47.この国は、アホしかいないのか?
お店の”賃貸契約”を終えるとすぐに家主の許可を貰って全員で改装を開始した。
ストロング国のスパイさんたちも加わって急ピッチで内装を仕上げていく。
「御主人様ここはどうしますか?」
一郎が二階に上がる階段をどうやってつけるか聞いてきた。
なにせここは場所的には前世で言う銀座の一等地のようなところだ。
一ミリたりとも無駄に出来ない。
私は中央に置いた厨房の壁に足を乗せる突起を二階までつけるように言った。
「えっ、これで上がるんですか?」
一郎が私を見た。
なにその顔。
もしかして私が登れないとか思ってない。
私は腰に手を当てて指摘した。
「一郎。私は一応魔法を使えるんだけど。」
私は呆れ顔で彼を見た。
彼はちょっと赤くなって慌てて謝罪するとすぐに工事に取り掛かっていた。
それにしてもなーんで一花たちやスパイさんたちじゃなく私なの。
私は内装用の壁紙を張っている一花たちを見た。
器用に専門業者のようにテキパキとそれでいて皺もなくピシッと壁紙を張っていく。
うんうん。
プロの手際ね。
私は厨房を挟んだ反対側を見た。
そこは居酒屋なのであえて壁に何も塗らずに剥き出しにしていた。
ところどころに少しだけ木のぬくもりを感じられるように腰壁に木を使ってそれを周囲にグルッと張りめぐらす予定だ。
今その腰壁をスパイさんたちが釘を使って器用に打ち付けていた。
よしよし。
こっちも良い調子ね。
これなら一週間で余裕で店の内装は完成するだろう。
残りのの懸念事項は牛乳と|アルコール(酒)の調達だけだった。
これは二階か三階の部屋を見てから決めよう。
私は改装中の一階を出ると建物の窓に面した裏通りからサッと周囲を見回して誰もいないのを確認してから魔法を使って二階に飛んだ。
二階のベランダに飛び降りるとバルコニーから部屋に入る。
そこはまだ内装工事をしていないので何もないガランとした空間が広がっていた。
うーんこのままじゃさすがに一花たちにはかわいそうね。
スパイさん達と一郎たちには悪いけど後でここにベッドと布団を運び込んであげるから男性である彼らにはここで寝てもらいましょう。
私はガランとした二階から上に伸びている古びたらせん階段をギシギシと言わせながら三階に向かった。
三階は元々この店を開いていた人たちが住んでいたのですでに浴室とベッドが備え付けられていた。
やっぱり一花たちにはこっちで生活してもらうほうがいいわね。
私はその部屋の一番奥にある個室の扉を開けた。
部屋の中には前の家主が置いて行ったアンティークなタンスがデデーンとその部屋に置かれていた。
私はそのアンティークなタンスの扉を開けた。
人一人が寝そべれそうな空間には当然何も入っていなかった。
扉を閉めて窓外を見たがたとえ反対側に建っている同じ高さの建物の窓からこちらを覗いても向こうからは死角なっていてこのタンスを見ることは出来ない。
よし。
”空間と空間を繋げる魔道具”を置くのはここが最適ね。
私はにんまりしてそのタンスの扉を閉めた。
一階の内装が完成した後ここに魔道具を設置して実験すればいいわ。
でも気になるのは私がここに住んでいた時に起動していた魔力感知の警報装置ね。
あれに引っかかるとこっちの存在がすぐにバレてしまうのでかなり不味い。
うーんどうしよう。
懸念事項はそれだがそれ自体は本当はあまり心配していない。
理由は宿屋の店主から聞いたエネルギー問題だ。
もしかしてあれは今使えないんじゃないかという気がしていた。
なんでならあの感知装置を動かすには非効率なくらいエネルギーが必要になるからだ。
うーんでもやはり確証が欲しい。
私は確証を得るためにらせん階段を下って二階に降りた。
そこにちょうど階段を付け終えた一郎が二階に顔を出した。
すぐに私に気がついて目をパチクリした。
「終わったの?」
私はいまいち状況を把握していない様子の一郎に質問した。
彼はハッとして我に返るとスタッと階段から二階に上がって頷いた。
どうやら階段の工事は終了したようだ。
私は彼の横を通り過ぎて出来上がった階段を見た後その空間に身を躍らせた。
一郎が慌てて二階から下を覗いた。
私は魔法を使ってふわりと着地すると二階から覗いている一郎に微笑みかけた。
一郎はビックリした後ホッとした顔になった。
どうやら心配していたようだ。
ちょっと腹が立ったがまっしょうがないか。
私は運動が得意な獣人じゃないんだから。
魔力はピカイチだけど・・・。
私は一階に降りるとそのまま居酒屋の腰壁を張っているスパイのマッツさんの後ろに行くと耳元に囁いた。
「マイルド国の王都でのエネルギー不足の理由知ってますか?」
スパイのマッツさんは一瞬手を止めると何か思案した後話してくれた。
「巨大なエネルギーを生成していた巨大な魔法石。それを彼らは”中の国”に売り渡したようですよ。」
「はぁ!」
思わず叫んでしまった。
「あの高密度エネルギーを無限に作り出せる巨大な魔法石を売ったぁー。」
私の叫びにマッツさんは頷いた。
アホだ阿保だと思っていたがここまでアホな奴らだとは思わなかった。
なんであれを虎視眈々と自国を狙っているやつらに売ったんだ?
そこまで疲弊してしまったのかこの国は?
私は怒りのあまり顔を真っ赤にして拳を握っていたがしばらくしてから大きく息を吐いて気になっていたことを聞くためにマッツさんを見た。
「それでいくらで?」
マッツさんが指を3本立てた。
「さん?」
意味が分からなかった。
「この国に無償での食料援助30年分だそうだ。」
何ですとぉー。
国家予算以上のものをたった30年分の食料援助で売ったのかあいつら。
ダメだ。
奴らの頭の中が理解できん。
なんでそんな自殺行為をしたんだ。
死にたいのか奴らは・・・。
イヤイヤ今考えることはそこじゃない。
そこじゃないが・・・。
「あほかぁー!」
私の叫び声を聞いたマッツさんが隣で納得した顔で頷いた。




