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53.銀獅子様

「ダン王子、行きますよ。」

 レッドが名残惜しそうに馬車の姿を目で追っている男をズルズルと引きずってメイン通りを歩いて行く。


「なんでこうなる。」

 ダン王子は自分の今の現状を見て大きな溜息を吐くと諦めた。


「おいわかった。わかったからいい加減、手を離せ!」

 ダン王子が襟首を掴んでいるレッドの手を取るとそれを外そうとした。


「何か言いましたか?」

 レッドはそんなダン王子の行動を予想していたのでサラッと手を離すと自分がここまで乗って来た馬を小さく口笛を吹いて呼び寄せた。


「ああ言った。おい、どこに行く気だ。」


「そりゃ”銀獅子様”にすぐに来るように言われているのでそこに向かいます。」

 そう言いながら鐙に足を乗せると馬に跨った。


「お爺様に呼ばれている?」


「あれさっき言いませんでしたか?」

 馬上から強い海風になぶられた赤い髪を懐から出した革ひもで押さえると手綱を握った。


「聞いてない。お前が言ったのは王の伝言だけだぞ。」

 ダン王子もレッドの隣に止まっている馬の鐙に足を乗せると鞍に跨った。


「だからその中にあったでしょ早く仕事をしろってやつが。」

 レッドは手綱を強く引くと速足で駆け出した。


「はぁ仕事?それって何を指してるんだ?」

 喚くダン王子も仕方なく馬を方向転換するとレッドの後を追った。


「遅いですよ王子。飛ばします。」

 レッドはその一言だけを呟くとさらに馬に鞭を当てた。


「おい、行くのはいいがどこに向かう気だ?」

 ダン王子は物凄い勢いで走り出したレッドを慌てて追いかけた。


 後ろからの主であるダン王子の問いかけは目的地に着くまで彼にサラッと無視られた。


 そこから馬を全速力で走らせること半日あまり。


 明るかった空が暗くなってきた頃レッドがやっと馬の速度を落とした。


 そこはちょうどマイルド国とストロング国を分断する砂漠が横たわるストロング国側のオアシスだった。


 なんでこんな所に来る必要があるんだ?


 疑問をめーいっぱい抱きながらダン王子は前を走るレッドの後に続いてオアシスに入った。


 馬の速度を落としてしばらく行くと簡素なわりに周囲をしっかりした壁に囲まれた屋敷の前にレッドが馬を止めた。


「ここは?」

 たぶんここに”銀獅子様”と呼ばれた爺様がいるんだろうがなんでここに?


 ダン王子がそう考えているうちにレッドは馬を降りるとその塀に掛けられていた呼び鈴を鳴らした。


 なんの隙間も見当たらなかった壁にガタッという音と共に亀裂が走った。


 そしてすぐにギィギギィーという古めかしい音が響いて扉が横にスライドしていった。


 レッドは馬を引いたまま開いたその壁の中に消えた。

 我に返ったダン王子も慌てて馬を降りるとレッドの後に続いた。


 彼らが中に入るとすぐ後ろでまたスライドした壁が元に戻った音が響いた。


 二人が入った空間は外からの様子に反してとても広くそこには広々とした緑豊かな庭と白亜の豪奢な二階建ての建物が目の前に建っていた。


「すごいなここは!」

 ダン王子が素直に感嘆の声を上げると奥の建物の扉が開いてこの熱い中きっちりと黒服を着こなした白髪の執事が扉を開くと二人にお辞儀をした。


「こちらでご主人様がお待ちです。」

 どうやら爺様はここにいるらしい。


 今度はレッドを後に従えたダン王子が黒服の執事に先導されて建物の中に進む。


 延々と長い廊下を歩いいていくと行き止まりに真っ白い扉が現れた。

 黒服を着た執事がノックの音と共にその扉を開けると二人をその部屋に案内した。


 その部屋は天井が高く広々とした何もない空間があり部屋の窓近くからは気合いの入った野太い掛け声が響いていた。


 思わずそちらを振り向くとそこには銀色の長い髪をした美丈夫が剣を振っていた。


 はあぁー。

 ビシッ


 はぁぁー。

 ビュッ


 もの凄い勢いで剣が何度も振り下ろされていた。


 二人とも一瞬その勢いに飲まれかけたがいち早く我に返ったダン王子が剣を振っている美丈夫もとい自分の爺様に話しかけた。


「ただいま到着しました御爺様。」


「随分遅かったなダン。」

 銀獅子こと爺様は声だけかけて腕は剣を振りおろすのを止めない。


 今の会話の最中もビュッビュッビュッという剣が風を斬る音が聞こえていた。


「お爺様それで何用でしょうか?」

 ダン王子がそう問えばいきなり剣を振りおろすのを止めた爺様が執事から差し出されたタオルで軽く汗を拭くと傍に置いてあった瓶をラッパ飲みし出した。


 ゴクゴクゴク

 ごっくん


 ぷっはぁー


「お・じ・い・さ・ま!」

 ちょっと怒気を含んだ声でダン王子が問いかけるとやっと彼はタオルを筋肉質な体に掛けて傍のソファーに腰かけた。


「今度のマイルド国との戦闘時にダン。お前の部隊に私を入れろ!」


「はぁ?」


 爺様は何を言ったんだ。


 マイルド国との戦闘?


 なんでそんな話になる?


 ダン王子が盛大に疑問符を浮かべていると目配せをうけた執事が彼に分厚い書類を渡してきた。


 そこには自国のスパイが掴んだ以上の詳細な情報が書き綴られていた。


 あまりの細かい内容に目を白黒させながらその書類に目を通す。


 なんだこの詳細な情報は・・・。


 爺様はどうやってこの情報を掴んだんだ?


 それにこれはマイルド国の内部どころか隣国の情報戦についてまで書かれているぞ。


 これが本当なら悠長にあいつらを使ってスパイ活動をしているどころではない内容・・・。


 この情報が本当なら今すぐにでも兵を上げないとマイルド国は”中の国”に取り込まれてしまう。


 物凄くまずい状況にマイルド国が陥っているように書かれているがこれは本当のことなのか?


 ダン王子は思わず目の前の人物をまじまじと見つめた。


「これは本当の情報ですか?誰から・・・。」

 ダン王子の言葉は目の前の人物によって遮られた。


「戦乙女だ。」


「はあぁ?」


「だからその書類をもっていって王にそう言え!」


「戦乙女?」

 呆けているうちに剣の素振りを再開した爺様の目線に促された黒服の執事に分厚い先程の書類を押し付けられ二人は屋敷の外に放り出された。


「一体何なんだ?」

 文句タラタラのダン王子は馬の手綱を引きながら歩き出した。


「今に始まったことじゃありませよ。それより早くその書類を届けましょう。」

 レッドはブータレている彼をそのまま放置して馬に跨ると今度は王都を目指して走り出した。


「くそっ。」

 ダン王子も文句を言うのを止めて馬に乗ると分厚い書類を懐に入れるとレッドの後に続いた。


 それにしてもさっきの戦乙女って何のことなんだ?


 ダンの頭に盛大な疑問符が浮かび上がった。

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