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24.我慢

 私は階下に降りると王都に店を出してからこちらにある店の取り纏めをしているスティーヴンスを呼んだ。


「珍しいですねシロ様が俺を呼ぶなんて。」

 スティーヴンスはそう言うと一階にある執務室に開発中の生菓子を持って入ってきた。


「緊急に対策が必要な案件が出来たの。」


「緊急の案件ですか?」

 首をかしげるスティーヴンスに王宮で聞いたマイルド国からの王太子夫妻の話を告げた。


「マイルド国の王太子妃がうちの生菓子を食べたいですか。なんだか面倒そうですね。」

 私はスティーヴンスの意見に素直に頷いた。


 彼はめんどくさそうに髪を掻き上げると溜息をつきながら話し出した。

「取り敢えず彼らが来るまでにここに持って来た試作品の他今開発している新製品をもう一点完成させてそれを提供できるようにしましょう。それとこの王都で一番売れている生菓子を何点か王宮に持って行けば良いんじゃないでしょうか。」

 私もそれしかないと思っていたので素直に頷いた。


 話がまとまった所でなぜか営業している喫茶店の方からざわざわした声が聞こえて来た。

 話も終わったので気になって店を覗いて見るとそこにはいつも騒ぎを起こしている人物が座っていた。

「おい手を離せレッド。」


「ダメです。」


「主の命令だ。」

 ダン王子が喚くがレッドは手を離さなかった。


 そのうち給仕を終えた三花が二人が座っている席を離れた。


「くそっお前が余計なことをするから触れなかっただろ。」

 ダン王子の呟きにレッドがじろりと睨み返すと説教を開始した。


「うるさい。」

 ダン王子はレッドの説教を無視すると三花が持ってきた焼き菓子を食べ始めた。


 私はその成り行きに溜息をつきながら部屋を後にするとスティーヴンスが持って来た試作品を持って二人が座っているテーブルに向かった。


 すぐにレッドが気がついて私に視線を向けた。


 私は二人が座っているテーブルの傍まで行くとニッコリ笑ってその試作品を二人のテーブルに置いた。

「いつもありがとうございます。」


「いやこちらこそ毎回・・・すまん。」

 レッドが隣のダン王子の代わりに頭を下げた。


 ダン王子はお前が邪魔するから求愛出来なかったじゃないかと隣でぶつくさ言っていた。


 レッドがダン王子の耳元に冷気交じりの声で呟いた。

「ダン王子!」


 フン


 ダン王子はそっぽを向くと私が追加で持ってきた生菓子を食べ始めた。

「むっ意外に上手いじゃないか。」


 ダン王子の言葉にレッドも私が持ってきた一品を食べ始めた。

「うーんこれはあまり甘くなくておいしいですね。」


 レッドの満面の笑みに私は大いに満足した。

「今回の新製品は男性向けの甘味なんですが・・・。」


「これなら行けるぞ。」

 ダン王子が私にかぶせて断言してくれた。


「そうですね。これは当たりますよ。」

 二人はそれぞれその生菓子を褒めながら全部食べ切ってくれた。


 カップルで来る男性が苦笑いしながら食べているのを見て開発したがこれはいけそうだ。

 私はレッドにもう一度お礼を言った。


「おいなんで私に礼を言わない。」

 ムッとしたダン王子が文句を言ってきた。


「三花たちに何かしようとする方にはとてもお礼は言えませんよ。でも先程の感想は参考にさせていただきます。」


「まあいい。マイルド国の王太子も私と味覚は同じだから生菓子はこれがいいだろう。」

 私はダン王子たちを喫茶店の店さきまで送りながら予想外の事を言われ彼の顔を穴が空くほど見つめてしまった。


「なんだ?」

 私の態度を不審に思ったダン王子が振り向いて聞いてきた。


「いえありがとうございます。」

 私はあまりにも意外なことを言われお礼を言うのがせーいっぱいだった。


「どうかしましたかシロ様?」

 スティーヴンスがいつまでも店先で突っ立っている私に声をかけてきた。


「いえあの方があまりにも的を得たことを言うんでちょっとびっくりしただけよ。」


「シロ様はなにか誤解されていませんか?」


「誤解?」


「ええあれでもこの国の第一王子ですよ。馬鹿では務まりませんよ。」


「そうなんだけどここにいて三花たちと話している姿は馬鹿としか思えないのよ。」

 私の素直な感想にスティーヴンスは店先にもかかわらず腹を抱えて笑い転げた。


 そんなに面白いかしら。


 でもダン王子の意外な発言でマイルド国の王太子に出す生菓子が一つ決まって私は少し肩の荷がおりてホッとした。

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