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25.奇跡を起こす少女

 ミエは外交の一環として今マイルド国の王族専用馬車に揺られながらストロング国の王都を目指していた。

 隣の席には去年婚姻した夫であり王太子であるコウ王子が座っていた。

「どうしたミエ?疲れたのか?」

 ボウとしていたミエを心配したコウ王子が声をかけてくれた。


「はい少し。」

 ミエは甘える声でコウ王子に答えた。


「なら少し休め。」

 コウ王子はそう言うと私の肩を抱いて自分に凭れかからせてくれた。


「ありがとうございます。」

 うれしくなってそう言うとコウ王子も嬉しそうな顔で微笑んだ。


 それにしてもあの時の事件がもとで今の自分がいると思うととても考え深かった。

 そんな事を思っているうちにミエは馬車に揺られて眠りについていた。


 ガタガタガッタン

 王子一行を乗せた馬車は荒れ地を進んで行った。




「ミエーどこにいるの?」

 赤毛でデブッとした女性が森の近くで大声を上げて誰かを捜していた。


「ミエー。」

 こちらも赤毛で針のように細い体の男も先程の女性と同じように大声で叫ぶと誰かを捜していた。

「いたか母ちゃん。」


 デブッとした女性が左右に首を振った。

「父ちゃんどうしよう。敵の兵士がすぐそこまで来てるって言うのに。」


 針のように細い体の男が決心したように命令した。

「ミエのことは俺が捜す。母ちゃんは村のみんなと一緒に逃げろ!」


 デブッとした女性が左右に首を振った。

「そんなぁこたぁー出来る訳がないだろう父ちゃん。」


「だが・・・。」



 おいいたぞ!

 こっちだ!


 こちらに人がいるのに気がついた兵士が数人二人がいる所に近づいてきた。


 二人は顔を見合わせて取り敢えず逃げようとした時には村を襲った敵国の兵士に囲まれていた。


 見つけたぞ!


 ニヤついた数人の兵士が剣を振り上げると二人に襲いかかった。

 血しぶきが飛び地面は二人の血で真っ赤に染まった。


 兵士たちは二人に面白半分で切りつけるとそのまま放置してどこかに行ってしまった。


 しばらくして敵の兵士が作物を略奪していなくなると村人が一人二人と村に戻ってきた。


 そして森の近くで倒れていた二人を見つけて慌てて彼らの家に運び込んだ。


 しかし二人とももう虫の息だった。

「おい二人ともしっかりしろ!」


「「ミエ・・・は?」」


「今戻って来るさぁ・・・。」


 バッタン


 家の扉がすごい音を立てて開いたと思うとミエが現れた。

「父ちゃん母ちゃん。なんで・・・。」

 ミエは二人に縋りつくとわんわん泣き始めた。


「ミエ良かった。あんたは無事だったんだね。」

 デブッとした女性の手がミエに伸ばされた。

 ミエは伸ばされた手を強く握りしめた。

「気をしっかり持って母ちゃん。」


 ミエの声に力なく微笑みながら彼女の母の手からはだんだんと力が抜けて行った。


「嫌だよ母ちゃん。」

 ミエは泣きながら強く願った。


 死なないで!

 死んじゃいやだ!


 ミエの思いに応えるように彼女の体が突然金色に光出した。


 パァーン


 眩いばかりの光が収まった時には今まで瀕死の重傷を追っていたはずの夫婦がびっくりした顔で半身を起こして寝台の上にいた。


「そんなぁ馬鹿な・・・。」

 夫婦の家に心配して駆けつけた村人の前に奇跡が起こった瞬間だった。


 奇跡の話はたちまち広がりその領地を治める伯爵家にも伝わった。


「奇跡だとそんな都合がいいことがそうそうあるわけがない。」


「ですがダンナ様・・・。」


 使用人の話に顎髭を触って考え込んでいた伯爵は息子を見た。

「どう思うミシェル。」


 ミシェルは飲んでいた紅茶をテーブルに置くと顔上げた。

「信じられませんが本当なら我が伯爵家にとってこれほど幸運なことはありません。取り敢えず真偽を確認すべきかと・・・。」

 伯爵は息子に頷くと明日には領地に行って確認するように指示した。


 ミシェルは伯爵である父の命に頷くと先程奇跡の話を伝えてきた使用人とその他に二人ほどの使用人を連れて奇跡を起こすと言われている少女が住む村に向かった。


 ミシェル専任の使用人は彼がどうやって奇跡を確認するつもりかと不思議に思っていた。

 しかしミシェルは村に着いた途端奇跡の話を知らせてきた使用人を先に歩かせると後ろから自分の剣を抜いて使用人をその剣で貫いた。


 ギャァー


 奇跡の話を知らせてきた使用人は叫び声を上げるとその場に頽れた。


「ミシェル様!」

 後の二人は唖然としてミシェルを見た。


 ミシェルは二人のうちの一人に早く件の娘を呼んでくるように命令した。


「はははいミシェル様。」

 命令された使用人は慌てふためいて村に駆けて行った。


「ミシェル様。」

 ミシェル専属の使用人が咎めるように彼を見た。


「奇跡を知らせてきたんだ。当然真実かどうかの確認をとるのが本人の仕事だ。それなのにこいつはそれを怠ったんだ。それならこれは主人としては当然のことだ。」

 ミシェルの論理に彼専属の使用人は唖然とした。


「これが伯爵家だ。」

 その後の彼の呟きに使用人はハッとした。


「出過ぎたことを申しました。」

 使用人は頭を下げた。


 それからしばらくしてミシェルに刺され虫の息になった使用人の元にミエが駆けつけた。


「けが人はどちらに?」

 赤毛の美少女が息をきらせながら聞いてきた。


 ミシェルが虫の息になった使用人を指すとミエは彼の前に膝まづいた。


 そしてミエが祈るように手を差し出すと眩い光が周囲を照らしその光が消えた時には虫の息だった使用人がその場に起き上がっていた。


 ミエを除く全員が唖然として動けなかった。


 ウソだろ。


 ミシェルは数分で我に返ると自分が刺した使用人にどんな感じか問いただした。



 使用人は全く問題ないとそう答えた。


 ミシェルはすぐにミエの家に案内してもらうと彼女の両親に彼女を伯爵家の養子に迎えたいと交渉した。


「そんな恐れ多い。」

 二人は必死にミシェルの提案に抗ったが最後はミエの意見で折れた。


「父ちゃん母ちゃん。私が伯爵家に行けばこの村は毎年腹いっぱい食べられると伯爵様が約束してくれた。それに私も今よりいい生活が出来る。父ちゃん母ちゃんに会えないのは悲しいけど毎年ここに帰って来るから・・・。」

 ミエと両親は手を取り合って別れの挨拶をした。


 ミシェルはミエの話の途中で彼女の家を出た。

「どうしたのですかミシェル様?」


「あのミエと言う女侮れんと思っただけだ。」


「どういうことですか?」

 使用人が疑問符をいっぱい浮かべてミシェルを見た。


 ミシェルはチラッとミエの家を見ると呟いた。

「あの感動の別れは演技だよ。まっこれからの事を考えるなら逆にその方が利用価値が上がるかもしれないがな。」


 使用人は信じられない顔で奇跡を起こすと言われている少女が住む家を振り返った。


 しばらくすると少女が家から出てきた。


「もういいのか?」

 ミシェルがそう言うとミエは力強く頷いた。

 彼はそのまま彼女を馬に乗せると領地の真ん中に位置する伯爵邸に向かった。

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