33.王太子夫妻到着まで、あと1日。
翌朝早くベッドから起き上がるとすぐに着替えて階段を降りた。
「「「おはようございます御主人様。」」」
すでにお店の清掃をしていた一花たちに声をかけられた。
「おはよう一花、二花、三花。早いわね。」
私が持っていたエプロンを付けながら傍のモップを手にしようとすると三花がにこやかな声で私が持とうとしたモップを持つと傍の用具入れに入れてしまった。
「今日は王宮に料理器具を運ぶので早めに店の方の掃除も終らせようと思いまして三人でやってしまいました。」
三花と同じように可愛いエプロンを付けた一花が箒を用具入れにしまいながら説明してくれた。
確かによく見ると店内はピカピカに磨いてあって掃除は必要なさそうだ。
それなら王宮に持っていく料理器具を掃除しようと思い厨房に行こうとするとそこから一郎と次郎それに三郎がモップと箒それに雑巾を持って出てきた。
「もう厨房も王宮に運び込む料理器具もすべて掃除は終わっています。御主人様。」
三人は掃除道具を傍にある用具入れにしまいながら私がいる方に歩いてきた。
どうやら王宮に向かう前に私がやることはもうないようだ。
私はありがとうと言うと料理器具を運び出すために厨房に行こうとした。
すると早朝だと言うのに店の扉を開けて二人の男が飛び込んで来た。
「「おはようございます師匠。お手伝いに来ました。」」
魔術師長のヴォイと副師長であるヘインがゼイゼイ言いながら店の中に駈け込んできた。
びっくりして目を真ん丸にしていると二人は自分ご自慢の魔法の袋を取り出した。
「「私の方が多く入りますので・・・。」」
二人は同時に言うとお互いに睨み合い次に私を見た。
えっとどうしよう。
私は説明しよと思ったが説明するより実際にやることを見たほうが早い。
二人を厨房に招き入れるとドア近くに立って見ているように指示した。
私は持って行く料理器具の傍に行くと指を振ってアラビア数字と漢字を描いた。
1/4に縮小。
1/10に縮小。
次々に料理器具の上で指を振って持っていく器具を小さくした。
全部が終わってドア傍にいた二人を見るとあんぐりと口を開けていた。
私は二人を無視するとそれらの器具を傍にあったトランクの中に納めると蓋を閉めた。
パッチン
蓋を閉める音で我に返った二人はもの凄い勢いで私に詰め寄ってきた。
「「その魔法を教えて下さい、師匠。」」
今にも掴み掛りそうな勢いの二人に今度王宮に行った時に教えると言ってなんとか納得してもらうと私たちはトランクを馬車に詰め王宮に向かった。
王宮ではすでに厨房の様子を確認し終えたスティーヴンスと店で働いている料理人たちが待っていた。
すぐに合流すると早速晩餐会に出す料理の準備に取り掛かった。
夕方までかかって一通り準備を終えると残った材料でまかないを作り食べ始めた。
そこへなんでかラゲッティ商会の従業員が大慌てで厨房に飛び込んできた。
今日は本当に飛び込んでくる人間の多い日だ。
私が見ていると
「スティーヴンス様大変です。」
若い従業員が肩で息をしながらスティーヴンスに早く家に帰るように言った。
「なにがあったんだ?」
スティーヴンスはパンを食べながら若い従業員に落ち着くように水を渡した。
「う・・・生まれそうなんです。」
「生まれ・・・アルマぁー。」
スティーヴンスはハッとすると叫び声をあげながら厨房から駆け出していった。
「まっ待って下さーい。」
その後彼を呼びに来た若い従業員も厨房を飛び出していった。
残された私たちは全員呆気にとられていたが一郎の言葉で我に返った。
「まだ生まれないって心配してたので良かったですね。」
「そうね良かっ・・・良くない・・・ゲホッゴホッ!」
ビックリして思わず食べていたパンを喉に詰まらせて涙が出た。
「どうしたんですか御主人様!」
特大のパンをほおばりながら三花が私に水を渡してくれた。
「ゲホッだって明日の王太子夫妻の晩餐会誰が出るの?」
全員がアッと言うと固まった。
どうするのよスティーヴンスが抜けて・・・。
でもアルマに子供が生まれるじゃ晩餐会どころじゃないだろうし。
子供が生まれたら生まれたでアルマの傍を離れるなんて天地がひっくり返ってもあり得ないし。
本当にどうしよう。
なにか考えなくちゃ!
私はパンをモグモグしながら思考をめぐらした。




