41.荒れた国
あまりの変わりように全員がオアシスの入り口で立ち止まった。
私が馬車の中から外に出て確かめたいと御者席に座っている一花たちに小窓を開けて話しかけると馬車の傍にいた一郎から叱責された。
「御主人様は馬車の中にいて下さい。次郎周囲を確認する。一緒に来てくれ。」
一郎の声にストロング国からのスパイさんたちも一緒に行くと言い出した。
結局次郎と三郎が護衛に残り一郎とスパイさんたちが周囲の探索に向かった。
残ったものがジリジリしながら待っていると大分たってから一郎たちが戻ってきた。
どうやらこのオアシスはだいぶ前に何者かに襲われ廃墟と化したようで彼らの話だと死体以外は何もない状態だったということだ。
私は危険がないというので冷房機能があるマントを着けると外に出た。
顔をムッとした熱気が包む。
熱い。
長いは無用とはいえ一体ここで何があったのだろうか。
私は一応馬車の外で周囲に探索魔法を放ってみたがやはり人間の気配はどこにもなかった。
当初はここで水を補給して一休みする予定だったがこのまま休まずに国境の砦に向かった方がよさそうだ。
私たちは休憩をとらずに一路国境の砦を目指して出発した。
それから速度を上げて数時間後。
太陽が地平線に沈む頃ぼんやりと何かの建物の影が見えてきた。
あああれだ。
やっとマイルド国の国境にある砦が見えてきた。
だが胸には逆になんだか物悲しい想いが湧き上がってきた。
やっとここまでこれたはずなのに心はこの砦を出て行ったあの時のことでいっぱいになった。
気がつくと目尻に涙が浮かんでいた。
私は目の前に座るリョウとナガイの二人の料理人に気づかれないように頭の後ろにある小窓の方を見ながら涙を拭いた。
小窓からはマイルド国の国境にある砦がだんだんと目の前に迫って来た。
お父様お母様。
敵を葬るのももう間もなくです。
私のそんな想いを乗せて馬車は風雨にさらされて所々に大きなヒビが入っている砦の門を潜って中に向かった。
門の中もボロボロだ。
なんでかまったく修繕されていない様子に違和感が拭いきれない。
私がこの国にいた時は数年単位で国境の砦は国の最重要拠点として定期的に整備されていたはずだが今の様子を見る限りそれはまったくされていないようだ。
そんな状態の砦に入るとすぐに建物から槍を持った兵士たちがワラワラと出てきた。
「どこに行く。すぐに止まれ!」
一花が手綱を引いて馬車を止め周囲にいた一郎たちも馬から降りた。
一郎はすぐに私から預かったマイルド国の出店許可証とストロング国とマイルド国の両国の王が捺印した通行許可証を目の前にいる偉そうな兵士に渡した。
偉そうな兵士は一郎から渡された書類をチラッと見ると馬車に近寄って積んである積み荷をすべて開くように命令してきた。
積み荷を開く。
こんな砂漠の強い風が吹いているような場所で食料が入っている袋を開ければ砂が入ってあっという間に使えなくなってしまう。
それだけは回避しなければ・・・。
どうする。
私はふと思い立って馬車の中に積んであった密閉された箱を開けると小窓から一花にそれを渡した。
一花たちは頷くと箱を持ったまま御者台から降りて兵士たちに近づいた。
砂漠から吹く風で箱から立ち上る香ばしい匂いが兵士たちの鼻をくすぐった。
ごくり
兵士たちの喉が鳴った。
一人の兵士がお菓子を食べると次々に他の兵士もそれを食べ出した。
美味い。
すげぇうめぇー。
甘いぞこれ。
バクッバクバク
兵士たちが賞賛の言葉をはきながら鷲掴みでお菓子をほおばるのですぐに箱の中は空になった。
一郎と一花がこれを作って出すために王都に向かっているのだと再度説明したが偉そうな兵士は荷物を見せろと言って馬車に近づいて来た。
どうしよう。
なんとしてでもここで荷物を開けるのは避けたい。
私が頭を悩ましてしていると今まで様子を窺うようにしていたストロング国のスパイさんのうち茶髪で細マッチョの男が偉そうな兵士に近寄って何かの小袋を渡すと何ごとかを耳打ちした。
その途端偉そうな兵士の男は頷くとすんなりと通してくれたのだ。
彼は一体何をしたのだろうか?
私がそんな風に思って走る馬車から彼を見ていると気がついた茶髪で細マッチョの男が馬を窓に寄せると話しかけてきた。
「気になりますか?」
私は素直に頷いた。
「昔はコメなどの現物で納めていた税が今は一律現金なんですよ。王都などでは問題ないのでしょうが国境の砦辺りは田舎です。まだ物々交換が主だったりするんで今のように現金を渡すと結構なんとかなるんですよ。昔はここを通るのは至難の業だったんですがねぇ。納税方法が変わって現金を欲しいものが増えたせいか国境を超えるのも今は楽ですよ。あっちなみに帰りに先程のお菓子を渡すと言ったのでそこは宜しくお願いします。」
茶髪で細マッチョの男はそう説明すると馬車から離れていった。
私は目線を男から外を流れる田園風景に戻した。
昔は青々と茂っていた麦の穂が今では枯れ果てところどころ荒れた地面が覗いていた。
ここまで殺伐としたマイルド国になった原因は何なのだろう。
いや誰がこんなふうにしたんだろうか。
なんともやりきれない想いを抱えながら一郎たちとひたすら王都を目指した。
すみません。意外に調子よく書けたんで、あと一行と思って、文字を漢字変換したら・・・画面が真っ白になって、消えると言う”不運”に見舞われました。なんでもそうですが、こまめに保存は大切ですね。遅くなりましたが、ここまでお読みくださり、(人''▽`)ありがとう☆ございます。




