参加したいのだがこの王国を守らなきゃいけない任務があるから行きたくても行けないんだ。だから実質四皇討伐は不可能に近い。」
アツトはすこし考えてる顔をして言った。
「四皇ってどんなやつらなんだ?」
ライオネルは難しい顔をしたが答え始めた。
「雷帝・麒麟、堕天使・ルシファー、戦神・オーディン、悪戯神・ロキ。これが四皇の名前だ。麒麟に関しては居場所がすでに判明している。さっき連絡が来たのだが、キョウスケという男が麒麟のいるヘブンズ・ガーデンにダイブしたそうだ。」
キョウスケという名を聞きアツトは驚いた。
「キョウスケだって!?」
ライオネルはアツトの反応に驚き質問した。
「キョウスケという人と知り合いなのかい?」
アツトはすぐに返答した。
「キョウスケとは元の世界では同じ学校の友達なんです。」
ライオネルは納得した顔で言った。
「なるほど。その子はどうやらソロで入ったみたいだ。あの世界にソロでいくのは自殺行為にも等しい。僕はラクくんをワールドコネクトに治療のために連れて行くが、君はどうする?」
アツトは即答した。
「もちろん行きます!アオイとは話をしますが、キョウスケと合流したいし元の世界にも戻りたい。だから行きます!」
ライオネルはそれを聞いてこう言った。
「相手は四皇。死ぬかもしれないよ?それでも行く覚悟があるかい?もし覚悟ができたなら明日の朝、城の入り口に来てくれ。よくアオイくんとも話すんだよ?」
アツトは言った。
「もちろんです!」
そう言うとライオネルは部屋から出て行った。
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その夜、ラクを見舞いに行ったあとアオイと部屋に戻り話をした。
「ということなんだけどアオイはどうする?ミノタウロスよりも危険な奴がたくさんいる世界に行くことになるから強要はしない。」
アツトはこの前の経験を思い出しそう言った。
だがアオイは違った。
「もちろん行くわ。キョウスケの居場所もわかってさらにそこに四皇がいるのなら一石二鳥じゃない!死ぬことが怖くてこのゲームをクリアできるはずがないわ。」
アツトはアオイの返答におどろいたが笑顔で返答した。
「そうだな。元の世界に戻るには戦うしかないもんな。」
アオイも笑顔で返答した。
「えぇ!」
四皇討伐という不可能に近いことに挑戦を決めたアツト達。だがアツト達はこのとき、これから過酷で悲惨な現実が待っていることは知るよしもなかった。
翌日、アツト達は城の外に出ると一台の馬車とその隣にライオネルが立っていた。
ライオネルはアツト達に尋ねた。
「覚悟はできたんだね?」
アツトとアオイは声をそろえて言った。
「はい!!!」
ライオネルは笑顔を見せたあと言った。
「それじゃあ、ワールドコネクトへ出発だ!!!」
ライオネルがそう言うと馬車は猛スピードで走り始めた。
これから今までにない過酷で悲惨な冒険が幕をあける。