32.王太子夫妻到着まで、あと2日。
私たち三人が執務室を後にして一般区域の廊下を歩いていると後ろからヴォイが追いかけて来た。
「シロ待ちなさい。」
ヴォイが私の名を呼び捨てた。
私が王宮で魔法指導をしているのは実は一部のものしか知らない秘密なのだ。
なので”師匠”とかの呼び名は魔法局で魔法を教えている間だけと言明してあった。
それは私が魔法を教える上でヴォイと交わした契約だ。
なんでそんな約束を交わしたかというと理由は単純で王都で店を開くにあたりストロング国にいる貴族たちからの反感を防ぐ為だ。
貴族はどこの国でも伝統・風習にこだわりひどく嫉妬深い。
そんな貴族がここでは一般市民でしかないはずの私が曲がりなりにも公爵家の嫡男であるヴォイに魔法を教えそのうえ彼に”師匠”とか呼ばれているのがバレれば厄介なことになるのは目に見えている。
なので貴族の反感を買わない為にも王宮の外では必ず私の名前を呼び捨てにするように言明してあるのだ。
その私との約束を律儀に守って一般区域で私の名前を呼び捨てたヴォイに感謝しながら私たちは足を止めた。
ヴォイは私たちに追いつくと今回の変更で料理の道具を王宮に運び込むための手伝いを申し出てくれた。
「普通に運んだら大変な量になるはずだ。今回はこちらからの都合で変更をすることのなったのだから当然力をかそう。」
私は偉そうに言いながらも心配そうな顔で言ってくれたヴォイに微笑むとやんわりと断って王宮を辞した。
実は物凄い量の器具だが別に運ぶのはさほど大変ではないのだ。
私は店に戻ると今日の閉店後明日から数日間店を閉店する旨の掲示をするように三花に指示をすると一郎とスティーヴンスそれに厨房にいる料理人たち総出で店を閉店した夕方明日王宮に運ぶ器具に目星をつけた。
その後は翌日に備えてその日は全員早めに休んだ。
明日は朝一でここにある器具を王宮に運びその王宮の厨房で当日作る料理の準備をしなければならないので大忙しだ。
私は入浴を済ますとベッドにダイブした。
バッフン
私たちが去った王宮の魔術局ではヴォイが部屋の中をウロウロと動き回っていた。
「どうかしたんですか?」
副魔術師長が部屋の中を動き回るヴォイを煩そうに見た。
「うるさいぞ。」
ヴォイが話しかけてきた副魔術師長に怒鳴った。
「だから何があったんですか?」
副魔術師長はヴォイの怒鳴り声を異に返さずに重ねて質問してきた。
ヴォイはうるさそうに副魔術師長を見ながらもさっきまでの経緯を話してやった。
「さっき警備の関係上王宮でマイルド国の王太子夫妻に振る舞う料理を作ることになったんだ。それでその道具を運び込むことになったのでその手伝いを申し入れたのに師匠たら何を遠慮したのか断ったのよ。」
「なるほどそれでイライラなさっているんですね。でもそりゃ当然でしょ。」
「なんで当然なのよ。」
クワッと口を開けてた。
「ヴォイ様は公爵家の嫡男ですよ。そんなエライ人の手伝い一般市民が断るのは当然です。」
ヴォイが副魔術師長を睨んだ。
「だから代わりに私が明日手伝いますのでご心配なく。」
「なんですってそんなこと許さないわよ。」
「ヴォイ様は公爵家嫡男ですが私は一般市民ですので問題ありません。」
二人はものすごい勢いで睨み合った。
それを見ていた魔術局の見習いたちは大きな溜息をついた。
二人とも魔術局のナンバー1とナンバー2なんだからどっちも迷惑だと思うけどな。
賢い見習いたちはそう思いながらも貝のように口を閉ざして何も言わなかった。
そのうち二人は明日の朝一で師匠がいる店に向かいどちらがより多くの料理器具を運べるか勝負しよう言うとふんとお互いに顔そむけると魔術局にあるそれぞれの執務室に消えた。
魔術局に務めるの若い見習いたちはそんな上司の姿を溜息と共に見送った。




