13.衝撃の事実
六花の悲鳴に驚いたレッドが主人であるダン王子を引き剥そうとした。
「ダン王子、手を離して下さい。」
六花の両脇にいた七花と八花も彼を引き離そうとしたが出来なかった。
なんだこのフワフワした感触は!
たまらん。
ダン王子は六花の耳をさらにフニフニと触った。
「ダン王子いけません。」
レッドの手が六花のもふもふ耳からダン王子の手を離そうとするが彼の手はくっついたように離れなかった。
騒ぎを聞きつけたマカが奥の廊下から現れた。
「ダン王子、止めなさい。」
マカの厳しい声が屋敷中に響き渡った。
「マカ?」
ダン王子は唖然とした顔で廊下から現れた中年の女性を見た。
「「マカ様!」」
レッドとヴォイもびっくりした顔で彼女を見た。
「なんでマカがここにいる?」
怒鳴られながらもダン王子の手は六花の猫耳を触っていた。
六花の目からは涙があふれ床を濡らしていた。
「ダンお・う・じ。」
それを見たマカが鬼のような形相でダン王子を睨み付けた。
本気で怒っているマカにビクッとなったダン王子がやっと六花の猫耳を離した。
すかさず六花のことを両脇にいた七花と八花が肩を抱き寄せて慰めた。
「「大丈夫だから六花。」」
それを見たマカの顔がさらに険しくなった。
「ダ・ンお・う・じ。」
ひぃー
ダン王子の後ろにいたレッドとヴォイが思わず後ろに一歩下がった。
その分マカが前に出る。
一色触発の時奥から黒髪黒目で平凡顔な少女が現れた。
「何があったの?」
「「ご主人様!」」
泣いている猫耳美少女とマカが一斉に振り向いて私を見た。
私は異様な雰囲気に一瞬足がすくんだが気を取り直して二人に訳を聞いた。
二人に訳を聞いて六花に乱暴を働いたという男を見た。
男は偉そうな態度で玄関に立っていた。
傍にいる赤髪の男が私を見るとサッと男の前に出て代わりに頭を下げて謝罪した。
「主が無礼を働き申し訳ありません。」
どうやらこの銀髪の男は高貴な身分のようだ。
さて、どうしたものか。
私がどうしたものやらと試案していると彼らをここまで案内してきた五郎が玄関から中に入ると私に耳打ちした。
(御主人様。ここでお客様のお相手をするのは他に宿泊しているお客様のご迷惑になります。一旦お部屋の方に案内した方がよろしいのではないでしょうか?)
五郎のもっともな意見に私は彼らが予約している離れに案内するように言い付けるとマカに目配せした。
マカは小さく頷くとスッと脇に避けた。
すかさず五郎が玄関で草履を脱ぐと彼らに履物を脱ぐように説明すると先に立って彼らを案内して廊下の奥に消えていった。
私はそれを見送った後八花に六花を連れて行って休ませるように言うと七花に厨房に行って彼らに夕餉を運ぶように言いつけた。
「七花。」
私は厨房に向かおうとした七花を呼び止めた。
「はい御主人様?」
七花かわいらしい猫耳をピンとすると私の声に耳を傾けた。
「一応夕餉を運ぶときは一人でしないで今回は次郎と三郎にも手伝ってもらいなさい。」
私の言いつけに七花は頷くと厨房の方に消えていった。
「ご主人様。」
私が七花を見送った後後ろにいたマカがおずおずと私に話しかけてきた。
私は頷くと玄関脇にある小部屋にマカを連れて入った。
入った途端に魔法で防音結界を張った私は恐る恐る彼女に先程から気にかかっていたことを聞いた。
「あの高貴な方。まさかストロング国の第一王子なんてことはないわよね。」
私がここに来る途中屋敷中に響く声でマカが叫んだ名前がこの国の第一王子と同じ名前だったのだ。
「恐れながらこの国の第一王子です。」
私がマカの言葉に驚愕していると彼女はなんでか私に謝ってきた。
「ご主人様、大変申し訳ありませんでした。」
「えっとなんであなたが謝るの?」
いきなり深々と頭を下げて謝るマカに私は慌てて彼女の手を取ると頭を上げるようにいい理由を話すように促した。
「実は私腰を痛めて王宮を辞去するまでそこでメイド長をしておりまして、さらに昔第一王子の乳母をやっておりました。」
「第一王子の乳母!マカさんって何者なの?」
私は彼女の衝撃の告白に叫んでいた。
第一王子の乳母をやるくらいだ。
平民の訳がない。
「あらいやですわ。私の生まれは平民ですよ。」
私は彼女を睨み付けた。
第一王子の乳母が平民である訳がない。
彼女は私の睨みに諦めたような顔で溜息をつくと事情を話してくれた。
「たまたま私が結婚した相手が伯爵で夫が”王の親友”だっただけですよ。」
とんでもない爆弾発言をマカはサラリと言ってのけた。
「それでなんで乳母なんですか?」
あらまだ追求しますか?
そんな表情でマカが私を見た。
そりゃ追及するでしょ。
私はマカをじっと見て先を促した。
「たまたま王の正妃が昔学園で仲が良かった人物で心労で彼女が倒れた時に是非にと言われ仕方なく乳母をやっただけですわ。なので先程のダン王子の暴挙は私の躾に問題があったためです。本当に申し訳ありません。」
マカはまた深々と頭を下げた。
つまり私の目の前にいるこの人物はその辺にいるおばちゃんじゃなく第一王子の母親代わりであり正妃様の親友ってこと。
全然たいしたことあるじゃない。
あれ、ちょっと待って。
それじゃスティーヴンスって貴族。
いえちょっと待ってスティーヴンスのファミリーネームって・・・。
「ラゲッティ商会!」
私は叫んでいた。
「あらまあ。気づかれちゃいました。」
「気づかれたじゃないわ。ラゲッティ商会って言ったらストロング国で一番影響力の大きい・・・。」
私は呟きながらマカを見た。
彼女はなんで私の所で働いているの?
「簡単ですわ。主人と息子を助けていただいたお礼ですわ。」
「えっ主人って?」
「あら言っておりませんでしたっけ。カンバーバッチって私の主人ですわ。」
えぇーあの船長。
マカさんの夫。
えっじゃあの髭面親父は貴族。
私は驚愕の事実に硬直した。




