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18.王都

 翌朝、私たちは宿に残るみんなに見送られながら王都に向かった。


 御者台には一郎と次郎が座った。

 三郎は交代に備えて馬車の後部で毛布に包まって休んでいた。


 マカは馬車が走り始めた途端座席に座りながら馬車の中をキョロキョロ見回した。


 そんなに珍しいだろうか。


 一通り見回した後彼女は座っているクッションをプニプニと触りながらすごい勢いで話し始めた。

「すばらしいですわシロ様。私色々な馬車に今まで乗りましたがこんなに乗り心地が良いものは初めてです。」


「そうありがとう。」

 私がそっけなく答えても気にするふうもなくマカはさらに捲し立てた。


「それにしてもこの馬車の揺れ具合のなさはどうなっているんですか?魔法でしょうか?」

 彼女は何度も座り直しては揺れ具合を確認していた。


 実は前世を思い出した後に乗ったこの世界の馬車があまりにも揺れて気分が悪くなった私は、密かに鍛冶屋に前世にあったスプリングを作成させ、それを自分が運営する商会が使う馬車に全て装備させたのだ。


 お陰で乗り心地だけでなく貴重品の破損がぐんを抜いて少なくなった。


 この馬車にもそれと同じ装備がついていただけなのだがそれを彼女がいたく気に入って今も絶賛中だ。


 そんな彼女の賞賛の中馬車はグングンとスピードを上げていた。

 もちろんスピードを出しても揺れは少なく快適だ。

 この調子なら王都まで通常の半分の時間で済みそうだ。


 私は隣で飽きもせず”すばらしいわ”を連発するマカの声を聞きながらいつの間にか眠っていた。



「御主人様!」

 一花は私をゆすって起こした。


「一花!」

 私が慌てて身を起こすとすでに野営の準備は終わり良い匂いが辺りに漂っていた。


「ごめん寝てたみたい。」


「大丈夫ですよご主人様。もう用意は出来ていますから。」

 一花に言われて周囲を見ると食事の用意も整っていた。


 すでにマカは座って私が来るのを待っていた。

 私は慌てて席に着くと全員がやっと食べ始めた。


「マカさん起こしてくれればいいのに。」

 私が恨みがましく言うとマカは逆にニッコリ微笑んで話し出した。


「疲れている時は休むのが一番ですよ。それにシロ様のお蔭でここまでかなり快適に過ごせましたので私はそれだけで十分満足ですわ。実をいいますと馬車での移動は物凄く苦手で今回はかなり覚悟していたんですがこんなに快適にすごせるとは思いませんでした。ぜひ、次に私が馬車を必要な時はシロ様にこの馬車を貸して、いえぜひ同じものを買い取らせて下さい。」


 私は彼女の要求に揺れない馬車の需要が自分が考えていたより大きいことに気がついた。

 ならこの機会に彼女を通してこの馬車を売りに出すのも手かも知れない。


「そんなにマカさんが言うなら新しい馬車をもう一つ作りましょうか。なんなら細かい注文も受け付けますよ。」


 私がそう言うと満面笑みを浮かべたマカが断言した。

「ありがとうございます。王都に着いたらすぐに注文をさせますわ。あっそうそう代金は夫のカンバーバッチ宛に請求して下さい。」


「カンバーバッチってラゲッティ商会宛じゃないんですか?」


 意外な言葉に私が疑問を口にすると

「先の海賊騒ぎで私の心臓を縮ませたんですからそれくらいの贈り物を強請っても問題ありませんわ。」

 そう言って笑う笑顔の彼女が私は恐ろしかった。


 背後に何故か黒いオーラが見える。

 この人を怒らすのはやめておこう。

 私はそう肝に銘じた。


 私たちはそれから食事を終えるとその日は女性人が馬車の中で一郎たちが馬車の外で野宿した。


 そうして当初予定していた日程の半分で私たちは王都に辿り着いた。

 王都に近づくにつれ周囲は華やかさを増し賑やかになった。


「すごいですね御主人様。」

 一花と二花が窓から外を見ながら目をキョロキョロさせていた。

 三花は疲れたのか座席に持たれながら船を漕いでいた。


 確かにマイルド国の首都など田舎に見えるくらいの華やかさに私も感心した。


 マカは慣れているらしく窓を見ながら御者をしている三郎と次郎にラゲッティ商会までの道のりを細かく指示していた。


 程なくして馬車は高級商店が並ぶ通りの一角に到着した。


 一郎がすぐさまドアを開けると階段を出して手を差し出した。


 マカは一郎が差し出した手を取ると通りに降り立った。

 商店のドア越しにそれを見つけたラゲッティ商会の従業員が数名慌てて商会の中から飛び出してきた。


「マカ奥様お帰りなさいませ。」

 若い従業員がマカの前に出てきて挨拶した。


「カンバーバッチは?」

「ただいま・・・。」

 若い従業員が答えようとした途端商会の中から男が飛び出してきた。


「マカ!」

「カンバーバッチ!」

 二人は商会の前でしっかりと抱き合うと熱い口づけを始めた。


 私たちは熟年夫婦の熱い抱擁と甘い口づけを長々と見せつけられた。


 いつまでやってるんかい!


 全員が心の中でそう思った。

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