34.王太子夫妻と晩餐会ー到着
翌朝。
考えぬいた結果、魔術局にいるヴォイを尋ねると彼に一郎と次郎が着る晩餐会用の洋服を頼んだ。
「まあ、二人が晩餐会に出るんですって!」
ヴォイは目を輝かせると二つ返事で洋服の件を請け負ってくれた。
「ですが師匠は出なくていいんですか?」
気を利かした魔術副師長のヘインが心配そうに手に何かの薬品を持ったまま聞いてきた。
なんだか持っている薬品から何とも言えない匂いが漂ってきて非常に気になるが周囲を見ても魔術局の人間は誰もその匂いを気にしていない。
何なんだ。
ちょっと意識をそれに持って行かれると再度ヘインが聞いてきた。
「私は厨房の方でこの間王妃様に出したケーキと同じものを作らないといけないから晩餐会に出てる余裕はないわ。」
私は慌ててそう答えた。
「そうでしたか。」
ヘインは納得してそれ以上は聞いて来なかった。
本当の理由はマイルド国の王太子夫妻に会いたくないというのが一番なのだがそれをここでいうつもりはない。
それに彼らに会えば必ず理性のタガが外れて暴走することは火を見るより明らかだ。
それだけはそれだけは何としても避けたかった。
確実に両親を罠にかけた人間を一人残らず抹殺するためにも暴走確実の私より今のマイルド国の現状を把握するのはあの二人の方が今は適任だ。
私はそんな事を考えながら再度ヴォイに二人の洋服を頼むと魔術局を出て厨房に向かった。
すでに晩餐会用の下準備に入っていた料理人たちに合流すると私は昼過ぎに到着予定のマイルド国の王太子夫妻に出すデザートの下準備作業に入った。
本当はまだどれを出すのか決めていないがどれを出すにしてもアイスと生クリームが必要だ。
私はボウルでミルクを撹拌し始めた。
「御主人様どうでしたか?」
一花が可愛いエプロンをつけ同じようにボウルに入ったミルクを撹拌しながら心配そうに聞いてきた。
私は手を止めてニッコリ笑うと先程ヴォイが引き受けてくれたことを話した。
「ホッとしました。」
隣でオーブンの温度を見ていた二花が私たちの会話に加わってきた。
「二花、気になるのはわかるけどきちんと温度を見なさいよ。」
一花が隣から二花にピシャリと釘をさした。
「いくらなんでも大丈夫よ。」
ムッとして二花が一花に言い返した所で三花がオーブンを指差した。
「そろそろ出さないと焦げます。」
「いっけない。」
二花は慌てて中で焼いていたケーキの土台であるスポンジをオーブンから出すとテーブルの上に置いた。
周囲にスポンジが焼けた美味しそうな匂いが漂った。
パンパン
私は手を叩くとみんなにハッパをかけた。
「まだ晩餐会まで時間があるとはいえ急がないと間に合わないわよ。気を引き締めて作業して!」
「「「はいご主人様。」」」
一花、二花、三花から可愛らしい声で返事が返ってきた。
ああ、これが癒しっていうのね。
ちょっと心がホンワカした。
「はい師匠!」
厨房の奥にいたムサイ男たちからも野太い声で返事があった。
彼らは港町で働いている料理人の弟子たちで彼ら経由で雇うことになった面々だ。
彼らをふと見てこれはこれで気力が萎えるなぁと思ったけど・・・。
「とにかくがんばるわよ。」
私は厨房で働く全員にもう一度声をかけると自分も作業に戻った。
数時間後一段落ついてから遅い昼食を厨房で働く全員でとっていると王宮に務める使用人が厨房にやって来て後2・3時間後には王太子夫妻が到着予定なのでそれまでにデザートを用意しておくようにというと厨房からいなくなった。
「後2・3時間後ってことは国境の砦を通って半分って所かしら。」
思わずそんな言葉が口をついて出た。
「まあそんなところでしょうが師匠。どのデザートを準備しましょうか?」
私が作ったデザートをあの女に・・・!
自分で冷静に冷静にと呪文を唱えるとどれも喰わせたくないがそう言うわけにもいかないと客観的に暗示をかけた。
ふと厨房から見える外に目がいった。
暑そうだ。
なら冷たいアイスで十分だろう。
私は準備しておいたアイスに器とスプーンそれにトッピング用の果物を店から持ってきた冷蔵庫で冷やすように指示をだすと王太子夫妻用のデザートの下準備を止めると今日の晩餐会用のデザートの下準備に加わった。
数時間後に王宮にいるメイドたちが厨房にデザートを取りに来た。
私たちは冷えた器にアイスとフルーツをきれいに盛りそれに生クリームを添えるとそれを渡した。
一瞬それらに目を瞠った後メイドたちは気を引き締めるとそれを王太子夫妻の所に運んで行った。
一つ仕事が片付いた。
どうも肩に力が入っていたようで息を吐き出して力を抜くと顔をパンと叩いて気合を入れた。
本番はこれからだ。
私たちは晩餐会用の準備に戻った。




