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北野坂パレット~この街の色~  作者: うにおいくら
~悩める一年生たち~

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確認


 その日、三年生会議が始まる前に僕はシノンの教室までわざわざ出かけて、音楽室での出来事のあらましを伝えた。


「……と言う話なんやけど、シノンはなんか心当たりとかある?」

と僕が確認すると


「う~ん。そんな事聞かれたかなぁ……」

と忍は全く心当たりがないようで、首を傾げながら考えこんだ。


「え?」

シノンの言葉に肩透かしを食ったような気がして、思わず聞き返してしまった。


「ホンマに記憶ないなぁ……あぁっ!!」

とシノンは何かを思い出したように小さな声をあげた。


「なんか思い出したか?」

と僕が確認すると


「そういえば私が譜読みしている時に唐突に『シノン先輩って部活内恋愛ってありですか?』って聞かれたから『それは無いわ』って応えたけど、もしかしてその事かな?」


――もうそれしかないだろう――


「私は村主に『部活内恋愛って興味ありますか?』って聞かれたんやと思って、部活で恋愛なんて考えた事ないから『無い』って応えたんやけど……もしかしてそれが原因?」


――だから、それしか原因ないやろ!――


と二度も同じ事を叫びそうになった。


 辞めた理由が相当くだらなかった上に、更にそんなくだらん聞き間違いまで追加されていたとは思いもよらなかった。

そしてそんなくだらん理由の混合のおかげで僕はここに居るのかと思ったら、本当に情けなくなってきた。


 ともかく

「もしかしなくてもそれが原因だと思う……」

と、心を落ち着かせながら僕が言うと


「ええっ!! そんな事で……」

と忍は絶句して言葉がそれ以上出てこなかった。


 その気持ちはよく分かる。声を大にして言ってあげたい。


――これだから恋愛ビギナーは嫌いなんや――


 もう脱力する以外ない。これで僕は何度脱力しただろうか? もし『世界脱力選手権』があれば優勝する自信がある。


迂闊(うかつ)にものも言えんなぁ……」

とシノンはため息交じりに言った。僕もそれに関しては激しく同意した。


――『脱力選手権』の二位の座は君にあげよう――


と僕はシノンを見ながら密かにそう思っていた。




 三年生会議の冒頭で今回の顛末を忍と僕とで説明すると、参加していた全ての三年生が僕たちと同じように脱力していた。拓哉と哲也は机に突っ伏して動かなくなっていた。


「そんな事で……」

と冴子は絶句して脱力を通り越して溶けそうになっていた。



 その日の三年生会議は冒頭からそんな感じだったので、力の抜けた……良く言えば肩の力が抜けた終始和やかな、どうでもいいような雰囲気で話し合いになった。


 三年生の引退は冴子が十一月末までコンクールに出場する可能性があるので、十月ではなく年内で引退と言うユルイ決め方になった。要するに冴子のコンクールを器楽部で応援したいと言う事だった。それには僕も賛成だった。


 それでも冴子は気にしていたが、

「二年生や一年生からも同じように言われとうし、少しでも先輩たちと一緒にいたいと言うてる」

という瑞穂や琴葉の言葉に押し切られ、冴子もそれ以上は何も言わなくなった。


 結局『引退は昨年と同じように一月になるんだろうな』と、思いながら僕は聞いていた。器楽部らしいと言えば、らしい決め方だった。


 で、来年四月からの新体制は部長には予想通りにコンマス共々東雲小百合に決まった。そして副部長は水岩恵子となった。誰も反対意見も述べず満場一致で決まった。妥当な人選だと僕も思った。

もちろん発表は卒部式当日と言う事になるのでそれまではオフレコと言う事になっているが、多分下級生は言われなくても予想はついていると思う。


 これからクリスマスの演奏会、正月明けの定期コンサートが控えていた。これに関しては三年生は自由参加となった。受験組は流石にこの時期までは部活に専念することはできない。もちろん僕は残る組に入るが、少し寂しい気がする。




 三年生会議終了後、部活に行くと(シノン)と瑞穂の前に稲本と村主が、飛んできて土下座せんばかりに謝り倒していた。

その二人の後ろで椎名恵も恥ずかしそうに頭を下げていた。


音楽室に戻って来た三年生は、生暖かい視線で三人を見ていた。


――稲本も友達思いな奴やな――


と僕は村主と一緒に頭を下げている稲本に同情していた。


という事で、我が器楽部は今日も平和である。

多分これからも平和なんだろうと思う。これも器楽部の伝統となっていくんだろうと謝り倒している村主を見て確信した。


2025.05.11 加筆修正

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