61.戦争!
文章の中に、一部、残酷な描写があります。苦手な方は、退避して下さい。
私たちが門に近づくとそこにはいるはずの守備隊の姿はすでになかった。
それどころか周囲には血の匂いが濃厚に漂いそこかしこに真っ赤な血が飛び散りたくさんの兵士の死体がそこにあった。
誰がやったの?
なんでこんなことが起こっている。
それになんでここには誰も王宮から応援の兵が来ないの?
かなりの疑問符を浮かべながらも三人でお互いの顔を見合わせ頷きあってから私たちは周囲を警戒しつつその門を通って街の外に出た。
そこにも兵士の死体が転がっていたがそれ以外の人の気配はまったくなかった。
気配がない。
背筋がぞわぞわとしてきた。
あの砂漠で虫に襲われた時のことを思い出し思わず全身に鳥肌がたった。
いかんいかん。
あれを思い出すのは禁忌よ。
私は頭を振ると思考を切り替えてまわりをもう一度見た。
ふと音が聞こえそっちを見るとここからあまり離れていない場所から土煙と共に”中の国”の言葉で喚きながら迫ってくる兵士の姿が見えた。
うそなんでこっちに来るの?
なんなのあれは?
ここから離れて王都に戻るべき?
でも彼らが王都の中になだれ込んで来れば逆に外に逃げ道が塞がれてしまう。
と言っても反対方向の砂漠に向かうには一旦王都に入って違う門に向かうしかない。
徒歩でその門に向かっているうちにぜったい王都の中であの土煙を立てて迫ってくる”中の国”の兵士に出くわしてしまう。
それこそ最悪だ。
ではどうすべきか。
このまま歩くにもさっきまで慣れない靴で走っていたせいか靴擦れが出来ていてじみ痛いしどっちに行っても追いつかれる。
くそっこの状況何の罰よ。
いっそ三人を連れてストロング国まで転移しようか。
いやいやさすがにそれは無理がありすぎる。
でも自分だけが転移して逃げる気にもなれないし・・・。
「大丈夫ですか、ご主人様?」
「あんまり大丈夫じゃないけどなんとか距離があるけど・・・。」
距離・・・。
そうよ。
あの国境沿いの砦までの距離ならぎりぎり大丈夫だわ。
ちょっと問題なとこはそれをするとその後数十時間は魔石を使っても体力的に転移が出来なくなるのと間違いなく転移した瞬間指一本動かせなくなるってだけで後は問題ないわ。
なんとかなるかも。
私はドレスの中に隠していた小袋を出した。
まだ大分残っている。
これだけあれば・・・。
「ご主人様?」
いきなり動きを止めた私を心配した一郎が私の傍まで戻って来ると声をかけてきた。
ここは決断の時よ。
私は小袋の中から魔力増強用の魔石を半分ほど取り出してそれを握ると一郎にこれから自分がしようとしていることを話した。
「そんなこと可能なんですか?」
「もちろん出来るわ。ただ・・・。」
「ただ?」
一郎たちがゴクリと喉を鳴らした。
「転移した後すっごい疲労に見舞われるんでまったく動けないのよ。」
そう本当にまっーたく指一本動かせないのだ。
ただしその時ほかの誰かにもう一度魔力増強用の魔石を私の手に握らせてくれればそれを使ってすぐに回復出来る。
うんこれが一番てっとりばやくて安全よね。
私は一郎たちと肩を組んで円陣を組むとすぐに転移魔法を発動した。
シュッ!
バッ!
一瞬にして私たちは国境沿いにある砦に転移した。
途端剣戟の音で周囲を取り囲まれた。
「おい、こっちにもいるぞ殺せ!」
全身を鎧で固めた”中の国”の兵士が襲いかかってきた。
「次郎、三郎。ご主人様を守れ。」
身動き一つ出来ない私を庇って三人が円陣を組むように斬りかかって来た兵士の剣を受けた。
うそーなんでここにも”中の国”の兵士がいるの?
いやぁー身動きできないのに。
一郎たちは敵から私を庇うだけでせいっぱいでとても私に魔石を握らせるどころじゃない。
お願い。
誰でもいいから私に魔石を握らせて!
三人は防戦一方なのでジリジリと押され後退している。
そのうち身動き出来ない私に向かって三人の隙を吐いた一人の”中の国”の兵士が襲いかかって来た。
嫌だぁー。
こんな所で死にたくない。
思わず目を瞠ったが襲ってくるはずの兵士がいきなり私の前で倒れた。
「大丈夫か?」
そこに銀色の髪を砂漠の風に靡かせながら颯爽とストロング国の第一王子であるダンが現れた。
「ダン王子!」
「こんな所で何をやっている。」
ダン王子の登場で敵がひるんだ隙に一郎は私に駆け寄ると手に魔石を握らせてくれた。
すぐに魔力増強用の魔石を使ってその場から起き上がるとダン王子が馬上に引き上げてくれた。
「お前らもついて来い。」
私を後ろに乗せたダン王子は真っ直ぐ敵陣を抜け自軍に向かった。
一郎たちも獣人の力を使ってダン王子の後に続く。
私たちはあっと言う間に敵陣からストロング国の兵士がいる安全な場所に連れて来られた。
「一体何であそこにいたんだ!」
ダン王子に自軍の主力部隊がいるテントの前に降ろされると怒鳴りつけられた。
「そこまでだ、ダン。」
「お爺・・・。」
「銀獅子様、敵が二手に分かれたようです。」
テント前に駈け込んで来た兵士に二人は呼ばれた。
「話は後だ行くぞ。」
同じような銀髪を流した渋めの兵士に連れられダン王子はすぐにそこからいなくなってしまった。
あれ、誰だったの?
私は説教を免れ命拾いしたことで襲ってきた安堵感でその場にへたり込んだ。
力抜けたぁー。
死ぬかと思ったぁ。
それにしてもなんでここが戦場になってるの?
いつからこの状況なの。
戦場!
私はハッとして一郎を見た。
「大丈夫です。一花はへんな所で強運ですから。」
そうだといいけどやはり心配だ。
自分たちより先に砂漠に向かった一花たちは大丈夫だったのだろうか。
といってもこの状況では捜しに行くこと自体無理だし。
とにかくストロング国の勝利で早く終わってほしい。
私たちは心の中でそう祈った。




