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05.複合施設

 私が朝方目を覚ますとカンバーバッチが固い床に毛布一枚で眠っていた。


 思ったより早く帰って来たようだ。


 私はカンバーバッチをまたいでテーブルまで行くと床で寝ている彼を本人のベッドに魔法で持ち上げるとそのままそこに降ろした。


 これで通行の邪魔にはならない。


 私はカンバーバッチをそのまま船長室に残して部屋を出ると修理されたマストを見ながら船のヘリに向かった。

 思ったより大きなマストが風を受けてはためいていた。

 しばらく私がそれを眺めていると後ろから聞き覚えのある声に呼び止められた。


「あなたのおかげで数日で次の港に着けそうですよ。」

 副長のスティーヴンスが真っ黒に日焼けした顔でそう言ってきた。

 手には今まで作業していたのだろう何本もの縄を持っていた。


 私は振り向かずそのまま青い地平線を眺めながら何も言わなかった。


「港に着いたらあなたはどうするつもりですか?」

 昨晩のカンバーバッチと同じ質問をしてきた。


 船乗りはみんな同じ思考を持っているのだろうか?

 そう思いながらもカンバーバッチに話したのと同じ答えをするとスティーヴンスも目を丸くした後船長と全く同じことを言ってきた。

「港に着いたら詳しい話を聞かせてください。話の内容によっては私もそれに投資したい。」

 私はニヤリとして頷いた。


 副長のスティーヴンスはそこまで話すと彼を呼びに来た部下と一緒にどこかに行ってしまった。


 私はそこで夕日が沈むまで水平線を見ながら過ごした。


 それから私が乗る船は良い風にも恵まれて3日後にはストロング国の港に到着した。

 船が港に着くと一斉に商人が集まり、積み荷の売買が始まる。


 二人とは売買が一段落した夕方港町の中心にある”星の酒場”で夕食を一緒に摂る約束をして別れた。


 私は船を降りると市場調査を兼ねて港町を歩き回った。

 まずは宿屋だがやはり宿泊施設に対して数が足りない。

 次は食事場所だがこれも同じだ。


 これなら用地の確保と人員があればあっという間に人儲け出来そうだ。


 さらに運がいいことにストロング国は大国だがまだ歴史が浅いので基本実力主義だ。

 いわば成功さえすればかつて自分が住んでいた国を簡単につぶせるくらいの力はつけられる。


 私は商売を行う上で必要な資材と人員を持っていたノートに書き出して行った。

 まずはこんなものだろうか。


 すぐに力をつけて両親の敵を討ってみせる!


 私はそう意気込みながら歩くうちに気がつくと港町の外れまで来ていた。

 見ると港町の先にある山の中腹にはこの国を治める地方領主が住んでいる城が見えた。


 それも結構港町から離れていた。


 もっとも港のすぐ近くでは外敵が港を占拠した途端狙われるから今の距離が妥当なのかもしれないが港町と領主が治める城の間に何もないのは寂しい・・・!


 そうかこれだ!


 ここに宿泊施設と食事遊ぶこともできる複合施設を作れば・・・。

 土地も港より安く手に入るし・・・。


 ふふふふぅ

 へっへへへぇー


 行けるぞ!

 これは行ける!


 私は何もない空き地を見ながら高笑いを上げた。


 見てなさい私を貶めたマイルズ国の貴族ども!

 必ずあなたたちに復讐して見せる。


 私は両手を空に向かって高々と上げた。


 ウオオオオオォー


 私は一しきり雄叫びを上げるとカンバーバッチたちと合流するべく先程出てきた港町に向かった。


 こちらに来ると人の流れが多くてすれ違うのも一苦労だ。


 私は人を避けながら目あての酒場に向かった。

 目印は星のマークがついた看板。


 見ると私が乗ってきた船が止まっていてその真ん前が目的の”星の酒場”だった。


 私は船を降りた時のダブダブのズボンとゆったりめのシャツ姿のままそこに足を踏み入れた。

 

 すでに端のテーブルにはカンバーバッチとスティーヴンスがジョッキを傾けていた。

 私は酔っ払いを避けながらそこに座るといきなり二人にメモった紙を見せた。


 一瞬二人の目が私を見、次に大きな溜息をつく。

「言いたかないがお嬢ちゃん。これじゃ利益は見込めない。赤字を抱えるだけだぞ。」

 カンバーバッチが持っていたジョッキをドンと置くと真剣な目で助言してきた。


「人員の手配とお金は約束通り出しますがそれ以上は・・・。」

 スティーヴンスも飽きれたような顔で私を見た。


「かまわないわ。ただし船長が次にこの港に戻ってきた時、私の仕事が今以上に儲かっていたら追加の投資を頼みたいんだけど・・・。」

 カンバーバッチは唸ってから承諾した。


 私は隣でカンバーバッチを見ているだけで何も返事をしていないスティーヴンスを見た。

「副長はどうする?」

 スティーヴンスはジョッキの中身を飲み干すと口を開いた。


「いいでしょう。命が助かったんです。今回の投資には乗ります。でも次回の投資は船長と同じ条件でお願いします。」


「今ならお買い得なのにいいの?」

 私は二人を見た。


 二人は揃って頷いた。


 二人とも結構慎重派だ。

 まっだからこそ商人なのかもしれないが。


 私はそれ以上二人には勧めず、最初の運転資金と人材を手に入れると彼らの伝手をフル活用してストロング国の港町のすぐ傍に私の野望を叶える第一歩である複合施設の建設に着手した。


 まずは野原に白い石灰で線を引くと基礎となる土木工事を行った。

 しっかり土魔法で基礎を固めると木材と土木工事で余った土を見ながら美しい白い日本家屋を思い描く。


 それを三回繰り返しおにぎりのように建物を配置した。

 次に中央に精霊石をもとにしたガラス素材のようなものを想像し透明な膜で中央を覆う。



 これで雨の心配をせずに中庭を歩くことができる。

 さらに建物の周囲も同じように精霊石をもとに透明な膜で覆った。


 そしてすぐ近くには停留場も作った。


 最後に鉄のレールを港町の傍まで引いて精霊石で動く乗り物を作って終わりだ。


 流石に魔法力の使い過ぎで頭がクラクラしてきた。


 私は自分が作った複合施設の玄関を開けるとそのまま畳の上に突っ伏した。

 一眠りしてから動こう。


 まだまだやることはあるんだから・・・。


 私はそのまま一休みしたはずが次の日まで爆睡してしまった。

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