01.序章
私はボロボロのまま荒野に放り出された。
今までのぬくぬくとした生活から一転何もない荒野に置いてけぼりだ。
しかし、不幸中の幸いだったことは私が飛びぬけた容姿もしていなかったので、早々と奴隷商人に引き渡されることで両親のように毎晩牢番に乱暴をされ殺されることから免れられたことだったのかもしれない。
でも結局体も丈夫と言うほどでもなかったので砂漠を横断中に馬車から放り棄てられた。
今は体に力が入らずただ日に照らされて死ぬのを待つばかりだ。
頭上にハゲタカが死肉を食らおうと旋回していた。
そこになんでかどこからか轟音が響いてきた。
雷だろうか?
砂漠なのに珍しい。
私がそう思ったところ俄かに空が掻き曇り大粒の雨が降り出した。
私はボロボロの体を俯せから仰向きに変え口を大きく開けた。
そこに大粒の雨が口の中に入ってきた。
生き返るようだ。
ここ何日もまともに水を貰えていなかった。
商人たちは逃亡されない様に奴隷にはかけらの水だけを飲ませ馬車の中に押し込んでいた。
お陰で極限まで体力の落ちた私は身動き出来なくなってこの砂漠を横断中に捨てられた。
雨は降り続き今では小さな水たまりが徐々に川のようになっていた。
ふと気がつくと体がその水に流されて移動していた。
そのうちこの水で砂漠なのに溺れ死ぬのか。
そう思っていた。
そこに運がいいのか悪いのか大きな巨木が流れてきた。
私は最後の力を振り絞って流れに浮いている巨木の上によじ登る。
ここで体力がなくなって私の意識は飛んだ。
夢を見ていた。
どこか懐かしい夢だった。
そこでは自分は今の世界とは違う世界で生きていた。
そこは自由で何にも束縛されない世界だった。
私はその世界でいろいろな名のゲームを楽しみ漫画と言う読み物に夢中になった。
そこでは主人公が思い描くことは何でも可能だった。
実際にはその世界はこの世界とは違い魔法がなかったのでそれらすべては空想だったが逆にその世界には技術があってエネルギーでもって魔法のようなことを何でもやっていた。
なんで死ぬ間際にこんな夢を見ているんだろうか?
私は目を覚ますといまだに自分の両腕にグルッと巻かれている魔力封じの腕輪を見た。
これさえ外せれば父や母を守ってあの王国から逃げることも出来たのに・・・。
自分の婚約者である第一王子の言葉を信用し油断した挙句父や母と共に捕まり無実の罪を着せられて身分も領地も全て没収されてしまった。
私は甘ちゃんだったのだ。
ボンクラだった。
あの甘いマスクに騙された。
黒幕の一人が第一王子だとは見抜けなかったのだ。
今更か・・・。
私は自分の両腕を見上げた。
今夢を見ていた世界の漫画の中ではこんな枷など”解除”の文字を空想するだけではずしていたっけ・・・。
それはもちろん空想の世界でだが・・・。
私は不安定な巨木の上の小さな窪みに仰向けになり両腕を目の前に付き出してぼんやりした頭でその時の”解除”の文字を思い浮かべながら魔力封じの腕輪を見た。
その途端一瞬にして魔力封じの腕輪が熱くなった。
瞬間ボトリと音を立ててそれは両腕から外れた。
思わず目を見開いて久々に体に蘇る魔力の流れを感じた。
体は自然と大気にうねる雷の電撃を感じてそれを魔力に変化してくれた。
しばらくたつと体全体に力が漲ってきた。
起き上がると今追放された自国を振り返った。
この力を使って第一王子の部屋に瞬間移動して彼を殺そうか?
一瞬そう思ったが第一王子は殺せてもそれは黒幕の一人を殺したにすぎずそのすぐ後に王宮の近衛兵や魔術師たちに見つかって今度こそ私は両親と同じように殺されるだろう。
それじゃあまりにも、あまりにも両親が浮かばれない。
力を付けよう。
そして必ず自分たちに罠を仕掛けた人間に復讐して見せる。
私は雷が激しく光る空に向かって大きく拳を突き上げ叫んでいた。