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27.ミシェルの想い

 ミシェルは義妹にコンラーダ侯爵令嬢にはくれぐれも何もしない様に言い含めると彼女を学園内にある寮に送り届けた。

 その後自分は王都にある伯爵家の別邸に向かった。


 最初は義妹もここで一緒に暮らす予定だったが父からの書簡で考えを変えた。

 あの義妹は数か月しか伯爵家に住んでいなかったのに、どうやったのか伯爵家に仕えていた男性の使用人をほとんど誑し込んでいたのだ。


 父の予測ではどうやら”魅了の瞳”を持ったものではないかと書簡には書かれていた。


 ”魅了の瞳”は欲望の強い庶民の間に良く現れる魔力だ。


 だが回復の魔法を使えるものに”魅了の瞳”の持ち主がいたことはない。

 そう考えるならば彼女の回復魔法はホントの回復魔法ではないのかもしれない。


「シヨウ。」


「はい、ミシェル様。」

 傍にいたシヨウが紅茶を差し出しながら返事をした。


「手のものにミエが回復魔法で助けた人間が今どうしているか確認をさせろ。」


「畏まりました。」

 シヨウは頭を下げるとすぐに彼に言われたことを実行するために部屋を出て行った。


 その間も嫌な予感は消えるどころかなぜかますます彼の脳裏に鮮明に浮かび上がって来た。

「嫌な感じだ。何も起こらなければいいが。」

 ミシェルの思いとは裏腹に数日で学園の雰囲気がガラリと変わってしまった。


 ミエは学園の教師に言われるまま魔法訓練で傷を負った学園の貴族の子弟や庶民の子供にわけ隔てなく回復魔法を使って治療し始めた。


 そのおかげか数日で彼女は庶民には女神のように崇められ、貴族には最大級の感謝をされるようになっていた。


 もっとも顕著だったのが第一王子と自分の親友であるデュークだった。

 二人はベッタリと義妹にくっつき、なぜか彼女を奪い合うようになっていた。


 あのコンラーダ侯爵令嬢にベタ惚れだった第一王子が今では義妹の言いなりだ。

 さすがに危惧を抱いたミシェルが義妹に一言言おうとしていると彼女から魅力的な提案をされた。


 第一王子と義妹がくっつけば今まで婚約していたコンラーダ侯爵令嬢も義兄のものになるわとそう囁かれたのだ。


 ミシェルはこの案に言おうとしていた言葉を飲み込んだ。


 それからは義妹の行動を容認することにした。


 そして第一王子に振られて落ち込んでいる彼女を慰めようと虎視眈々と機会を狙った。


 しかし現実は義妹と彼女の傀儡とされていた男たちによって裏をかかれてしまった。


 義妹は第一王子を唆すと令状を作らせいつの間にか裏で糸を引いてあの侯爵家を無実の罪に陥れると、どこかに連れて行きあっさりと彼らを処分してしまったのだ。


 あまりにも鮮やかな手際にあっぱれと拍手を送りたくなるほどだ。


 もっともその侯爵家の処分に自分の父である伯爵がコンラーダ侯爵令嬢の母であるルビアーヌ侯爵夫人を手に入れるために一枚噛んでいたとは調べるまで分からなかった。


 今思えばあの義妹はなぜ父に連絡したのに私には連絡して来なかったのか?

 少し不思議だった。


 もっとも今ではあの義妹は自分の義妹ではなくなり公爵家子息であるデュークの義妹になっていた。


 その理由はどうやら同じ一族である私や父には義妹の自慢である”魅了の瞳”が効かないことが彼女の癪に障ったらしい。


 その為かあの娘は父にルビアーヌ侯爵夫人を手に入れるのと引き換えに大慌てで公爵家との養女の件を認めさせたようだ。


 今ではそれを利用して第一王子の婚約者におさまっていた。


 彼女の欲望はどこまでいくのだろうか?


 この頃では彼女の意見で農民の税を少なくする為と言う謳い文句で今までの現物納税から現物より安い価格の現金に変わった。


 お陰で現金収入のない農民がコメなどを商人に売り渡して現金を得ていることであちらこちらで金勘定が出来ない彼らの間で詐欺事件が勃発し領地を動けない状態だ。


 何を考えているのだろうあの娘は。


 第一王子もデュークもこのまま行けば国が崩壊すると気がつかないのだろうか?


 もっともその事を忠告しても”魅了の瞳”で幻惑されている二人にはそれすら理解できないだろう。

 逆に忠告することでこっちに火の粉が飛んで来きてあの侯爵家と同じ道を辿るのはごめんだ。


 ミシェルは溜息をつきながら目の前にうず高く積まれた書類を見上げた。


 そう言えば数か月前あのミエが回復魔法で助けた人々の消息がやっと届いた。

 どれも数年でなぜか全員が老衰していた。

 それも傷が酷かったものほどその傾向が高かった。


 恐らくあの魔法は全回復の魔法とは違うものだろう。


 それがわかったので一応父にもその事を知らせたが知っていたらしく蒼褪めた顔でもうあの娘には関わるなと、それだけ忠告して来た。


 何があったのだろうか?

 そう思ったが父は何も語らなかった。


 もっとも今の情勢を見る限りあの女にかかわらないことがこの伯爵家にとって最もいいことだとは父に言われずともわかっていた。


 あの娘に関わらなければ自分は今頃王城で親友のデュークと主であるコウ王子と王宮で過ごしていたに違いない。


 どこであの娘の扱いを間違ったのか?


 ミシェルは書類の山を見ながらぼんやりとそんな事を考えた。

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