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37.魅了の瞳

「マイルド国での出店許可がおりた?」

 私は宰相室で宰相閣下から告げられたことを思わず二度聞き返してしまった。


「ああ、どうやらかの国の王太子妃が昨晩のデザートをかなり気に入ったようで是非にとのことだ。」

 宰相閣下はそう言うと真っ赤な手形を左頬に付けながらその許可証を私に渡してくれた。


 私は受け取った書類をまじまじと見た。

 そこには開店に伴う条件が二つ書かれていた。


 1.獣人はマイルド国の店では働かせない。

 2.従業員は男に限定すること。


 最初の獣人拒否は獣人嫌いのお国柄なので理解できるがなんで女性の従業員を使うのはダメなのだろうか?


 ”魅了の瞳”に起因しているから。

 そう考えれば納得できるが本当にそうなのか?


 単なるお菓子を食べる店に普通そこまでするかぁ。


 でもこの条件をクリヤーすればマイルド国に出店できる。

 そうすればあの国の現状を正確に把握することが可能になるのだ。


 私は宰相閣下を見るとその許可証を手にぜひ出店させて下さいと答えた。


 頬に真っ赤な手形を付けたまま美麗な笑顔で宰相閣下は頷くとそのマイルド国の店でこちらから推薦する数人を雇って欲しいと言ってきた。

 宰相閣下からの推薦ということはストロング国のスパイ!


 私は一瞬躊躇したがそれはそれでこちらにとっては好都合かもしれない。

「わかりました。人件費の方もそちらで持って下さるのなら構いません。」

 私はそう答えると宰相閣下を見た。

 彼は頷くとそれをすぐに了承してくれた。


 私はそこまで話し合いが終わった所で宰相室を出ようとしたが彼に呼び止められた。

「何か?」

 宰相閣下は軽く咳払いすると

「そのだな昨晩の晩餐会に出していた二段重ねのケーキの豪華版をすぐに屋敷に届けてくれ。」

 私は宰相閣下の頬についた赤い手形をチラッと見てからすぐに了承すると今度こそ宰相室を後にした。


 廊下に出てからふと昨晩の光景が頭に浮かんだ。

 マイルド国の王太子妃ミエに挨拶され宰相閣下のオーラがピンク色になったことを。

 たぶん侯爵邸に着いてから奥方に・・・。


 私は少し楽しい気分になって王宮を出た。

 王宮を出た後店に戻ると一花たちに宰相閣下の屋敷にすぐに二段重ねのケーキを届けるように言うと私はすぐに自室に籠った。

 マイルド国に誰を連れて行くのが妥当かどうかを試案するためだ。


 最初に必要な人員は料理人。

 これは港町で雇ったおっさんとその弟子をチョイスすれば問題ない。


 それに宰相閣下が出した書類には営業するならという条件で書かれていたので開店準備中なら女性である私が入っても問題にはならないだろう。


 後は出店準備が終わった後の開店時だがウェイターはマイルド国の現地人とこっちから連れて行った人員それに宰相閣下から派遣されるスパイさんでなんとかなるだろう。


 それにスパイさんたちの人件費は向こう持ちなのでとても経済的だ。

 きりきり働いてもらおう。


 さて開店する上で人数的には問題ないが最大の難点は私の復讐劇に必要な情報提供者だ。

 うーん本当は一郎たちを連れていければベストなんだけどマイルド国に下手に連れて入れば獣人と言うことで奴隷扱いになってしまう。


 やっぱりそれは危険だ。


 そうなるとストロング国のスパイさんたちについでに知りたい情報を流してもらうということも考えられるが聞ける情報は店の営業関係情報に絞るしかなくなるのでこれでは本当に必要な情報が入らない可能性がある。


 一番の理想は信頼できる人物に私の目となり足となって働いてもらえれば最高だがその宛が今はまったくない。


 できれば自分が現地にずっといて情報収集していられればベストなんだけど・・・。


 さすがに女性とバレるのは確実だし。


 うーんどうするか?


 例えば私が出店準備が終わって戻ったとして再入国するのは簡単にはいかないだろう。

 国境を通れば閉鎖的なマイルド国のことだから必ず入国したことがばれる・・・。


 国境・・・。


 あっ国境。

 国境を通らない方法なら!


 私は机の引き出しから紙を出すと魔方陣を描き出した。


 そしてにんまりとした所で扉が叩かれた。

「ご主人様ヴォイ様がお見えです。」

 一花がドアの外から声をかけて来た。


 ヴォイが何の用で?

 私は机の引き出しに紙をしまうと一花と一緒に下に降りた。


 一花は気をきかせてヴォイを店の奥にある席に案内していた。


「師匠。」

 ヴォイが小さな声で私をそう呼んだ。


 嫌な予感がする。

 彼が猫なで声でそう呼ぶ時は必ずなにか難解なことを持ち込んで来るときだ。


 私は嫌な感じを受けながらもヴォイが座っている前の席に腰を下ろした。

 私が座ったのを確認した途端彼から紙が渡された。


 表紙には魔術師長であるヴォイの印が押されていた。

 つまりこの紙に書かれていることは魔術局からの正式な依頼であるということだ。

 私はそれを受け取ってすぐに紙を開いた。

 そこには”魅了の瞳”の防御魔道具の制作依頼と書かれていた。

 なるほどさすがにオーラが見える魔術師長だ。

 あのミエの”魅了の瞳”に気がつたようだ。


 内容を読むと要点は二つだった。

 防御用とわからないように装身具のようなもので作り魔力がないものでも使用できるようにすること。


 なるほど言わんとしていることはわかるがさてどうしょうか。

 私はヴォイを見た。


 ヴォイはスッと私に箱を差し出してきた。


 箱?

 私は受け取って蓋を開けると中を見た。


「ミスリル!」

 そこには魔道具造りに必要なミスリルがたくさん詰め込まれていた。

 私の驚愕の表情を面白しろそうに見ながらヴォイはなるべく早めに完成させて下さいと言い残して店から出ていった。


 私の方もマイルド国に出店するので早急に”魅了の瞳”を防御する魔道具は一日も早く完成させる予定だったので渡りに船だがさすがにこの量のミスリルを持ってくるとは計算外だ。


 私は店を一花たちに頼むとその箱を抱えて自室に戻った。

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