58.黒幕!
私は翌朝。
王都に戻るヴォイを見送ってから空間と空間を繋げる魔道具を使って後でマイルド国に送るアルコールを大量に送る必要があるのでその為のお酒を造るためにアルコールを増産するようにアルコール作りを監督している七花に言付けると宿屋にある自分の部屋に戻った。
すぐに昨夜ヴォイに貰った革袋を開けると袋の中に入っていたもので使い捨ての魔力増強用魔石を数十個作った。
これで私の魔力を底上げすればなんなく国境を超えられる。
実はマイルド国を出る時に念のため魔法探知機用の魔道具を向こうの店に設置して来たのだ。
これを転移魔法を発動する前に作動させて魔法探知がされているかどうかを確認してから転移すればマイルド国の人間に見つからずにマイルド国に侵入することが出来る。
もっともこの転移。
どこでも転移可能かというとそう言うわけではない。
一応前提条件として転移する前にその場所を熟知していることが必要だ。
だが幸いなことにあの国のことなら目を瞑ってでも歩けるくらい詳しいので私はあの国なら魔力さえあればどこでも転移が可能だ。
それこそあいつらがいる王宮の中でも・・・。
思わず手をギュッと握ってしまい持っていた魔石が砕けてしまう。
いけない。
何をやっているんだろ。
私は息を吐き出して力を抜いた。
冷静に考えなくっちゃ。
さすがにいきなり王宮に転移すれば着いた途端に捕縛されるに決まっている。
まずは自分が経営するマイルド国の店に閉店後を狙って転移すのが一番問題ないだろう。
ただちょっと心残りなのは復讐のターゲットに今現在あげられるのが王太子夫妻だけだということだ。
彼らに関与して両親を罠に掛けた他の連中に辿り着く前に彼らを屠るのは最初の計画にはなかったことだがなんだか周囲の雲行きがあやしい。
かなり時期は早いが確実に敵だとわかっている二人だけでも屠ってしまおう。
私はそう決心するとさらに数十個の魔力増強用魔石を追加で作成した。
それを袋にゴロゴロと入れてふと顔を上げるて窓外はいつの間にか薄暗くなっていた。
そうとう集中していたようでまったく時間の流れに気がつかなかった。
私はちょうど扉をノックした七花に呼ばれ食堂に向かった。
私が食堂に顔を出した途端厨房で野太い声の悲鳴があがった。
「「「師匠!」」」
オッサンに悲鳴上げられてもうれしくない。
嬉しくないけどニコニコ顔で迫ってきてもじもじしながら尊敬の眼差しで質問されるのは何だかちょっと新鮮で悪くない気分になった。
結局懇切丁寧に指導していたら夕食の時間が過ぎ就寝時間になっていた。
私は厨房にあった残り物で自分用の夜食を作ってそこで食べると一緒に食べていた料理人たちにこぞってそれも教えてくれと強請られ結局部屋に戻れたのは真夜中をかなり過ぎてしまった。
疲れたまま部屋に戻ったが寝る訳にいかなかった。
一郎との定時連絡をまだしていない。
疲れた体に鞭打って衣裳部屋に入ってから壁に掛けてある魔道具を起動した。
すぐに通信用の魔道具を出して一郎を念じるとツゥーコールで彼の声が魔道具から聞こえた。
「御主人様あ・・・あの・・・。」
一郎の言いよどんだ声の後魔道具から一花の声がした。
「お久しぶりです、御主人様。」
「一花!」
思わず声を荒げてしまう。
次に魔道具を奪ったらしい一郎から一花たちに私がしようとしていることが知られたと告白された。
仕方ない。
本当は彼女たちを危ない目に会わせたくなかったので秘密にしたのだがすでにあのマイルド国にいる以上そんなことを言ってもすでに遅いかもしれない。
私は腹をくくって一郎に一花たちが協力することを了承した。
了承した途端嬉しい声と共に一花たちから私が喉から手が出そうなくらい欲しかった情報がもたらされた。
私たち家族が屠られた後から急激に力を付けた貴族がいることを・・・。
「一体それは誰なの?」
思わず身を乗り出すように魔道具を握りしめれば私があまり聞いたことがない貴族の名前が一花の口から告げられた。
「スコット=ヴィゴ伯爵とヴァイス=インヒト侯爵です。」
「ヴィゴ伯爵とインヒト侯爵?聞いたことないわね?」
記憶を探るがそんな名前はまったく思い出せなかった。
「元は男爵と子爵だそうです。」
一花からの追加情報でやっと履歴だけが頭に浮かんだ。
二人とも確か持っていた領地は広大だがやせ細った土地で”中の国”と接しているため度々国境線で揉めていたはずだ。
だがそんな彼らがなんで急に昇進したんだ?
私が黙ってしまったのでしばらく何も言わなかった彼女が意を決してその理由を教えてくれた。
彼らは食糧事情が悪くなったマイルド国に隣国から食料を安く輸入しそれを民に配ったことで国と民に貢献したという理由で爵位を貰ったそうだ。
なるほど理由はわかったがそれにしてはその昇進が早すぎる。
それを聞いただけでも彼らが黒幕で間違いないようだ。
これで晴れて奴らを葬れる。
ニンマリした私に一花たちはさらに追加情報を与えてくれた。
どうやら王宮で三日後に王主催の舞踏会が久々に催されるらしい。
それどころかそれに私が経営するあの居酒屋の酒が王都で大流行していると言ことで王への献上酒に選ばれたそうだ。
「それ本当なの?」
「「「はい。」」」
通信用の魔道具から一花たちの誇らしげな声が聞こえた。
よしやった。
献上酒ならその店の経営者が献上することが昔からの習わしだ。
「ですがご主人様。どうやらその舞踏会が開かれるのが三日後と王宮から連絡がありました。ですのでさすがにご主人がこちらに来るには少々キリギリになってしまうのではないでしょうか?」
私は皮袋の中身を思い出してニヤリと笑った。
いい時に作ったわ。
あれがあればすぐにでも行ける。
「それは問題ないわ。」
「それより献上するそのお酒の量はどの位頼まれたの?」
一花の話では居酒屋で飲まれる一週間の量に匹敵するそうだ。
ただ単に量産しただけじゃ間に合わない。
これはギリギリまでこっちにいて全員でことに当たらないと。
私はおおよその話を聞くと向こうで献上酒を王宮に運ぶための前準備を一花たちに頼むと部屋を出て七花を叩き起した。
「ご主人様?」
寝ぼけ眼の七花に一花たちからの情報を伝えると目をパッチリと開けた彼女をつれ敷地近くにあるアルコール工場に向かった。
まだ工場の明かりは煌々と輝いていた。
工場で作業をしていた男に七花が増産の件を話すのを横目で見ながら私は手を握りしめた。
もうすぐ。
もうすぐこの手で・・・。




