08.厨房に料理人が押し寄せる。
「御主人様、大変です。売店の主力商品であるアイスの原料がありません。」
「うっそれはまずいわね。牛乳がないんじゃ作れないじゃない。どうしよう。」
さすがに私の魔法でも牛乳と書けば確かにミルクになるのだが味が今一つおいしくない。
どんなものでも本物にはかなわない。
さて、どうしたものか?
私が悩んでいると厨房に突然ガタイのデカイおっさんが現れた。
「ここが厨房か。料理長はどこだ?」
私は作っていた料理の手を止めてその男を見た。
すぐにガタイのデカイ男が私に気がつくと睨み付けるような勢いで話かけてきた。
「おい配ぜん係。料理長はどこだ?」
「はっはいぜんって・・・。」
私が唖然としているとガタイのデカイ男は持っていた箱を床に降ろした。
ドン
箱を降ろした途端木箱からガラス同士が当たった時のカランと言う音が聞こえて私は思わずその男が持っていた箱の中を覗いた。
「これって!」
その中身を見た私は立ち上がるとその男の襟首をガシッと掴むと引き倒す勢いで問い正した。
「ちょ・・・ちょちょちょちょっとこれ。ミルクじゃない。」
「それがどうした。」
男はなんでそんなことで慌てているんだとアホ面をして私を見返した。
「なんでここにミルクがあるのよ!」
「料理長にあいさつがわりに持ってきたんだ。」
「エライ。」
私はそう言ってその男が持ってきたミルクを受け取ると早速出店用のアイスクリームを作り始めた。
「おいそれは料理長に・・・。」
男の怒鳴り声が途中で止まった。
「一花、そっちのボウルを持って来て頂戴。」
私が鬼気迫るの勢いで作る料理を見て男は隣で目を丸くしていた。
私はかまわず厨房でボサッと突っ立っている男に命令した。
「それ掻き回して頂戴。その間に今日の限定ムラサキイモを茹でるからそれをすり潰すのも手伝って頂戴。」
私の命令にまだ頭が回っていない男に怒鳴りつけた。
「黙って動く!」
「おう!」
男は私と場所を変わると鍋の中を焦げ付かない様に掻き回し始めた。
それから厨房は戦争だった。
開店前に全て作業を終了しなければならない。
気がつくと全員で呼吸も乱れないチームワークで動いて何とか開店間際に全ての作業を終え一花と二花が野外にある売店で売るアイスクリームを抱えて厨房を出て行った。
その時になってやっと私は隣でテキパキと働いてくれた男を見た。
今も言われなくても調理の後片付けをやっている。
「あなた名前は?」
男はこちらを気まずそうに見ると名乗った。
「ここの上にある領主屋敷の厨房で昨日まで働いていたリョウだ。」
男の手はその間も忙しなく作業台を磨いていた。
「リョウね。ここで働きたいってことは私の下で働くことになるけどかまわないの?」
「おい、いいのか?俺今結構無礼な態度をとったぞ。」
「腕は今の後片付けを見てればわるから問題ないわ。でもここで働いてもらう以上私の指示には従ってもらうわよ。それで問題ないならハッキリ言って人出が足りないんであなたを今すぐに雇うわ。」
リョウは目を輝かせて私に頭を下げた。
「料理長、よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。」
私は手を差し出した。
信じられないがそれから同じことが五回あって一か月のうちに厨房には新たに5人の料理人を雇うことになった。
どの人物も意欲的で良く働いてくれた。
おかげで追加魔法で一花たちの仲間を作る必要がなくなってちょっとホッとした。
幾ら”使い魔”と説明しても20名を超えるとさすがに無理があると思ったからだ。
でも私のこの考えが後になって大変な人物と知り合うきっかけになるとはこの時私はつゆほども考えていなかった。