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55.秘密がばれた?

 ダン王子たちと別れたてから私たちは港町を出て馬車の中で話をしているうちに私が経営している宿屋に到着した。

 ちょうど私たちが宿屋に着くと待ってましたとばかりに八花と七花が宿屋から慌てて走り出てくると満面の笑みで出迎えてくれた。


「「お帰りなさいませ、ご主人様。」」


 どこかのメイド喫茶のような出迎えの言葉に一瞬固まったが懐かしい顔ぶれに自然と頬が緩んだ。


 八郎のエスコートで馬車から降りると隣にいたヴォイが私の後ろでいそいそと手を差し出していた。


 どうやら彼も私と同じようにエスコートされたいらしい。


 八郎は知ってか知らずか笑顔で差し出された手をスッと取るとヴォイを馬車から降ろしてあげていた。


 うーん、ますます接客業が板についてきたわね。


 私がそう感心していると店の中から料理人さんたちの威勢の良い声が聞こえてきた。

 思わず厨房に向かえば私の顔を見たみんなが物凄く喜んでくれてその直後に質問攻めにあった。


 どうやらここの料理長をしていたリョウが後で私がここに顔を出すから質問はその時に直接私にしろと言ったらしい。


 まあ当初からマイルド国から戻ったらここに来るつもりだったからべつにそれは良いんだけど本当ならリョウがきちんと教えるべきなのにあのオッサン。

 ぜったいめんどくさくてわかっているのに私に丸投げしたわね。


 とは言えワッと来た質問に私はとにかく一人一人丁寧に教えてあげた。


 お陰で気がつくとすっかり日が暮れていた。


 十花に夕食だと言われて食事をするのに裏方で仕事をしている彼女たちに合流するとそこには何故かヴォイの姿があった。


「あれ、帰らなかったの?」

 ヴォイは呆れたように私の顔を見ると帰らなかったんじゃなくて帰れなかったのと言われた。


 帰れなかったとはどういう意味だ?


 私がそう思いながら手に茶碗を持ってご飯に箸をつけるとヴォイも同じように食事に手を付け始めた。


 取り敢えず全員が黙々と食べそれが終わると終わった途端ヴォイに裏庭に連れ出された。


 彼は周囲を見回すとご丁寧に魔法探査まで掛けてから防音結界を張った。


「さてこれで大丈夫でしょう。」

 そう言ってからなにやら懐から大きな皮袋を取り出した。


「はいお礼よ。」

 彼はそう言うとその袋を無造作に私に差し出した。


 何だろこれ?


 私は素直に受け取ってずっしりと重い皮袋を開けてみた。


 中には高濃度の魔力を含んだミスリルがゴロゴロと入っていた。


 思わず革袋の口をギュと縛ると目の前の人物を睨むように見つめた。


「あらこれじゃ足りなかった?」


 いや足りないどころか貰いすぎてなんだか逆に怖いんだけど。

 というかこれは何のお礼なの?


 私が色々考えて頭に疑問符をいっぱい飛ばしているとニッコリとほほ笑んだヴォイがおもむろに話を始めた。


「あなたがマイルド国を出る時にセンに渡した通信用の魔道具とその魔道具をもう一個作ってもらうための報酬の先払いね。」


 ああそう言えばマイルド国を出る時に向こうの情報を優先的に流して貰うために通信用の魔道具を渡したんだっけ。


 忘れてたわ。


 まっどの道その融通を聞かせて貰う了承を王都のお偉いさんに貰うためにもう一個通信用の魔道具を作ったのでそれを渡すつもりだったので構わないっていえばいいけど・・・。


 その報酬はこんなに貰うほどのことじゃない気がする・・・するけどくれるものは遠慮なく貰わなくっちゃ勿体無いお化けが出ちゃうわよね。


 うんうんこれは貰っておこう。


 私はヴォイに明日の朝までに通信用の魔道具を渡すと約束するとそこで別れた。


 さ・て・と。

 

 それじゃ八郎たちと七花たちを集めてマイルド国の王都と通信実験をしなくっちゃ。


 場所は私の部屋がいいわよね。


 結界が張ってあって簡単に入れないし。

 私はそう考えるとヴォイから貰った革袋を持って自分の部屋に向かった。


 こっちに来る前に作った空間と空間を繋げる魔道具を宿屋にある自分の部屋の一角にある衣裳部屋の壁に固定するとちょうど扉を叩く音が聞こえた。


 私は七花たちと八郎たちを部屋に入れると衣裳部屋に六人を入れた。


 うっこの人数だとやっぱり狭いけど仕方ない。


 私を入れた七人で衣裳部屋に掛けた魔道具を囲むように立つとすぐに魔道具に魔力を送った。


 魔道具は私の魔力を受けて淡い色に光るといきなり輪になった魔道具の真ん中に穴が空いた。


 私を除く全員が壁に掛けられた魔道具を見つめている。


 よし。


 私は懐からおもむろに前世の携帯電話を模した魔道具を出すと一花を思い出しながらそれに触れた。


 魔道具が数度振動すると持っていた魔道具から一花の声が聞こえた。


「御主人様一花です。」

 六花の時とは違いすぐに魔道具から一花の声が聞こえた。


 さすが一花ね。

 対応が早いわ。


「一花、そちらはどう?」


「はい、無事開店出来ました。毎日大賑わいです。料理も物凄い量が売れていますし空間転移の魔道具のお蔭て新鮮な牛乳も手に入りますのでほとんど問題ないのですが想定以上に居酒屋で消費されるお酒の量が多くて毎回アルコールの在庫だけが不足しています。ですがそれ以外は全て順調です。」


 やはり今のマイルド国が荒れているせいでアルコールの消費量が思った以上にすごいことになっているようだ。


 私は先程八郎たちに用意させたアルコールの瓶を魔道具の傍にいた十郎に言って一本一本丁寧に空間転移の魔道具の真ん中に空いた穴に入れさせた。


 通信用の魔道具から一郎の声が聞こえてその一本一本を受け取る度に通信があり時間がかかったがこちらで用意したものは全て向こう側に送ることができた。


 こっちでやらなければならなかった魔道具の実験は全て成功ね。


 私はそれが終わるともう一度八郎たちと七花たちに空間転移用の魔道具の使い方を教えると何度か空間を繋げる実験をして今度は七花たちや八郎たちに実際にやらせてから部屋を追い出した。


 彼らに私の部屋で待っていてもらうように言うともう一度通信用の魔道具を握った。


 空間転移用の魔道具に魔力を送ると一郎の声が魔道具から聞こえた。


 どうやら向こうも一花たちがいなくなって一郎たちだけのようだ。


 私は一郎に王宮の状態を報告してもらうと受話器を置いた。


 どうやら私が去った時とはえらく違うようだ。


 王太子妃の意向を受けてあの王宮では質素倹約が流行っているらしい。


 城下町が疲弊しているのだから街の発展のためにもいつも以上にお金を落として商人や王都に住む人を潤ませればいいものを何をやっているの。


 私は思わず心の中で文句をたれながら一郎の報告を聞き終えた。


 王宮内部の方はまだまだ把握できていない部分が多いようだ。


 仕方ないか。


 お店の方の仕事の合間にやって貰っているのでいくら落ちぶれた王宮とはいえそう簡単にはいかないだろう。


 私はご苦労様と言って通信用の魔道具を切ろうとすると一郎から追加で報告があがった。


 それはスパイのマッツさんからのもので王都周辺の守護獣が数か所双頭の獅子から昇竜に一部飾りが変わった箇所があるという言伝だった。


「守護獣が変わったってそれはどういうことなの?」


 思わず呟けばいきなり後ろから声がした。


「簡単よ王宮の中にその国以外に通じるものがいるってことね。」


「その国以外って・・・。」


 私はハッとした。


 昇竜と言えば”中の国”のシンボルだ。


 まさか・・・。


 私がハッとした所でヴォイが私に手を差し出した。


 何よその手は?


「出来ているんでしょ師匠。」

 ヴォイは綺麗な顔で極上の微笑みを浮かべた。


 私はその問いに答えず一郎との通信を切るとどうやってこの部屋に入ったか逆に彼を問い詰めた。


 彼は黙って”八郎”と黒い字で書かれた紙を差し出した。


 どうやら八郎に成りすまして入ったようだ。

 今度はそうならないように結界を変更しなきゃ。


 私は心の中にメモると外にいる七花に声をかけて机の引き出しにしまっていた箱を持ってきてもらった。


 それを受け取った私はそのままその箱を彼に手渡した。


 ヴォイは躊躇なく箱を開けると中に入っていた魔道具を手に取る。


 貰った瞬間に厳しかった顔は子供のように笑み崩れ非常に嬉しそうだ。


 撫でまわしながらそれを興味深そうに見ている。


「でっどこまで聞いてたの?」


「どこまでって守護獣が変わった所からよ。だってあまりにも話が長いんだもの。待ってるのにも飽きちゃったしこんなにゆっくりしてるんだからもうとっくに魔道具を作ってるんじゃないかと思ったのよ。」


 まっ実際魔道具は作ってあったしそれはいいんだけど本当に会話の後半だけ聞いたの?


 私が疑いのまなざしで見ていると彼は肩を竦めた。


「大丈夫よ。商売だもの。師匠がマイルド国で何をしようとストロング国から何か言うことはないわ。」

 私は違う意味で肩の力を抜いた。


 どうやら私がやろうとしている本当の理由には気がつかなかったようだ。

 でも今の状況を考えるとモタモタしているうちに復讐の相手を他国の人間に横取りされそうだ。


 計画をもっと早めた方がいい。


 私は受け取った通信用魔道具を実験したいというヴォイの願いを聞いて空間と空間を繋げる魔道具の使い方と通信用の魔道具の使い方を教えると衣裳部屋を後にした。


 もちろん今後は使う度に毎回使用料を請求すると断言した。


「それはいいけど。もちろん王都にも同じものがあるのよね?」


 私はそれに頷くと満面の笑みを浮かべたヴォイから追加で革袋を貰った。


 見なくてもわかる気がしたが革袋を恐る恐る開けた。


 予想通りさっきの革袋の中身と同じものが入っていた。


「先払いね。」

 ”ね”に力を入れて言うとヴォイは私が教えた通りに空間と空間を繋げる魔道具を起動させた。

 そしてすぐに通信用の魔道具で相手を思いながらその相手に繋ぐ。


 どうやら相手が出たようだ。


 私はそこまで確認すると今度こそ衣裳部屋を後にした。

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