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21.衝撃

 公爵夫人の高笑いが続く中私たちは王妃様が待つ中庭にやってきた。

 中庭の真ん中には短時間にもかかわらず白いテーブルクロスがかかった木製テーブルがありそこには色とりどりのお菓子が置かれ王妃が紅茶を手に優雅にそこに座っていた。

 もちろん周囲にはたくさんの侍女や護衛の騎士がいた。

 私たちは侍女長に王妃様が座るテーブルの前に案内されそこに腰を下ろした。


 すぐに傍にいた侍女が香り高い紅茶とケーキを出してくれてそれが目の前に置かれた。


 ふと隣を見ると公爵夫人がまだ笑っていた。


「デルダあなたの気持ちもわかるけどそろそろその高笑いやめなさいよ。」


「すまない。いやぁ兄上にあんな悔しそうな顔をさせたかと思うとクックックックッ・・・。」

 今度は手を口に当てて肩を震わせながら笑いを堪えていた。


 王妃は諦めて私の方に視線を向けると色々と話しかけてくれた。

「それにしてもこのクッキーはほんとうに美味しくて病みつきになりそうね。」


 私は王妃様の感想に大満足だった。


 実はつい最近前世仕様の甘味を再現して自分の商会を通して売っていたのだが今回それをもっとバージョンアップさせたものを王家と推薦状を出して貰うラゲッティ商会に前もって送っておいたのだ。


「ありがとうごさいます。」

 私がお礼を言うと王妃様から王家御用達になったのだからもっとこのお菓子を買うように言っておくわと言質を貰えた。


 それ王妃様の提案自体は大した利益にはならないが王妃様のお声掛かりがあるかないかでは店を開く上では雲泥の差だ。

 私は内心ほくそ笑みながらも態度には出さずそれ以外は天気の話のようなたわいない話をしてから王宮を辞した。


 帰りは公爵家の馬車で送ってもらい最初に泊まった宿屋ではなく公爵家の別邸にその日は宿泊させて貰った。

 もちろん王家御用達商人の証明書を貰えたのでその日のうちに早速魔法で王都での出店の準備をするための人員をこちらに回すように伝言を飛ばした。


 二日後には危険なことがあるとまずいので一花たちにはこちらの出店応援の為にきた者を護衛して王都にやって来た四朗五郎それに加えて一郎にも彼女たちを護衛させ念の為全員に獣人だとわからない様に変装させてから先に港町に戻した。


 その後残った私と次郎三郎それに応援にきた商会の数名で手分けして実地調査を行い王都の高級商店街と庶民の商店街が並ぶ大通りが交わる所に我が商会の王都一号店を開店した。

 開店させた店の内容はこの辺りにない女性向け甘味を揃えた前世で言う喫茶店とその隣にドレスなどの衣料品と小物を扱う店を出した。


 これらの衣料品は王都に大勢いる中間階級をターゲットにしたものでそんな店を捜していた庶民じゃないけど貴族でもない人たちに大いに受けた。


 もちろん甘味を扱う喫茶店は王妃様にも献上しているお菓子があることが広まってあっという間に王都中の女性を虜にした。


 これを足がかりに5年ほどかけ様々な商品展開をしたお陰で5年後の現在はなんとあのラゲッティ商会と肩を並べるほどに成長させることが出来た。


 やっと復讐するための足掛かりを築くことが出来たのだ。

 私がそう思った時運命は非常に皮肉な場面を用意して寄越した。


 それはある晴れた日に衝撃の事実として私にもたらされた。


 私は王家御用達商人の証明書を貰った為約束通り宰相閣下の嫡男であり魔術師長であるヴォイに数日おきに漢字を交えた魔法を教えに王宮に通っていた。


 今日もその日で王宮に届け物をした後魔術局に出向いてヴォイたちに魔法を教えた。


 ちなみに最初はヴォイ一人に教えていたのだが気がついたら魔術局にいる上級魔術師全員に教えることになってしまった。


 そんなこんなで魔術局で漢字を交えた魔法指導をしているとなぜか侍従が私を呼びに現れた。

「シロ様いらっしゃいますか? 宰相閣下が御呼びです。」


 魔力生成をしていたヴォイが手を止めると訝し気に顔を上げた。

「あら何かしら。」


「そうですね何でしょうか?」

 ヴォイの隣で私が教えた漢字で魔方陣を描いていた副魔術師長もそれを止めて振り向いた。


 私は彼らにそのまま練習を続けるように言うと呼びにきた侍従について長々と続いている王宮の廊下を宰相室に向かった。


 大分歩いた所にある宰相室に着くと侍従が宰相室を警護していた兵士に私の名前を告げた。

 すぐに中から返事があり私はそのまま宰相室の中に足を踏み入れた。


 そこには輝く黄金の髪をした美麗顔の宰相閣下とどこにでもいそうな平凡顔な文官がいた。

 私は軽く礼をすると宰相に勧められるままソファーに腰を下ろした。


「すまんな忙しい中。少し重要なことがあってここに来て貰ったのだ。」


「重要なこと?」


 宰相閣下は横にいた平凡顔の文官に視線を向けた。


 平凡顔の文官は軽く頷くと私に手を差し出した。

「私ノーマンと言いましてマイルド国の外交を担当しております。」


「マイルド国!」

 思わず叫んでしまった。


 いかんいかん。

 落ち着け私。

 取り乱すな!


 私はそう心に念じるとそっと息を吐き出しどういうことかと目線をノーマンに向けた。


 ノーマンは笑顔でマイルド国に行った時に会った王太子妃の美しさについて延々と語り出した。

 先程から大分たったが王太子妃の美しさ以外話の進展がなにもなかった。


 いい加減焦れてくると執務机で執務をしていた宰相閣下が大きな咳ばらいをするとノーマンを睨み付けた。

「いい加減にしろ!」

 なまじっか美麗顔の宰相が顔を上げて放った言葉でノーマンはビクッと体を震わすと慌てて本題に入った。


「申し訳ありません。ようは私が持って行ったシロ殿が経営されます商会のお菓子を大変気に入られた王太子妃様がストロング国にいらっしゃるときにはあの噂の生菓子を食べたいと仰せられので私としましてはぜひあの喫茶店でそれを食べ差せて上げたいと思ったわけでございます。」


「えっとつまりマイルド国の王太子妃夫妻がストロング国に来られるんですか?」


「はい。」


 えーあの憎っくき二人が私の目の前に現れる。


 ギリッ 


 くびり殺してやる!


「あの・・・シロ殿どうされました?」

 物凄い顔つきになった私を見てノーマンが不思議そうに声をかけて来た。


 いかんいかん。

 しっかりしろわ・た・し。


 私は気合を入れて理性で思考を止めると今聞いた話で感じた懸念点を上げた。

「あのー生のお菓子を用意するのは可能ですが仮にもお二人が街に出るのは警備上いかがかと・・・。」


「生菓子を用意することは可能なんだな。」

 宰相閣下は私の言葉を繰り返した。


「はい最近店に来るのではなく屋敷で生菓子を食べたいという要望が多くなりましたので配達する際の保冷技術を開発しまして王都内でしたら出来立てと変わらないものをお届け出来ます。」


「うむならそうしよう。」

 私は宰相閣下の言葉に隣でそれでは王太子妃様がと喚くノーマンを無視し閣下に肯定の返事をすると宰相室を後にした。


 あれから六年。

 今だにあの時のことは忘れていない。

 私は血が出るほど手を握り込むと通路で何度も深呼吸してから魔術局に戻った。


 私が魔術局に顔を出すとどうやらかなり顔色が悪くなっていたようで心配した魔術局の人たちに今日は帰った方が良いと言われたのでその言葉をありがたく受け取って王宮を後にした。


 そしてすぐに王都にある自分の部屋に戻った。

 馬車から降りて裏から建物に入ると青白い顔をした私を見た一花にベッドに直行させられた。


 ちなみに一花たちがここにいるのは全滅していたと思われていた獣人族の女性たちだがその後東へと貿易を広げたラゲッティ商会によって東国にはまだ多数の獣人の女性が存在していることがわかったためだ。


 今では多くの獣人の女性たちがストロング国にも出稼ぎに来ていて一花たちも大手を振って王都で仕事が出来るようになった。


「大丈夫ですが御主人様?」

 心配そうに私に毛布を掛ける一花に頷くと私はベッドに横になった。


「ありがとう少し休むわ。何かあったら起こして頂戴。」

 一花は頷くとサイドテーブルにお水を置いて部屋から下がっていった。


 とにかくあいつらの事を考えるのはもう少し休んだ後にしよう。

 そう思って私はそのまま目を瞑った。


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