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45.疑惑と真実

「いらっしゃいませ。」

 六花は明るい声で入ってきたお客様に挨拶した。


 一花たち三人がご主人様についてマイルド国の出店応援に向かったので四花五花たちと一緒に三人は王都のお店の応援に来ていた。


 最初は勝手が違ってかなり戸惑ったものの今では明るく微笑んで元気よく挨拶出来るようになった。

 今日もすぐにお客様を席に案内してメニューとお水をサッと出した。


 このお水は六花の意見で爽やかさを出す為少しミントが加えてある。

 どのお客様も一口飲んでは美味しいと言いながらさらに紅茶やケーキそれに食事を頼んでくれた。

 少しだがお店の役に立てた。

 それが六花にとってはとてもうれしいものだった。


 六花が喜ぶお客様の顔を見ながらテキパキとデザートと食事をテーブルに運ぶとまたカランコロンとドアが鳴った。


「いらっしゃいませ。」

 ドア傍には最近お昼の常連さんになったダン王子とレッドが入って来た。

 二人とも平民の服装をしているがどう見ても貴族のオーラが隠しきれていなかった。

 苦笑いしながらいつもの席に二人を案内するとレッドが”いつものを頼む”と言うとすぐにダン王子と話し出した。


 何の話をしてるんだろう。

 少し気になったがまた他のお客様が来たので彼らの席を離れた。


 周囲では常連の女性たちが食べながら視線だけを彼らに向けていた。


「ダン王子大丈夫ですか?」


「ああ・・・。」

 ダン王子はそう言いながら手に触れたモフモフを撫でまわし始めた。


 ゾワゾワゾワー


 レッドは慌ててダン王子から自分のじっぽを引っ張った。


「おいなんで引っ張るんだ。」


「それは俺の尻尾だ。」


 ダンは尻尾の先を見た。

 そこにはレッドの尻があった。


 おえぇー


 吐きそうだ。


 そのダン王子の様子を見たレッドが大きく溜息をついた。

 それは俺のセリフだ。


 まったく最近の王子は・・・。

 ふと昨日の事を思い出した。


 いつもならテキパキと仕事をこなしてすぐに遊びに出るはずのダン王子がなかなか書類を読もうとせず傍に置いてあった飲み物をスプーンでただかき混ぜている姿が浮かんだ。


 もっとも王子だけでなく宰相の息子のヴォイも同じように書類埋もれている状態だと聞いていた。

 だがあいつには魔術副師長がいるのでそれほど政務が滞ることはないがダン王子はいまだに婚約者もいない身なので彼の代わりを出来るものが現状はいなかった。


 お陰で近衛騎士の隊長である俺がなぜか扱き使われることになったのだ。


 はぁーどうして俺が・・・。

 なんか理不尽さを感じる。


 それにしてもこの国の王族はなんで他国の王族と違って必ず恋愛結婚をするのが掟なんだ。

 ヴォイに聞いたところによると王家の血に関係するそうだが詳しくは教えられないとかいっていたな。

 レッドがそんな事を考えていると六花が彼らが頼んだ甘くないデザートを持って現れた。


 今までのダン王子なら六花のモフモフ猫耳を撫でようと必死になるはずが今は目線をテーブルに固定してまたレッドの尻尾を撫でまわし始めた。


 くそっまたか。


 レッドはぞわぞわした感じを今度は必死に我慢すると六花が持って来てくれた甘味を一口スプーンにすくうと彼の口に突っ込んだ。


 周囲の女性が固唾を飲んで彼らの行為を食い入るように見ている。


 彼の口が甘味を味わうと自然に傍にあったスプーンを自分でとって食べ出した。


 無言でモグモグと口を動かす。

 レッドも尻尾を触られないようにダン王子の反対側に置くとダン王子の口に突っ込んだスプーンで食べ始めた。


 二人して黙って食べ終えるとダン王子が急に立ち上がった。

「なんで俺はここにいる?」


 どうやら正気に返ったようだ。

 なんで王宮のデザートじゃなくてここの甘味じゃないとダメなのか不思議だがまあいい。


 レッドは立ち上がって喚いているダン王子の襟首を後ろからムンズと捕まえるとテーブルに代金を置いてそのまま彼を引きずって出ていった。


「ありがとうございました。」

 六花が慌てて挨拶をするがすでに彼らは通りを歩いて王宮に向かっていた。


 ここ最近の見慣れた光景とは言え毎回毎回びっくりしてしまう。

 王族ってみんなああなのかなぁ。


 六花の間違った常識がここに確立された。



 逆に今まで無言だった店内ではザワザワと会話が始まった。

「見た。今のアーン。」

「もちろんよ。」

 彼らの後ろに座っていた女性客が手を握り合ってもう誰もいないテーブルを指して話していた。

 普段着を着ているようだが彼女らからも貴族のオーラが輝いていた。


 その右隣の席でも違う会話がされていた。

「見た今の尻尾をサワサワ触っての求愛行為。」

「もちろんよ。」

 彼らの右隣の席に座っていたこちらも普段着を着た貴族の女性が目の前の女性と手を握り合ってもう誰もいないテーブルを指して話していた。


 六花は知らなかったが王都にはすぐ近衛騎士隊長と王子の熱愛が広まった。




 その頃ボケっと座って書類に判を押していたヴォイに魔術副師長のヘインがドサッと書類を追加しながら巷の噂を話した。


「そう言えば最近近衛隊長と第一王子の噂知ってますか?」


「何それ?」


「どうやら第一王子が近衛騎士隊長にプロポーズしたそうですよ。」


「はぁ???」


「と言うわけでこれも追加です。」


「ちょっとなにがそう言うわけなのよ。」

 ヴォイは涙目で自分の傍で仕事をしているヘインを睨んだ。


「仕方ないでしょう。この季節はいつも忙しいんですから。溜めないでやっておけばこんなことにはならなかったんですよ。手伝ってあげてるだけ感謝して下さい。」

 魔術局では恒例のやり取りが執務室で交わされていた。

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