07.あっという間に借金返済!
一週間後いよいよレストラン兼宿泊施設をお披露目する日がやってきた。
まずは最年長の中年のおばちゃんことアンナと一郎が港町の端まで私が前世の記憶をもとに作った小さな赤い観光バスを走らせてお客様を迎えに行った。
宿泊客は今回は申し込みのあった先着10名様を招待した。
値段は港町より割安値段で設定されているのでちょっと裕福な商人がほとんどだろうと思いきやなんでか全員がこの近辺に領地を構えているお貴族様となった。
宿泊費は前払いが前提の為踏み倒されることはないが気位の高いお貴族様相手ではとても疲れそうだ。
と言っても最初なのでお客様は選んでいられない。
私は腹をくくって食事については万全の態勢で臨んだ。
一応元は貴族だったので食事については何を言われそうか考えるまでもなく理解出来るのでそれに対応すればいいだけだからこれは簡単だ。
問題は接客だ。
今までは接客される側であってする側ではなかったのでそこがまったくわからない。
お手上げ状態だ。
私がガシガシと頭を掻き毟っていたところ雇った中年のおばちゃんの中に昔王宮で侍女をやったことがある人物がいることがわかった。
私は喜び勇んで彼女を口説き落とすとみんなの講師になってもらった。
ちなみに講師をやったおばちゃんはマカさんという名前で白髪のやさしそうな美人さんだった。
さぞややさしく丁寧な教え方をすると思いきや、いざ店の接待用のドレスを着て講師になってもらった途端、豹変した。
手には何も持っていないはずなのに何故か鞭が見えた。
顔はにっこり笑いながら彼女の口からは厳しい言葉が飛ぶ出した。
接客に携わる全員がビクビクしながら一生懸命それに取り組んだ。
そのかいあってほぼ一週間でおばちゃんたち犬耳美少年たち猫耳美少女たちがあっという間に彼女に合格を貰った。
しかしなんでか私だけが最後までダメ出しをくらった。
「なんでどこがダメなの?」
私が喰ってかかると彼女からさらりと止めを刺した。
「偉そうに見えるからです。」
「そっそんなことはないわ。」
私はちょっとどもりながら反論したがあっさり拒否された。
「はっきり言っていくら練習しても無駄です。」
彼女はさすが王宮で働いたことがある女性らしく雇い主の私が相手でも意志を曲げることはなかった。
それどころかお貴族様が来た時の接待は絶対私がするのはダメだときっぱり断言された。
「そんなぁー。」
私は子供っぽくだだを捏ねて見た。
「ダメです。お客様を不快な気持ちにさせたいんですか?」
彼女は厳しい表情で私に鋭い突っ込みを入れて来た。
「いえ、そんなつもりでは・・・。」
私は押され気味に後ろに下がった。
「ダメです。」
再度彼女は念押しした。
「分かりました。」
私がしょんぼりと項垂れながら最後は了承するとトボトボと台所に足を向けた。
そこに背後から彼女の励ましの言葉がかけられた。
「試食でいただきましたものは王宮の料理人を遥かに凌いでおりますのでそちらにお力をそそぐ方が賢明かと思います。」
私は彼女のせーいっぱいの励ましを受けたがそれでもすぐには復活できず、項垂れながら頷くとそのまま台所に入った。
台所に入ると八花、九花、十花が下ごしらえを完璧に済ませて私を待っていてくれた。
「お帰りなさいませ、御主人様。」
前世のメイド喫茶のような挨拶を受けて私は目をパチクリさせてしまった。
自分で作った魔道具でありながら美少女猫耳娘たちの笑顔に癒された。
メイド喫茶なんてなにがいいんだ!
と前世の私は思っていたが今は心の中から彼らに詫びたい。
ごめん。
心が折れそうなときって美少女の笑顔っていいよね。
自然と涙がホロリと落ちた。
やばい思考がおっさん化している。
私は気合を入れ直すと今日通りで売りに出すアイスクリームを作り始めた。
もちろん定番のチョコレートとミルクだ。
それに気温も高いのでシロップがつきのかき氷も準備した。
それとたこ焼き・焼き鳥・・・。
それらを作りながら仕上げを三人に指示すると自分は今日の夕食に出す豪華料理の下ごしらえを開始した。
二時間後出店分が出来私が味見した後三人に通りにある出店に運んでもらいそのまま売る準備に入ってもらった。
そこにタイミング良くガヤガヤした声が聞こえお客を連れたバスが戻ってきた。
これからが正念場だ。
私たち全員はそれから一致団結して働き始めた。
お客様は次から次へと訪れて最初の予想をはるかに超える人出となった。
そして辺りが真っ暗になっても私が作った前世記憶の街灯が大活躍してほんのりとそこから見える港町とその周囲を照らしそれが景観とよりマッチして美しい夜景をさらに倍増させた。
私が始めた複合施設は始めた本人の予想をはるかに超える形で大成功を納めた。
当初は予定の一か月で借金を返済しようと計画していたのだが実際は借金を返してもその予想をはるかに超えた利益を生み出していた。