38.猫ばば
私はミスリルの箱を抱えて自室に戻るとそれを机の上に置いた。
一応外から見えないようにカーテンを引くとその箱の中から欠片を取り出すと目を閉じた。
まずは黒いフレームのメガネを想像する。
ミスリルが私の魔力に反応して形を変えた。
目を開けるとそこには舞踏会で一郎たちがつけたメガネとフレームの色が違うだけのものが数個机の上に出来ていた。
次にそのフレームに魔法文字を刻む。
真実の目。
魔力量産。
フレームが白い光を一度発してからすぐに収まった。
同じことを数回繰り返した後にまた箱からミスリルの欠片を取り出して今度は指輪と腕輪を作った。
同じように表面に魔法文字を刻む。
魔法防御。
魔力量産。
これで”魅了の瞳”などの魔法攻撃はこの魔道具を身に着けていれば防げるはずだ。
私は箱の中を見た。
まだミスリルの塊が残っているので他の魔道具も作れそうだ。
私はさっきしまった紙を取り出すと箱の中からミスリルの塊を取り出した。
紙を見ながら目の前にあるミスリルに魔方陣を刻む。
刻まれたミスリルは魔方陣を囲むように形を変えその魔方陣と同じ模様の塊が一つ出来た。
同じように箱の中に残っていた最後のミスリルを取り出すと先程と同じように今度は逆向きの魔方陣をミスリルに刻んだ。
対の魔道具が完成するとそれを背中合わせにして魔力を流し込む。
すると二つはメビウスの輪のように回転を始め周囲に白い光を発した後机にガタンと落ちた。
これで空間と空間を繋げる魔道具が完成したはずだ。
けどどこで・・・いえ誰で実験しよう。
私は魔方陣を描いた紙を燃やすと取り敢えず机の中にその魔道具をしまってから鍵をかけた。
ふと外を見るといつの間にか日がどっぷりと暮れていた。
タイミングよくドアを叩く音がして一花が食事の支度が出来ましたと声をかけてくれた。
私はすぐ行くと返事をすると残りの魔道具をヴォイが持ってきたミスリルを納めていた箱の中にしまうと夕食を食べに下に降りた。
その日は夕食を食べた後魔道具づくりで疲れた私はそのまま就寝した。
翌朝ヴォイが依頼して来た魔道具を魔法指導に行くついでに魔術局に届けた。
「もう出来たんですか?」
ヴォイに箱を差し出した途端隣にいたヘインに驚愕された。
「ええ。」
ヴォイはヘインの驚愕をサラッと無視ると魔道具の指輪を渡してそれを身につけるように指示した。
ヘインが素直に指輪をするとすかさずヴォイが水魔法を彼に放った。
しかしその水は驚愕で目を見開いたヘインの周囲を通り過ぎて壁際にいた魔法局の新人たちを水浸しにした。
「ヘイン今防御魔法を使ったか?」
「用意する暇もなく魔法を放った人が聞きますか?」
不機嫌そうな顔でヘインはヴォイを睨んだ。
「そうだな。」
ヴォイが次の魔道具を試そうと思った所に運悪く宰相室で勤務している侍従が書類を持って魔術局にやってきた。
これ幸いにヴォイはその侍従を捕まえると腕に腕輪をさせた。
「ヘイン。」
ヴォイの呼びかけに今度はヘインがその侍従に向け水魔法を放った。
水は侍従の周囲を通り過ぎ周囲にいた魔術局の新人をまたも襲った。
流石に今度は学習した魔術局の新人は全員防御魔法を展開して水を避けた。
「完璧だ。あの少量のミスリルでこれだけ高い精度の魔道具が作れるなんて。」
私はヴォイの叫んだ言葉に驚いた。
どうやらヴォイと私ではあのミスリルで作れる魔道具の数が違うようだ。
最初は正直にミスリルを使ったことを言わなければと思っていたがあえて言う必要はなさそうだ。
私はそのままあのミスリルをヴォイには黙って懐に入れることにした。
まっけっこう頑張って作ったんだからこれも報酬の一部よね。
私は内心ほくそ笑んでその後ヴォイが提示した作成依頼料もそのまま懐にしまった。
これも全部将来の復讐の為よ。
どんなことでも資金は必要なんだから。
私はその後機嫌よくヴォイたちに魔法指導をして貰った依頼料を持って店に戻った。
帰り道はいつも以上に懐が暖かかった。
毎度ありー。




