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北野坂パレット~この街の色~  作者: うにおいくら
~悩める一年生たち~

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三年生会議 その1

それでは今から、今年の部活の方針を決めたいと思います」

と冴子が『三年生会議』と書かれた黒板を背に会議の開始を告げた。

他の十二人の三年生が教壇に立つ冴子と瑞穂に対峙するように座っていた。


 場所は早朝の冴子の教室。いつもは放課後行われる三年生会議だが、僕たちの代になって初めての会議という事で早朝となった。


 冴子は僕たちを見まわしてから

「今年も新入生が沢山入部してくれました。二十人以上の新入部員を迎える事が出来ました」

と話し出した。


「ほぉ。そんなに入部したんや。案外残ったな」

霜鳥(しも)が感心したように頷いた。

体験入部で参加していた新入生の多くが残ってくれた。思った以上に新入部員を確保する事が出来た。


「ただ経験者も何人かいましたが、圧倒的に未経験者が多いです」

霜鳥(しも)の言葉に釘を刺すかのように冴子が言葉をつないだ。

と同時に

「なので昨年までと同じような活動は、無理ではないかと思うんだけど、どうやろう?」

と皆の意見を求めた。


「たとえば?」

今度は哲也が聞き返した。


「去年は経験者が多かったから、それなりに手が空いている人が教える事が出来たやん。今年は未経験者が多いやん。管楽器と兼務の一年生もみな弦楽器は未経験やし。それを入れると未経験の弦楽器十四人もおるねんで……どうやって教えるんや? という事にならへん?」

と冴子が言った。


「あぁそうかぁ……」

と全員が顔を見合わせて再認識した。こうやって改めて聞かされると、新人教育に関して誰も何も考えていなかった事がよく分かった。皆『初めて気が付いた』みたいな顔で冴子の言葉を聞いていた。

本当に部長になった冴子は本当に色々なところに気が付くようになったと思う。


「それに去年は好きな者同士でバンドを組めたけど、今年の新入生ではそれは無理っぽいと思わへん? まともに音も出せない新入部員がバンドを組んでも、どうしようもないと思わへん?」

と冴子の隣に立っていた瑞穂が続けて話した。


「確かに……」

と三年生は全員が黙って頷いた。直接新入部員と接していないこの時期だが、冴子と瑞穂の言葉には説得力があった。


 僕たちがこの器楽部を立ち上げた時、六人全員が経験者だった。その内五人は全国大会出場レベルの演奏者だ。しばらく経ってから入部した未経験者も居たが、案外経験者も多かった。だからバンドも組みやすかった。


「去年は新人教育を琴葉たち『うさぎさんチーム』がやってくれてたやんなぁ?」

と僕が聞くと

「そうやで。最初はね」

と琴葉が応えた。


「最初?」

琴葉の言葉の意図が掴み切れずに僕は聞き返した。


 琴葉の代わりに冴子が答えた。

「そう、去年の夏前から器楽部は人が増えだして、部活らしくなったやん。それまでは経験者六人が好きなように演奏してたけど……」

と言うと冴子は僕と哲也と瑞穂の三人に視線を送った。


――なんだ?――


と思ったがその視線には何も意味は無かったようだった。


「で、それからは……三年生の三人は別格として、二年生と一年生は二チーム制でやっていたやん。特に琴葉が見ていたうさぎさんチームは、未経験の一年生の面倒を見て全体演奏をしていたやん。その後、霜鳥(しも)とか早崎(ハヤン)とか吹部経験者六人が入部してきたけどベースは管楽器やん……」

冴子の言葉を全員が黙って聞いていた。


「夏休みのお盆明け位から吹部と一緒にオーケストラをやるようになって、それを機会に彩音さんが二学期になって『個別指導やろ』って里親制度が始まったんやん。覚えとう?」

みなが一斉に記憶を辿り出した。確かに冴子の言う通りだった。


「それは覚えとう」

と僕は答えた。


 僕は音楽コンクールの件があったので記憶の中心はそこにしかなかったが、冴子の話を聞いて色々と思い出した。ついでに彩音さんから『恵子をよろしくね』と頼まれた時の事まで思い出して、懐かしい気分に浸ってしまった。もっとも僕が彩音さんに恵子の事を頼まれたのは、十二月に入ってからだったが……。


2025.05.02 加筆修正

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