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【目覚め】二

少女は小屋を出て色んなところをさまよった。

小屋を出るまでに、自分は数年を無駄に費やしてしまった、そう後悔した。

しかしそういった感情も、世界の広がりに目を奪われて薄れていく。


世界には大小様々な国が出来つつあることを知った。国に含まれない、まだ町とも言えないような、ただの集落もたくさんあった。

また、色々な種族が集落や国を作っており、種族の違いが人々に争いを招くこともあることを学んだ。


少女はある小さな人間の集落に立ち寄った。


集落に近づいた少女に、見張り役として立っていた男が声をかけた。

手足が細く、長く旅を続けて来たであろう少女。ところどころ煤けた粗末な服を着て、顔には疲れが浮いている。見張り役の男の目には、さも惨めに映ったろう。

飲み水を望んだところ、男は集落の中に招き、篤くもてなした。

少女は感動した。一族の里では、優しくしてもらうどころか、構ってもらったことすら思い出せないくらいなのだ。

その集落の人々は、最初に会った男の他にも、親切な者がたくさんいた。人間族と魔族が混じって住んでいるようなところだった。彼らは種族の違いによって差別や争いをするでもなく、皆仲良く暮らしているようだった。

少女は集落にしばらく留まることになった。

水を与えられ、着るものを渡され、住むところを宛てがわれ、食べ物も「余ったから」と持って来てくれる。


少女は思う。何か返すものはないものだろうかと。自分は色々してもらった。

このとき少女の中には、自分が持つ魔力で何かをしようという気はなかった。一族が滅びるときに忘れ去られるほど力の無い自分なので、細々とした些細な——畑の手伝いをしたり、赤子や子供の子守りをするといった——事をして恩を返そう、そう思っていた。

集落の人は、それで喜んでくれた。少女は初めて自分を必要とされ充足した思いを感じた。



そうしてしばらく過ぎた頃、集落の人々は少女に違和感を感じるようになった。

いつまで経っても成長しない子供。子供の身体に釣り合わないような―――絶大な魔力。


人々は恐れた。抑えることのない、その身体からあふれ出る魔力に。

人々は訝しがった。黒髪黒目という、人間族にも魔族にも滅多に見られない(なり)に。黒髪というものは人間族も魔族も珍しいものではない。また、黒目というものも珍しいものではないのだ。黒髪と黒目の組み合わせが珍しいものとなり、ややもすれば奇異なものにうつる。


少女も人々の変化に気づいていた。表面上はにこやかに接するその裏に、自分への畏怖、恐怖が潜んでいる。

少女は焦った。せっかく出来た自分の居場所。邪険にされることなく、優しい人々に囲まれ、誰かの役に立つと言う充足感も得られる、そんな場所。

失いたくなかった少女は、力を振るおうとした。……それが、裏目に出るとは知らずに。




どれくらい歩いただろう。

ただひたすら、街や集落といった人が集まっていそうなところを避けて歩いてきた。

―――結局人を傷つけてしまった。

自分に力があることに気付いた。その力で他の人の役に立てると思った。だから力を振るった。

力を誇示したかったわけではない。役立たずだと思っていた自分が少しでも手助けできれば良いと思っていた。

だが結局、失敗してしまった。



原始の魔物と呼ばれるそれ。

原始の竜族ほどでないにしろ、力ある人や魔族でさえ、適わない。太古に生まれでたもの。

姿を形容するのは難しい。複数の獣を組み合わせたようであり、植物を連想させるようであり。

それは原始の力を振るう。


それが、集落を襲った。

集落に訪れたときに招き入れてくれた男がまず、やられた。彼は見張りに立っていたため、一番の餌食にされたのだ。

住む事を許してくれた集落のまとめ役も。食べ物を持って来てくれた女性も。

次々に屠られ、片手では足りなくなったとき、幼い女の子に襲い掛かった。



―――あの女の子は大丈夫だろうか?

その傷の深さを思い出し、頭を振る。


少女は女の子の前に飛び出し、必死に攻撃を防いだ。無我夢中だった。原始の魔物の攻撃を弾き、殴り飛ばし、蹴り上げ、握り合わせた両手を振り下ろした。

気が付いたら、原始の魔物は動かなくなっていた。既に原型をとどめないそれ。


やった。


勝利に歓喜した少女は、笑みを浮かべたまま周りを見回し―――凍りついた。

集落は嵐が来た後のように建物が倒壊し、人々は傷を負い倒れ伏していた。離れたところから物陰に隠れ、こちらを窺っている者達も、恐怖に顔を歪ませている。


誰がやったのか。


原始の魔物はやっつけた。それが傷つけた集落の人々は両の手で余る。建物だって原始の魔物の通り道になった場所がつぶれていたくらいで、……。


なぜ…、とつぶやいた少女の耳に、女の子の呻き声が聞こえた。女の子の左肩から右わき腹まで袈裟がけに傷が開き、血があふれ出ていた。



―――大丈夫だ。あの後すぐに傷を塞いだ。命の脈動を確かに感じたし、あのまま安静にしていれば助かる。みんなにも、傷を塞ぎ力を注いだし。…助かる、はずだ。……助かると、信じたい。



原始の魔物以上の被害を集落に与えてしまったという事実。

自分ではない、原始の魔物は既にあれほどの破壊を行っていたはずだという願望。

そんな思いに雁字搦めになりながら、どこをどう歩いていたのか、少女はいつの間にか森の中にある丘の上に立っていた。見晴らしの良いそこからは、森とその周辺の草原、そしてけもの道よりは若干広いだろう道のその先に―――あの、集落が見えた。


初めて集落に来たときの、質素だが温かみにあふれていたそこは、今はもうない。

まるで広場にガラクタを集めて捨てたような。




「おまえのせいだ。住むところを与え、行く場所のないおまえを拾ってやった恩を忘れ、おまえは傷つけた。」

「おまえはやっぱり価値がない存在だ。おまえはもう人と触れ合う資格がない。」


そんな声が聞こえた気がして―――少女は意識を手放した。






……

ひきこもりニート→ニート(少し仕事する)→穀潰し→ホームレス

……

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