03.修理
私は船長室を出ると副長のスティーヴンスに案内されて粉々に砕け散ったメインマストを前に目を瞠った。
思った以上に悲惨な状態だった。
私は深呼吸をするとその残骸に手を翳しあの夢で見た知識を思い出していった。
あの夢の中で見た世界で習った木の構造を頭に描くとそれに魔力を纏わせて砕け散ったメインマストの残骸に流し込んだ。
しばらくするとマストはみるみるうちに元のメインマストの姿を取り戻していった。
ふと周囲を見ると船にいた全員の顎が落ちそうなくらい彼らはあんぐりと口を開けた。
「すげぇーあの冒険者。メインマストを治しちまったぜ。あんなの始めた見た。」
「ああ何者なんだあいつ?」
口々に船員が正気に返って話始めた。
「おい、なんで船に立てない?」
「私は船乗りじゃないわ。どの位置に戻せばいいのかまではわからない。その辺でいいわけじゃないんでしょ?」
私の質問に副長のスティーヴンスは頷いた。
「確かにな。下手な位置に建てられちゃ船が沈む。」
「ならそれは私の仕事じゃないわ。」
副長のスティーヴンスは頷くと呆けている船員に指示をかけてメインマストを立てるための機材を船底に取りに行かせた。
私の修復を見ていた船長のカンバーバッチが後ろから私に声をかけた。
「あんた本当に何者なんだ。高名な冒険者なら名前くらい聞いたことがあるはずなんだが。」
「これから売り出す商人なのよ、私は。」
カンバーバッチは目を真ん丸にして私を見つめた。
「冒険者になるんじゃなくて、商人になりたいのか?」
「ええ、私は商人になりたいの。ここまで助けたんだからそこそこの見返りは期待していいわよね。」
カンバーバッチは黙って私を見た後かなり思案してから口を開いた。
「具体的な話を聞きたい。」
「ええそうね。何か食べながらなら話てもいいわ。」
私の要求にカンバーバッチは笑顔を見せると小さな船員を呼んだ。
「ハンス。調理室に行って酒と食料を持ってこい。」
小さな船員は頷くと船底に走って行った。
私はカンバーバッチと一緒に船長室に戻った。