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52.懐かしの我が家

 私が眠っているうちに船はストロング国に戻っていた。


「御主人様。起きて下さい。着きました。」

 私は十花に起こされ目を覚ました。

 ふとベッド脇のマル窓から外を見た。


 懐かしい港街が眼前に広がっていた。


 帰って来たのか。


 すぐに起き上がって着替えると少し風が強い甲板に出てあらためて白い波が打ち寄せる港を眺めた。


 なんでか胸の中に懐かしい思いが込み上げてきた。


 ここは自分の故郷ではないはずなのになんでこんな思いにかられるのか?


 ふとそんなことを考えていると後ろから突然腰を抱かれた。


 ビックリして固まっているとそっと肩にコートがかけられた。


「まだ風が冷たい。」

 ダン王子はそう言うと黙って腰を抱いたまま私と一緒に港を眺め始めた。


 何を考えているの?

 私は港を見ながらチラッと視線を頭の上に向けた。


「御主人様準備が整いました。」

 私が背後の人物を意識しながら港を眺めていると十花が後ろから声をかけてくれた。


「ありがとう。今行くわ。」

 私は背後にいた彼にお礼を言って肩に掛けてくれたコートを外して返そうとすると何を考えたのかいきなりそのコートをもう一度肩に掛けると腰に手を添えて船を一緒に降り始めた。


 えっと別にその辺の貴婦人じゃないからこの腰の手必要ないんだけど・・・。

 私は思わず腰に添えられている彼の手をまじまじと見て隣を歩いている人物に手を離してもらおうと話しかける為視線を向けた。


 そこには銀色に輝く髪が潮風を受けて綺麗な顔に張り付いていた。

 なんだかうっとりと見つめてしまい気がついたら船を降りていた。


 私たちが港に降り立つとすぐに用意されていた馬車の御者席から十郎が降りてきて扉を開けてくれた。


「ありがとう、十郎。」

 私は何でか手を差し出した彼に手伝ってもらって馬車に入った。


「それではまた・・・。」

 私が挨拶しようとすると何を考えているのか彼がこっちの馬車に乗り込んで来ようとしてびっくりしていると急に目の前から消えた。

 慌てて扉の外を見ると襟首を捕まえられて後ろに引きづられていく男が見えた。


 グエェッ


 カエルがつぶれたような声がした後ふさふさの尻尾と怒鳴り声が聞こえた。

「ど・こ・に行こうとしてるんですか?」


「いやぁー久しぶりだねレッド。なんで君がここに?」


「ヴォイに呼ばれたのと王からの伝言です。」


「王から・・・。」

 額に汗がにじんでいた。


「は・や・く仕事をしろバカモン。だそうです。」


 ハッハッハァー


 ダン王子はしょんぼりとした顔で馬車にいる私を見た。


 私を見られてもどうにもできないんですけど。


 私は素直に目線をそらした。


 そこにいつの間にか馬車に乗ってきたヴォイが扉を閉めるとダン王子を振り向いて手を振った。

「じゃお仕事頑張ってねダ・ン・王子。私はちょっと師匠を送って行ってから王都に戻るから心配しないで頂戴。」

 ヴォイがそう言うと馬車が走り出した。


 それにしてもさっきの王子の態度はなんだったのかしら?


「師匠ししょう。し・しょ・う。聞いてます?」

 余計なことを考えていたようでヴォイが話しかけているのに気がついていなかったようだ。

 私はさっきの出来事を考えるのを止めると目の前にいるヴォイに視線を向けた。


 彼は綺麗なサラサラの金髪を掻き上げて長い睫毛をパチパチさせると私が知りたかった事を説明してくれた。


 彼の説明によると何十年間に一度。

 あの砂漠ではあのような虫が集団で発生し両国に多大な被害をもたらすそうだ。


 それで砂漠にいた住民の通報でストロング国の王都から薬を持ったヴォイと風の魔法を扱える兵士たちが砂漠に駆けつけたそうだ。


「でも不思議なのよね。今回は何故か発生した虫のほとんどがマイルド国ではなくストロング国に向かって来たのよ。お蔭で薬だけでも前回発生時の二倍以上使うことになったしあわや足りなくなるんじゃないかと冷や汗かいちゃったわ。」


 彼の話を聞く限りいつもなら半分はマイルド国に向かうはずなのでこんなに薬が必要になるはずがないということだった。

「思い当たることといえば最近”中の国”から入ってきた殺虫剤を使い出したくらいかな。」


「”中の国”の殺虫剤?」

 思わずヴォイが席を立って私が座っている席の壁に腕を付いた。


 こんな狭い所で壁ドンされてもね。

 嬉しいんだかなんだか・・・。


 私はヴォイに落ち着くように言うと向こうに行って分かったマイルド国の食料事情について詳しく話してあげた。


「はぁーあいつら馬鹿なの!なんでそんなことしたの!」

 そう言うと額を押さえてうめき声を上げた。


 やっぱりそうよね。

 誰でもそんな自国の究極武器を敵になるかも知れない相手に売らないしましてやその対象が食糧援助でその中身が殺虫剤まみれの食料なら最悪よね。


 私たちの馬車はあまりの馬鹿さ加減に呆れ顔のヴォイと私を乗せて領主館の手前にあるビア商会が経営する宿屋に向かった。

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