表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/67

42.祖国に舞い戻る

 枯れた土地を馬車で通り過ぎた。


 道端には痩せて骨のように成り果てた人々がトボトボと荒れ地を歩いていた。

 そんな彼らを横目で見ながら走ること数刻。


 だんだんと日も落ちてきた。


 さすがにこんな所で野宿するわけには行かないので人がいなくなった所でかなり速度を上げて王都に向かった。

 モウモウと砂埃を上げて走っていると前方に王都の光が見えて来た。


 全員がホッと胸を撫で下ろした所で大きながっしりとした王都の門が見えてきた。

 それは来るものを拒むように固く閉ざされていた。


 王都に門があったのは確かだが私がいた頃はその門が閉められたことはない。

 何もかもが昔と違う景色にかなり戸惑いながら門の傍に馬車を止めた。


 すぐに馬から降りた一郎が門についている小さな窓をノックした。


 しばらくすると煩そうな顔をした兵士がその小窓から顔を出した。

「こんな遅くに何のようだ。」


 一郎も先程のスパイさんを見倣って出店許可証の書類に通行許可証それに持って来たお菓子と小銭が入った袋を差し出した。


 兵士は書類を一睨みし香ばしい香りのするお菓子をその場ですぐに開けるとそれをボリボリとほおばりながら小袋の中に手を突っ込んだ。

 ジャラジャラとした中身を確かめると顔を引っ込めて小さな門を開けてくれた。


 だが小さすぎて馬車では通れない。

 どうやら少し足りなかったようだ。


 先程辺境の砦で小銭の入った袋を渡したスパイのマッツがその小さな門から入りもう一袋兵士に手渡すとやっと中門が開いた。


 私たちは中門を通って王都に入った。


 さすがに王都だけあって商店などは昔とそれほど変わっていないように見えた。


 私たちはそのまま王都のメイン通りを走り抜けた。


 淡い街灯に照らされた商店の窓からはきらびやかな衣装や食堂の喧騒が通りに響いていた。


 馬車はメイン通りを抜けその端にある少し古ぼけた宿屋に向かった。


 宰相さん曰くお勧めの宿だと言うことだったのでそこに向かったのだが着いて見るととてもお世辞にも快適そうな外見ではなかった。


 馬車を宿屋の前に止めると王都の門で対応をしたマッツが馬を降りドアを叩いた。


 トントトトン。

 トントトトン。


 同じリズムで二階叩くとドアの内側からも同じ音が聞こえた。


 トントトトン。


 しばらくすると扉が開いて中からマイルド国の服を着た中年のオッサンが現れた。

「遅かったな。」


「すまない。色々あったんだ。とにかく中に入れてくれ。」


 マッツがそう言うとオッサンは頷いて私たちを中に招いてくれた。


 ちなみに私たちが乗ってきた馬車は塀だと思っていた板が開いてその中に入れた。

 これなら通りから見えないので盗難の心配もないと思うが一応念の入れて盗難防止用の魔法をかけてから馬車を離れた。


 宿の中は外見と打って変わって木の香りが漂うがっしりして清潔な部屋だった。

 少しホッとする。


 すぐに厨房から美味しい匂いが漂って来て少し硬いパンと温かいスープが出てきた。


 私たちは部屋の中央にあるテーブルに座るとそれを食べ始めた。

 ウーン動かない場所で食べられるのは落ち着いていい。


 本当は厨房を借りて自分たちで作りたいが流石にこれだけ遅くなるとそうもいかない。

 今日は早々と寝て早く出店する場所を決めなければ。


 私がそんな事を考えてパンをモグモグしているとマッツが宿のオッサンに聞いていた。

「それでセン。出店場所の方はどうなったんだ。」


「出店場所?」

 気になる言葉を聞きつけて思わず会話に割り込んだ。


 マッツは私を見ると宰相閣下に頼まれて一応めぼしい空き家がないか店主であるセン聞いておいてもらうように連絡していたということだ。


 それはとても助かったので明日朝一でその数か所を案内してもらえるように頼むとその日は早々と就寝した。


 翌朝私と一郎が店主のセンに案内してもらって出店場所を見に行くことにした。

 他のメンバーには王都の朝市でこれから出店する店で出す食材を調達しに行ってもらうことにした。


 まずは一番大事な出店場所と食材の確保だ。

 昔と同じであればそれほど苦労することもないだろう。


 私たちは朝食を摂ると店の前で別れて行動を開始した。


 センは空き家を数か所案内してくれた。

 中央通りより一本入った所二本入った所それとまさにその通りに面した店だ。


「一番この面した場所がいいけどなんでここが空いているの?」

 センは難しい顔でこの場所の家賃を教えてくれた。


「えーそれってストロング国の中央通りのど真ん中よりも高いわよ。」


「仕方ないんですよ。税金がかかるんです。」


「税金?」

 なにそれ。

 私がいた時そんなもの取っていなかったはずだけど一体何の税だっていうの。


「王都に立っている建物なのでそれを持っている個人に対して財産だから固定資産税がかかるんです。」


「財産って言っても建物だけでは何も利益を生まないじゃない。」


「そこはよくわかりませんが建物を持っているのは金持ちなのでその金持ちから税を取るために作ったようです。だけど実際はその建物を借りて商売をしている住人の借家料が上がっただけなんです。ちなみに私が住んでいる建物もこの税が施行されて払う税金が二倍になりましたよ。」


「はぁ?なんで二倍になるの。」


「宿屋を運営する上で色々必要なものが発生するんですがそれらすべてに物を消費するってことで消費税がかかるんですよ。」


「消費税なにそれ?」

 よくよく聞くと消費税が物凄いものだとわかった。


 例えば食事を作るのに野菜が必要になるとするとそれを買いに市場に行く。

 市場で買った野菜には税金がかかっていてその税金込みで野菜を買いそれを使って食事を作りそれを提供すると当然宿屋の食事には元に買った材料に含まれていた税金を元にさらに売る食事に税金がかかるのでそれを上乗せして価格を設定するということになるようだ。


 これを聞くと流通が複雑になるほど単純に税額が上がっていくわけだ。


 これは商売をするうえでかなりシンドイな。


 ストロング国は一律1%しか国に納めないのにここは何重にも税金がかかるようだ。


 私と一郎は目を白黒させながらセンの話を聞いて三か所あった候補地を見てから宿に戻って来た。


 宿屋には先に市場に買い出しに行ったメンバーが項垂れて中央のテーブルに座っていた。


 話を聞くと市場の値段はストロング国の二倍近いのに生鮮食料品は致命的に鮮度がダメなようだ。

 特に牛乳は味も悪くとても店では使えない代物だと発覚した。


 なんてこと。


 昔は食料品だけは超がつくほど良かったのに一体どうしたらいいの。


 私たちは全員で顔を見合わせてテーブルにつっぷした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ