23.夢-真実と疑惑
ああ、なんだか懐かしい風景だ。
私はその日も魔術学園で強すぎる魔法力の制御訓練をしていた。
マイルド国は他国と違い貴族間の優劣を魔法力で決めていた。
なのでどの貴族の子供も魔法学園に入学して他人より強い魔力を習得し実績を残そうと凌ぎを削っていた。
「リビア。」
私が魔法の制御訓練を終えて訓練用の建物から出てくるとそこにコウ王子が将来側近となる公爵家子息を従えて待っていた。
「コウ様。」
「今回の訓練はどうだった?」
「はい。前回よりは制御出来る量が増えました。」
「それは良かった。」
コウ王子は私を見て嬉しそうに笑うとスッと手を差し出した。
私はいつも通り彼の手に自分の手を重ねると二人は歩き出した。
そう言えばいつも彼らと一緒にいる伯爵家の子息がいない。
私がチラッと後ろを見たのに気がついたコウ王子が聞いてきた。
「どうした?」
「いえ、いつもご一緒の・・・。」
私が話そうとすると後ろにいた公爵家子息がコウ王子の後ろから話し出した。
「ミシェルなら今日から学園に通う妹を迎えに行っていますよ。」
「えっ妹ですか?彼は確か一人っ子では?」
「ミシェルが迎えに行った妹は元々ボーダー家の傍系で士爵だったのですがこの国では大変珍しい回復魔法系の能力を持っていたので養女にしたそうです。」
「なんだと回復魔法だとそれも農民がか?」
確かに士爵など名ばかりでこの国ではいわゆる農民だ。
コウ王子が驚くのもわかる。
私もあまりのことに言葉が出なかった。
「はい、彼女の両親が他国の兵に襲われた時、その両親を助けたことで判明したそうです。」
「それでどれくらいの力を持っているんだデューク?」
コウ王子は後ろを歩いていた公爵家の子息にわざわざ振り向いてこの質問をした。
「死ぬ間際の人間を全回復させるほどです。」
私とコウ王子は唖然としてその場で棒立ちになった。
「「全回復!」」
それはとてつもない力だ。
確かにそれなら直接引き取って自分の家族に迎えたくなる気持ちもわかる。
しかしそんな下の身分のものからこんなにすごい力を持ったものが生まれた話など今まで聞いたことがないけど・・・。
私がそう思っていると私たちの前方からミシェルが小さな女の子を連れてやってきた。
近くで見ると燃えるような赤毛の美少女だった。
「コウ王子遅くなりました。こちらが僕の義妹でミエと言います。」
ミエは最初驚いた顔でコウ王子を見ていたが義兄の言葉に慌ててドレスの裾を掴むとニッコリ笑って挨拶した。
「ミエ・エライ・ボーダーといいます。宜しくお願いします。」
「コウだ。」
コウ王子は私の手を握りながら答えた。
「コウ様ですね。」
ミエの呼びかけに私とデュークそれにミシェルがギョッとした。
「ミエコウ王子だ。」
ミエはキョトンとした顔で義兄が言った言葉を聞いていた。
どうやらなんで怒られたのか理解していないようだ。
「そのーまだ礼儀作法は勉強中でして申し訳ありません。コンラーダ侯爵令嬢。」
ミシェルは私に深々と頭を下げた。
「いいえ。」
私はあっさり許すと少し不快になったコウ王子に連れられて帰りの馬車に向かった。
遠くでミシェルが義妹を怒っている声が聞こえた。
馬車に乗り込むとコウ王子はもう彼女に興味がなくなったのか三か月後に王城で開かれる舞踏会に必ず出るように私を誘うといつものように侯爵邸の前まで馬車で送ってくれた。
私が開かれた扉から外に出ようとするとグイッと腕を引かれコウ王子の腕の中になぜか逆戻りした。
慌てて立ち上がろうとすると彼に顔を上げられ口づけられた。
「コウ様!」
私が真っ赤になって彼を見ると彼も熱い眼差しで見返して愛しているとそう囁いてくれた。
すぐにフニャリとなった私を抱き上げて馬車の外に連れ出すとそっと支えて立ち上がらせてくれた。
「三か月後を楽しみにしている。」
彼はそう囁くと馬車に乗り込んで去って行った。
私はそれをボウと見送っていたがその時楽しみにしていた三か月後は私にとって人生最悪の日となってしまった。
翌日もまた魔法学園に行って魔法の制御訓練や魔法試合を行ったがその時からいつもなら魔法薬でケガを治すはずなのがミエによる回復魔法でのケガの治療に変更となった。
それからは魔法学園に通う全員が教師の指示の元最初はミエに治癒されていたが、いつの間にか彼女はミシャルを含むコウ王子の取り巻きしか治療しなくなった。
そしてその頃からなんでか今まで毎日コウ王子の馬車で侯爵邸に送ってもらっていたのが一日、二日おきとなり数週間たつとまったくコウ王子と顔を合わすことがなくなってしまった。
それに加え休みには必ず届いていた贈物もここ二か月以上何も贈られて来なくなった。
何があったんだろうかと不思議に思っているうちに学園で顔を合わせればなぜか凄い形相でコウ王子に睨まれようになった。
それどころか、ふと気がつけば私は学園に通う人たちから無視され蔑まれるような態度をとられるようになっていた。
何があったの?
突然の異変に私は顔を合わせなくなったコウ王子に宛て手紙を書いた。
その翌日ちょうど舞踏会の当日に事件が起こった。
私が書いた手紙に答える為に来たというコウ王子と彼の周囲を警護する騎士を使用人に行って屋敷に入れた途端、なぜか彼の手で魔法封じの腕輪をされてしまった。
「コウ王子なんで?」
私が唖然とその腕輪を見ながら彼に問い詰めるとわけのわからない罪状が書かれた令状を見せられた。
「ミエ伯爵令嬢に行った嫌がらせそれにこの国の第一王子である私を騙した罪だ。」
「騙したって一体なにをしたって言うんですか?」
「まだシラを切るのか。お前が作って売り捌いた魔薬のことだ。」
「魔薬?」
なにを言っているんだろうか?
「魔薬とは魔法が元々ない人間に一時的に高い魔法力を与える薬のことですよね。もともと魔力がある私に何でそんなものが必要なんですか?」
そうだ私は元々高い魔法力があるのにそんなものを必要とするわけがない。
それこそその魔薬を一体誰に売ったというのか。
別に侯爵家も私もお金に困っているわけじゃないのに。
なんでそんな言いがかりをまことしやかに話すのだろうか?
そう思ってコウ王子を見れば彼は冷たい眼差しで私を睨むと
「お前は少しの魔法力をそれを使って膨大な魔法力したんだ。すでに調査は済んでいる。さっ連れて行け。」
そう言うと傍にいた騎士に命令した。
「コウ様信じて下さい。私はそんなことやっていません。」
私の釈明に彼は冷たい一瞥をくれると言い放った。
「お前に私の名を呼ぶことを許した覚えはない。」
彼はそう言うと帯剣していた剣を振り上げて私を打ち据えた。
肩に剣があたり嫌な音を上げた。
私は左肩から激痛が走ってその場に頽れた。
「早く連れて行け。」
騎士は頽れた私を無理やり立たせると囚人用の馬車に押し込めなぜか王城にある牢ではなく国境付近にある奴隷商人の元に連れて行かれた。
そこにはすでに両親がいて二人とも私と同じように両腕に魔力封じ腕輪を付けられていた。
一瞬両親と目が会ったが二人ともすぐに奴隷商人に連れられてそこからいなくなった。
夜になると両親の悲鳴が毎日聞こえた。
そのうち両親の声が聞こえなくなり奴隷商の話から両親がレイプ暴行され殺されたことが分かった。
私は思わず魔法を発動しようとしたが魔力封じの腕輪により何も出来なかった。
私がもっとあの時学園の状況を良く調べていたら、あんなことにはならなかったかもしれない。
彼を信用しないで疑ってかかっていれば両親を救えたかも知れない。
自分の馬鹿さ加減に唸り声を上げた所で目が覚めた。
「ゆめ?」
身体中にびっしょりと汗をかいていた。
私のあげた唸り声にびっくりした一花が部屋に駆けつけてくれた。
私は浴室に湯を張ってもらうように頼むとお湯に浸かりながらマイルド国の王太子夫妻について考え始めた。




