星空の女神
解釈は人それぞれです。
夢を追って塵になった人間は、言葉の通り星の数ほどいる。母星が青く美しかった頃から、それは変わらない。
「チカ・リトスランテ。聴いていますか」
はい、と小さな声で答えて、チカは俯いた。
「最近、あなたは外に憧れすぎです。あの外には死しか待っていないのだと、ずっと言っているでしょう」
はい、ともう一度答える。それだけ。反省なんてしない。する意味もない。
女教師は溜め息をついて、講義を再開した。また星の海を眺め始めたチカを、リュウセイは見ていた。
この宇宙船──シリウスの外には、死の世界が広がっている。そんなことは分かっている。でも、外に出てはいけないなんて。
狭い。世界が狭い。窮屈だ──。
「お前、外に行きたいんだろ」
リュウセイがそう言ってきたのは、そんな風に鬱屈とした日々の中だった。
「俺も。どうせ殺されるんなら、自分で死にたい」
「なんで、知ってるの」
チカは動揺した。誰にも、番号を教えたことはなかったのに。あの女教師だって、チカがどんな境遇に置かれているか知らないのに。
それを察したのか、リュウセイは質問には答えずに自分の右の腕を見せた。そこには、1783-56924と刻まれていた。
「この印があって、帰ってきたやつなんていない。だからせめて」
リュウセイははっきりと言った。
「あれを見たい」
チカはゆっくりと頷いた。
「私も」
星空には、女神が住んでいる。
それはそれは美しい人らしいが、恥ずかしがり屋だから実の顔は見せないのだそうだ。代わりに、その姿を見た人が最も愛していた人間の姿を借りるそうだ。
殺されるんなら自分で死にたい。それは、チカも思っていたことだった。
もう一つの宇宙船、アンタレス。その船に行って、箱舟を盗む。そこで銃殺されたらそれはそれで仕方ない。痛みは怖くない。怖いのは、願いを叶えずに死んで塵になることだった。
「早く」
リュウセイに促されて、チカは船の天井を蹴った。アンタレスに乗り移る。こんな方法で乗り移れてしまうものなのだ。リュウセイはすごい。
箱舟が格納されている場所に忍び込むと、リュウセイはそれを慣れた手つきで起動した。チカも手筈通り、それに乗り込む。
箱舟は動き出した。アンタレスの工員たちがこちらに銃を撃ってくる。でも構わない。痛くなんてない。リュウセイがいれば。
女神がいるという場所まで来て、二人は箱舟を捨てた。
息ができない。でも痛くなんてない。苦しくもない。リュウセイも笑っている。チカはそれに微笑み返した。平気。
美しい女神がいた。愛する人間のいない二人には、それぞれ女神の姿で見えた。──いいや、愛する人間はいる。すぐ隣にいる。彼を、女神と間違えることはないから、チカには女神の姿で見えた。
「女神様」
チカは女神に近づいていった。リュウセイのうめき声が聞こえた。でも、リュウセイもチカも、苦しくない。痛くなんてない。
「ありがとうございます」
チカはその美しい頬に感謝の意を込めて唇をつけた。リュウセイもそれに倣う。
「願い、叶いました」
チカが言うと、女神は微笑んだ。
そして、二人は星になった。
女神は笑う。
夢で見た話をそのままお話にしました。
どうしてこうなったのかは秘密ですよ。
本当はちゃんとしたお話でしたが、あえてこうしました。めんどくさいわけじゃないですよ、断じて。違いますから。
何度も言っていますが、解釈は人それぞれです。これだけで本当のお話が見えたり見えなかったり……見えないですね。自分でも無理だと思います。無茶苦茶な話ですから。
──なんてったって即興で考えた暇つぶしなので。