三年生会議 その2
「部長は『今年は同じようにやってはダメだ』と言いたいんやね? なんか案とかあんの?」
と忍が冴子に問いかけた。
「うん。ない」
と冴子はきっぱりと言い切った。潔いほどに。
「なんなんそれ? ノープランかい!」
と忍はあからさまに呆れた表情を見せた。
「いや、そういう訳ではないんやけど……その前に聞きたいんやけど、今の里親制度どう思う?」
と冴子は真顔でここに居る三年生全員に聞いた。
「それなら今年もやるって部長も言っとったやん」
と琴葉が口を開いた。
「今年も担当者を決めて三年と二年が教えるって決めとったやん。去年はそれで上手くいっとったし……考えが変わったん?」
と言う琴葉の意見に出席していた三年生は頷いた。
僕もあれは今年も継続するものだと、何の疑問も感じていなかった。
「去年はそれで良かったと思っとう。でも今年は管楽器兼務の弦楽希望も入れると十四人もおるん。ちなみに去年は管楽器兼務も入れて七人やったで」
と冴子は答えた。
「倍かぁ……」
誰とはなく皆がその言葉を口にした。具体的に数字で表されると冴子の危惧がより一層伝わってくる。
「だから、今年はどうすんのか? と聞いている。私は去年と同じようにやると脱落者が出ると思うてる」
「じゃあ、他にたこさん・いかさんチームとか作るとか?」
と哲也が言った。多分こいつは何も考えずに発言したと思う。
「チーム分けはどうすんの? 誰が教えんの? あんたら自分たちのアニヲタバンドも演奏が出来ひん様になんで。で、そもそもなんで魚介類なんや?」
すかさず瑞穂がツッコんだ。
「……う~ん」
と哲也は唸って撃沈した。やはり何も考えていなかった。これこそノープランの見本と言えよう。それにしても瑞穂のアニヲタバンド呼ばわりは気にいらないが、哲也にはせめて魚介類を選んだ理由位は理路整然と述べて欲しかった。
「でも、それは一つの案としてはありかも」
と珍しく宏美が助け舟を出した。みなが彼女に注目した。
「去年は琴ちゃんやシノンが新入部員の教育してくれたやん。うさぎさんチームでの全体演奏と言う形でやけど……。二学期になってから個人個人の上達ぶりに差が出始めて、それを気に掛けた彩音さんが上級生を指名して『里親制度』を作ったんやったと思うんやけど……亮ちゃんも恵子ちゃんの教育担当に指名されていたよね」
と宏美は僕に話の矛先を向けた。
「ああ、その通りや」
と僕は応えた。
「恵子ちゃんは元々真面目に練習する子やったけど、演奏の基本を琴ちゃんが教えて、うさぎさんチームで合奏する楽しさを覚えて、そこに亮ちゃんが個人レッスンでフォローしたというのが上手くいったんやと思う」
確かに恵子は一気に上手くなったと思うが、僕が担当になる前からそれなりに弾けるようになっていた。
そういった前向きな部員には先輩の個人レッスンは有効かもしれない……と宏美の話を聞きながら僕は心の中で激しく同意していた。
「じゃあ、夏までは基礎練習でええとしてもその後やな。バンドを組ますよりもオーケストラをメインにした方がええんとちゃうかな? 教えやすいし」
と霜鳥が思いついたように言った。彼も哲也と近しい思考回路の持ち主かもしれない。
「夏までは基礎練習は賛成や。ボーイングは基本中の基本やからな。でも夏以降は一気にオーケストラをメイン?……さすがにそれは無理やろ? そんなレベルに直ぐにはなられへんと思うで」
とすかさず早崎が疑問を投げかけた。
早崎の言う通り僕には新人がオーケストラに参加して演奏している姿が浮かんでこなかった。現実味がないようにしか思えなかった。この場にいた三年生が全員同じような事を感じていたようだ。しばらくの沈黙が続いた。
まだまだ器楽部として活動を始めて二年目。実績も経験も少なすぎた。
その時、冴子が口を開いた。
2025.05.03 加筆修正




